2015年、George Yancopoulous率いるリジェネロンのグループは、筋肉が骨に変わるFOPで見られる突然変異型BMP受容体が、通常ならシグナルとして認識しないアクチビンに反応すること、そしてマウスFOPモデルでアクチビンに対する抗体を用いてFOPの進行を止めることが出来るという、まさにプロの論文を紹介した。この論文を紹介したとき、患者さんに使えるアクチビン抗体を開発して治験が行われることは間違いなく、FOP治療に光が差したと紹介した。
今10年近くを経て、同じリジェネロンからアメリカ、イタリア、フランス、ポーランド、カナダ、そしてオランダなど8カ国の患者さんをリクルートした第2相の治験結果が9月28日Nature Medicineにオンライン発表された。タイトルは「Garetosmab in fibrodysplasia ossificans progressiva: a randomized, double-blind, placebo-controlled phase 2 trial(進行性骨化性繊維異形成症にたいするGaretosmabの効果:第2相二重盲験無作為化治験)」だ。
最初の一期については、治験は統計学的にほぼ完全な方法で行われている。極めて希な病気なので、44人の患者さんを集めるのは大変だったと思う。特に、最初は小児ではなく、成人に限って治験を行っているので、多くの国が参加しても44人のリクルートが精一杯だったのだと思う。
抗体治療は4週間に一回点滴で行っており、28週目で評価している。一期では評価基準を全体の骨化巣の増減として治験を申請しており、実際コントロールと比べ24%減少が見られたが、人数が少ないため統計学的に有効と認められなかった。しかし、新しい骨化巣が見られないなど、効果があると実感したため、次のフェーズでは同じ患者さん達全員に抗体治療を行い、新しい骨化巣が発生するかどうかに絞って評価している。
結果は予想通りで、新しい骨化巣の出現で見ると、最初の二重盲験無作為化治験でも29対3と素晴らしい効果が得られている。また、既に存在する骨化巣の活性を調べるPETでは強い抑制が見られている。
その後希望する全ての患者さんに抗体治療が行われ、最初の治験終了時と比較した新しい骨化巣の出現をモニターすると、ほぼ完全に抑制できることがわかった。また、骨化のシグナルとして患者さんが経験するフレアーと呼ばれる炎症もほぼ完全に抑えることに成功している。
以上の結果は、既に形成された骨化巣への治療効果は少ないが、アクチビン抗体は新しい骨化をほぼ抑えることに成功したと結論できる。
さて、驚くのは、この治療とは全く無関係に転倒などの事故で5人の患者さんが亡くなっていることだ。改めてこの病気の深刻さを実感する。それぞれについて、治療との関係が調べられており、死亡については進行した患者さん特有の問題と結論している。
その上で副作用を調べると、間違いなく副作用と結論されるのが、鼻血の多発と、皮膚の感染で、50%ー80%の患者さんに見られる。不思議なのは、健常人を対象に安全性を調べた第一相治験では同じような副作用が全く見られなかった点で、副作用もFOPの変異が関わる可能性がある。例えば、普通は使わないアクチビンに依存性の白血球が分化し、これが抑えられることで感染が起こるなどの可能性だ。しかし、死亡例を除くと、全ての患者さんが現在も治療を続けているとのことだ。
また、アクチビンを抑制すること自体が、例えば正常の骨の代謝に影響が出るかを調べると全く影響はなく、骨形成の局所ではアクチビンの作用は気にする必要はなさそうだ。
結果は以上で、今後の問題として、長期にアクチビンを阻害して発生する問題を注意深く調べることが重要だ。そして何よりも治療対象を広げられるかが重要になる。例えば骨化が始まりFOPと診断されたあと、何歳からこの治療を始めれば良いのかという問題だ。勿論波新しい骨化が完全に抑えられるとすると、早ければ早いほどいいのだが、やはりアクチビンを抑える影響を知る必要がある。もう一度マウスを用いた前臨床試験も含め徹底的に研究が必要だ。また患者さんの数は少ないので、患者さんと会社が一体となった将来計画が重要に思う。
いずれにせよ、ついにFOP進行を止める方法が示された。素晴らしい。