6月21日 ちぎれた染色体を保護する仕組み(6月14日 Nature オンライン掲載論文)
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6月21日 ちぎれた染色体を保護する仕組み(6月14日 Nature オンライン掲載論文)

2023年6月21日
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ずいぶん昔(2015年6月:https://aasj.jp/news/watch/3578)、クロモスリプシスという、染色体の一部が砕けてそのまま維持される現象のメカニズムを調べたハーバード大学からの論文を紹介した。勿論ほとんどの場合ガンに伴う染色体異常で、この結果遺伝子の増幅、欠損、転座など大きな構造変化が進む。

しかし考えてみると、全体の染色体から離れてしまうと、娘細胞にも正確に分配できなくなるし、テロメアなど染色体を守るメカニズムから外れてしまって、DNA損傷も増えており、細胞にとってはあまり好ましい状態でないはずだ。それでもクロモスリプシスを起こしたガン細胞が他の細胞を押しのけて増殖できるのは、この状態の染色体を保護する仕組みがあると考えられる。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、染色体から砕けて出来たミニ染色体を保護する仕組みについて明らかにした研究で、6月14日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Mitotic tethering enables inheritance of shattered micronuclear chromosomes(分裂時に砕けた小核染色体を拘束してまとめることで遺伝が可能になる)」だ。

まず、分裂時に染色体と分裂糸の結合を弱めたり、あるいはトポイソメラーゼを阻害して分裂時に染色体をちぎれるようにしたり、あるいは動原体が出来ないY染色体を誘導したりして、細胞内にちぎれた染色体断片が発生するようにして観察している。ちぎれた染色体ではDNA切断が起こるため、それを修復するためのリン酸化ヒストンの集積がおこり、これを指標に他の染色体から区別して観察できる。

すると、ほとんどの細胞でちぎれた染色体が一つにまとまることがわかる。このとき、DNA合成が終わって分裂期に入るタイミングを捉え、ちぎれた染色体に集積するヒストン以外の分子を探索し、損傷部位を認識するMDC1分子とともに、トポイソメラーゼ結合タンパク質1、そしてそのパートナーでちぎれた染色体をつなぎ止める役割を持つCIP2Aが存在することを明らかにした。すなわち、DNA損傷部位を持つ染色体をまとめておく仕組みが働いていることを明らかにしている。

次に、薬剤でそれぞれの分子が分解されるような細胞を作成し、細胞周期の様々な時点でこれらの分子を急速に除去する実験を行い、G2期から分裂期にかけてこれらの分子が失われると、ちぎれた染色体はまとめられず、バラバラに分散することを明らかにする。また、細胞にとってちぎれた染色体がまとまって存在することが生存に有利であることを明らかにしている。すなわち、まとめて一つの娘細胞に受け渡すことで、生存に必要な遺伝子全体を少なくとも一つの娘細胞には受け継がせることが出来る。

また全ゲノム配列決定により、まとめられない場合染色体の構造変化が急速に進むことも明らかにしている。そして最後に、ガンのデータベースを調べ、クロモスリプシス(ゲノム配列から推察される大きな染色体構造変化)が起こっているガンではTOPBP1やCIP2A遺伝子の発現レベルが、正常細胞と比べて高まっていることも明らかにしている。

以上が結果で、希ではあっても分裂時にちぎれてしまった染色体断片を保護する仕組みが、ガンではさらに上昇することで、より大規模なクロモスリプシスを許容し、さらには増殖優位性に使っていることが明らかになった。

CIP2Aなどは正常細胞では発現が低く、また抑制しても細胞増殖を続けられることから、クロモスリプシスが始まったガンでは、個の分子を阻害することでより大きな破綻を誘導して殺せる可能性もある。細胞学の極致と言える実験の数々はいずれにせよ勉強になる。

カテゴリ:論文ウォッチ