レカネマブはADの初期にAβ治療を始めると、進行を遅らせることが出来ることを示した。しかし遅らせたとは言えこの治療だけでは病気は進行する。とすると、この進行をさらに遅らせることが次の課題になる。実際、Aβが蓄積してもADにならないAPOEの変異が知られているように、Aβ蓄積から次の過程へ転換するメカニズムを明らかにすることが、レカネマブ使用を続けるためにも最も重要な課題になる。
この初期段階を理解する上で重要な細胞の一つがミクログリアで、10月5日に紹介したエピジェネティックな解析で、ADリスク遺伝子でエピジェネティック変化が明らかな遺伝子の全てがミクログリアで発現が見られることは、これを示している。
ADの網羅的研究紹介4日目はミクログリアに焦点を当てた論文で、タイトルは「Human microglial state dynamics in Alzheimer’s disease progression(アルツハイマー病の進行に伴うヒトミクログリアの動態)」だ。
研究ではまずデータベースからヒトミクログリアを12種類のポピュレーションに分類出来ること、そしてAD進行に伴い、脂肪代謝系が活性化した集団(MG4)、およびAβプラークとの相関が弱いレベルの炎症に関わる集団(MG8)が上昇することを発見する。
この研究の特徴は、こうして発見したADによると思われる遺伝子発現を、iPS由来のミクログリア刺激実験で検証し直している点で、これらを総合してADでは初期の方が炎症が強く、その後炎症が弱いMG8に置き換わるのと並行して、脂肪代謝が活性化したMG4ミクログリアへと進行することを明らかにする。
さらに、ATAC-seqを用いて、遺伝子発現の変化と、転写調節に関わるクロマチン変化を比べると、遺伝子発現では12種類に分けられる集団も、たかだか3種類にしか分けることが出来ないことを発見する。これは、ミクログリアの変化が反応性に誘導される遺伝子発現の変化によっており、エピジェネティックメモリーは大きく変化しないことを示している。実際、MG8を含む炎症に関わる3集団を比べると、このことがわかる。
様々な結果が示されているが、主な結果は以上で、ミクログリアの変化と、ADの変化の因果関係についてははっきりした結論が出ていない。この研究でもADリスク遺伝子の発現も調べ、AD特有の脂肪代謝が活性化したMG4で発現するリスク遺伝子として期待通り、APOE他2種類の分子も特定されているが、標的としての因果関係を示すまでには至っていない。
ただ、ミクログリアの状態が反応的に変化するという事実は、Aβ、Tauといった本道に加えて、ミクログリア制御による病気の抑制を期待させる。論文としては食い足りないが、膨大なデータの中にレカネマブの効果を長続きさせるヒントが眠っていると期待したい。