10月27日 リーシュマニア寄生虫感染2題(10月25日 Nature オンライン掲載論文他)
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10月27日 リーシュマニア寄生虫感染2題(10月25日 Nature オンライン掲載論文他)

2023年10月27日
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我が国では馴染みがないが、リーシュマニア原虫による感染症は今でも多くの国で蔓延している。リーシュマニアはサンチョウハエをベクターとして人間に感染する。ハエの消化管内では原虫は promastigote と呼ばれる細長い鞭毛を持った形態をとっているが、ハエに刺された人間に感染するとすぐに白血球内に潜り込み、そこで amastigote と呼ばれる鞭毛のない丸い形へ変化し増殖する。感染した白血球が細胞死で破裂すると、人の体内で再感染して拡大するが、通常血液内の白血球が吸血によりハエの消化管に移り破裂すると、遊離された amastigote は mastigote へと変化し、この中で接合による遺伝子交換を行うことが知られている。

先週このリーシュマニアとホストの関係について、人間の中での生活サイクルと、ハエの中での生活サイクルについて研究論文が出ていたので紹介することにした。

最初のペンシルバニア大学からの論文は、皮膚感染したリーシュマニアと皮膚細菌叢、そしてホストの炎症メカニズムの関係を調べた研究で、10月18日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Multiomic profiling of cutaneous leishmaniasis infections reveals microbiota-driven mechanisms underlying disease severity(皮膚リーシュマニア感染のマルチオミックス研究は細菌叢によるメカニズムの関与を明らかにした)」だ。

次の論文と比べると、この論文はあまり面白くない。リーシュマニアに感染した皮膚を、感染していない皮膚と比べ、皮膚細菌叢の構成が異なることに気づく。そして、リーシュマニアに感染した皮膚ではブドウ球菌が増え、その結果リーシュマニア感染が治りにくくなる。メカニズムとしては、ブドウ球菌が誘導する IL-1 を主体とする炎症が、リーシュマニアの感染を助けるという話だ。

問題は、ほとんどがオミックスに基づく現象論で、少し考えてみるとリーシュマニアは白血球内感染を起こすことを考えると、局所の感染でどうして細菌叢が変化するのかが一番面白いと思うのに、そこに踏み込めていない。

これに対し、次の米国国立衛生研究所からの論文は、ハエの消化管内でリーシュマニアが接合と遺伝子交換を行う過程になんと哺乳動物の IgM が関わっていることを示した面白い研究で、10月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Leishmania genetic exchange is mediated by IgM natural antibodies(リーシュマニアの遺伝的交換は IgM 自然抗体により媒介される)」だ。

リーシュマニアのどの形態も分裂増殖が出来るが、適応性を維持するためには遺伝子交換が必須で、これはハエの腸管内で mastigote 同士が融合することで起こる。融合して異なる染色体間で組み換えによる遺伝子交換が起こる。

ハエの腸管内でこれが起こるためには、吸い取った血液が必要であることはわかっていたが、この研究では血液を分画し、この血中因子がなんと IgM であることを発見する。すなわち、試験管内で IgM の含まれた血液を加えるとリーシュマニアは凝集し、融合する。

次に IgM と結合するリーシュマニア側の分子を探すと、グルカンなど複数の分子が関わっていることがわかり、免疫前の血中 IgM が様々な分子に低いアフィニティーで結合する性質を利用して、凝集していることを発見する。実際5分子が重合した IgM は必須で、重合前の IgM は融合を誘導できない。これはアフィニティーがさらに低下する結果と考えられる。また、IgM は必要十分条件で、IgM が移行していない臍帯血では全く作用が見られない。

後は、リーシュマニア研究のプロの仕事で、IgM とリーシュマニアを含む血液を吸入させたハエの腸管内で起こるプロセスを追求し、まず IgM で凝集すると、リーシュマニアの遺伝子発現が変化し、融合や遺伝子交換のメカニズムが誘導される。

ただ、これだけでは不十分で、引き続いて血を吸うことで、接合、及び組み換えが初めて完遂することも明らかにしている。勿論、後からの血液にも IgM が必要で、これにより接合、組み換えメカニズムが維持されることがわかる。

結果は以上で、今後は IgM によるリーシュマニアの凝集が遺伝子発現を誘導するメカニズム、またそれぞれの遺伝子の役割についての研究が必要になるが、面白い研究だった。

カテゴリ:論文ウォッチ