10月20日 腫瘍溶解性ウイルス治験からわかること(10月18日 Nature オンライン掲載論文)
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10月20日 腫瘍溶解性ウイルス治験からわかること(10月18日 Nature オンライン掲載論文)

2023年10月20日
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局所に注入したバクテリアが分泌するタグ分子を表面に取り込んだガンを、それに対するCAR-Tで除去するという新しい方法が10月13日の Science に掲載されていた。しかしガン局所に新しい抗原を誘導してガンを叩くという方法は、既に腫瘍溶解性ウイルスを用いて実用化が進んでいた。

我が国を含め、腫瘍溶解性ウイルスを用いたガン治療法がほぼ出そろってきたように感じる。このブログでも既に何回か紹介しているが、腫瘍溶解性ウイルスが注目されるようになってきたのは、ウイルスにより溶解したガン細胞からのガン抗原に対する、あるいは感染したウイルス自体に対する免疫反応を利用することで、全てのガン細胞を殺せなくても、免疫系を動員してガンを抑制する可能性が示されたからだ。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、腫瘍溶解性ウイルスを最初から免疫誘導抗原として使うことを前提に患者さんの反応を調べた研究で、10月18日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Clinical trial links oncolytic immunoactivation to survival in glioblastoma(臨床治験を通してグリオブラストーマ治療での腫瘍溶解性と免疫活性化が結びついた)」だ。

この治験ではCAN-3110と名付けたヘルペスウイルスがを直接脳腫瘍内に注射する治療が行われている。また、必要に応じて免疫チェックポイント治療を組みあわせている。

CAN-3110の特徴は、これまでウイルス感染が拡大することを恐れてヘルペスウイルスから除いていた ICP34.5遺伝子を、ネスチンプロモーターで別に発現させ、ウイルスの増殖と溶解性を高めた点で、これによりガン細胞が存在すれば新たなガン細胞へ感染を伝搬することが可能になる。

とはいえ、この治療も万能ではなく、治験に参加した患者さんの生存期間を5ヶ月から12ヶ月へ延長するにとどまっている。とはいえ、IDH変異が見られるアストロサイとタイプのガン患者さんでは、3例が長期生存を果たしており、このようなリスポンダーの解析は、さらに効果的治療方法開発に重要になる。

そこで、まずウイルスの持続的感染がガン免疫と相関するか調べる目的で、ウイルスに対する抗体の有無と予後との相関を見ると、ウイルスに対する抗体を持っている、すなわちウイルス感染が一定程度続いた患者さんの方が予後が良い。他のウイルスに対する抗体では全く相関がないので、明らかに腫瘍溶解性ウイルスが感染し持続することが腫瘍拒絶につながることが明らかになった。

次に、繰り返される手術時に標本を作製して、腫瘍組織の細胞浸潤を調べると、ウイルスを感染が持続しているグループで、壊死層の周りに多くの CD8、CD4T細胞が浸潤していることが確認された。

さらに、腫瘍組織のmRNA解析から、腫瘍組織で強い炎症反応も起こっていることが明らかになり、ウイルスによる炎症及び新しいガン抗原発生が抗腫瘍効果に重要であることを明らかにしている。

これに加えてキラーT 細胞の抗原受容体遺伝子化石も行っているが、抗原特異性の解析は行っていないので、おそらく感染症でウイルス感染細胞が除去されるのと同じメカニズムでガン細胞が除かれるのではと推察される。この点については、抗原ペプチドを用いた研究が欲しい。

以上、まだまだ改善の余地があるが、ガン抗原を新たに作ってそれを標的にする治療は、腫瘍溶解性ウイルスの切り札として使われる予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ