10月31日 BCG 接種が死に至る感染症に発展してしまう突然変異(10月23日 Cell オンライン掲載論文)
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10月31日 BCG 接種が死に至る感染症に発展してしまう突然変異(10月23日 Cell オンライン掲載論文)

2023年10月31日
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以前も話したように、私が患者さんを見ていた1973年から1980年の時期には、外来で結核患者さんを見るのは普通のことで、また保健所の胸部X線検査の読影も結核を念頭に置いて見ていたが、この時代、結核にかかりやすい人、あるいはかかると重症化しやすい人、といった遺伝的背景を考えたことは全くなかった。しかし、20世紀後半から、ほとんどの病気について多型研究が進むことで、病気の理解は一段と深まってきた。すなわち、病気の分子メカニズムを、責任遺伝子と関連させて説明できるようになってきた。実際、コロナパンデミックでも、感染や重症化に関わるコモンバリアントだけでなく、希ではあるが病気のコースを決めてしまうレアバリアントも続々明らかにされた。

今日紹介するフランスのネッカー研究所、Inserum、そして米国ロックフェラー研究所からの論文は、ほとんどの微生物に対して抵抗力は維持しているにも関わらず、結核など抗酸菌感染特異的に重症化する突然変異の研究で、10月23日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Human MCTS1-dependent translation of JAK2 is essential for IFN-g immunity to mycobacteria(MCTS1依存性のJAK2分子の翻訳がインターフェロンγ が媒介する抗酸菌への人間の免疫反応に関わる)」だ。

BCG は生菌ワクチンで結核予防のためまだ利用されている国もある。このような国では、摂取後 BCG が全身に広がり時には命に関わる抗酸菌症を起こす、比較的男性に多い遺伝的抗酸菌高感受性(MSMD)が希ではあるが発見され、遺伝疾患として認識されている。この研究では、様々な国で発見された MSMD 家族を集め、まずエクソーム解析で共通の変異を探し、最終的にX染色体上にある MCTS1遺伝子が変異により、機能できなくなっていることを発見する。

MCTS1 は、あらゆる細胞に発現しており、DENR と結合してリボゾームと脱アシル化された tRNA を外して、リボゾームを再利用したり、あるいは翻訳を再開するのに機能している分子で、この変異が抗酸菌に対する抵抗性だけに関わるというのは全く予想外の結果と言える。

そこで、なぜこのようなあらゆる細胞で機能しているメカニズムが特殊な症状につながるのかを徹底的に追求している。

長い話なので結論だけをまとめると以下のようになる。

MCTS1 の相手方の DENR が欠損するとマウスは生まれてこないが、MCTS1 は他の分子で代償可能で、欠損しても正常に生まれてくるし、驚くことに抗酸菌以外の微生物への抵抗性は全く傷害されていない。しかし細胞レベルで調べると、翻訳再開などの効率が低下する結果、蛋白質の合成効率は多くの分子で低下する。ただ、これも量的問題で、結局一番大きく MCTS1 に依存していたのが、様々なサイトカインシグナルを伝える JAK2 であることが明らかになった。

ただこれだけでは説明にならない。というのもJAK2 は様々なシグナルの下流で働いている。また、この変異では JAK2 の低下も完全ではなく、大体正常の 1/3 ぐらいに低下する。この条件でシグナルが強く抑制される経路を探していくと、なんと Vδ2陽性 γδT細胞と、Vα7.2遺伝子を発現する MAIT細胞の IL23への反応が強く抑制されていることを発見する。

実際には一歩一歩犯人捜しをした結果なのだが、結論としては JAK2 への依存性が細胞やサイトカインごとに異なる結果、このような特殊な欠損が発生してしまったことになる。そして、結核菌が侵入したとき、マクロファージから分泌される IL23 に反応するこの極めて限られた経路から作られるインターフェロンγ が欠損し、抗酸菌による重症の感染症を発症するというシナリオだ。

なぜ抗酸菌感染に対して、この細い経路を利用するようになったのかは極めて面白い謎だ。昔、結核患者さんを見ながら、面白い病気だといろいろ考えたが、それを遙かに超える人間と細菌の関係が拡がっていることがよくわかった。

カテゴリ:論文ウォッチ