10月25日 DNA二重鎖切断部位のクロマチンは核内で集まることで修復を促進する(10月18日  Nature オンライン掲載論文)
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10月25日 DNA二重鎖切断部位のクロマチンは核内で集まることで修復を促進する(10月18日  Nature オンライン掲載論文)

2023年10月25日
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DNA は様々な原因で切断されるが、その部位に大きな修復分子複合体が速やかに形成される。この修復分子複合体の速やかな形成には、クロマチン構造により修復部位に目印をつける反応が重要で、この主役が H2AXヒストンのリン酸化で (γH2AX)、修復部位を中心に拡がることで修復部位をまとめ、相分離を介して様々な分子を集合させることが知られている。

今日紹介するフランス・トゥールーズ大学からの論文は、γH2AX が拡大することによるクロマチン変化と、核内でのゲノムのトポロジー変化の関係を詳しく調べ、DNA 切断カ所が新しい核内ドメインを形成し、修復だけでなく、修復に必要な分子の転写を統合していることを示した研究で、10月18 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Chromatin compartmentalization regulates the response to DNA damage(クロマチンの領域化がDNA損傷反応を調整している)」だ。

この研究では、タモキシフェンを投与すると制限酵素が核内に移行し決まった箇所を切断する細胞株を用いることで、切断箇所を限定できるようにし、そこで起こるクロマチン変化とともに、切断場所の核内トポロジー (TAD) が解析できるようにしている。

TAD は何度も紹介しているように、立体的に隣接するゲノム領域を特定するための Hi-C と呼ばれる方法で検出できる。勿論、TAD はダイナミックだが、DNA 損傷が起こると、その部位は多くのゲノム領域と相互作用を起こし始めることがまず明らかになった。

この TAD の変化は、最初に損傷部位にリクルートされる ATM 分子に依存しており、普通なら隣接しない損傷部位同士が、しかも染色体を超えて相互作用することも明らかになった。すなわち、修復部位が集まる核内のトポロジードメインが新たに形成されていることが想像される。

様々な解析から、この現象は損傷部位が cohesin 分子の働きで新しいループを形成し、そこに集まった修復分子が一種の相分離を起こして、そこに新しい修復分子が集まったドメインが形成されることを示している。

ここまででもうまく出来ていると思うが、さらに驚くのはこの修復のために集まったドメインを調べると、なんと修復に必要な遺伝子のいくつか、特にガン抑制遺伝子として知られる遺伝子が集まっていることを発見する。これらの遺伝子由来の RNA は R-ループと呼ばれる構造を形成する特徴があり、転写時にこの R-ループを目印に、修復ドメインに集められることがわかった。この修復ドメインは γH2AX が結合したオープンなドメインで、その結果ここに集まったゲノムの転写は促進されることも示している。

結果は以上だが、まさに修復に必要な要素を、修復箇所に集めて効率を上げるという巧妙な仕掛けだ。ただ、こうして重要なゲノム領域を集めることには危険が伴う。すなわち、集められた部位同士の転座が起こりやすくなる。この実験系では、決まった領域だけに切断が入るが、普通の切断はランダムに入る。そこに修復に関わるガン抑制遺伝子が集められると、当然発ガンに関わる転座が起こりやすくなる。実際、データベースを調べてこの可能性を確認している。とすると、このような危険を冒してまで、修復ドメインを形成して修復を統合することがいかに重要かがわかる。勉強になった。

カテゴリ:論文ウォッチ