1型糖尿病は膵島に対する自己免疫反応を基盤としているので、早期診断して免疫反応を抑え、発症を抑える治験が進んでいる。その中で、T細胞が刺激されるときに必須の CD3 に対する抗体を投与して自己免疫を抑える治療が FDA 認可されている。
行われた治験の中でも、2019年にイェール大学を中心に行われた、自己抗体は検出されるが無症状の患者さんに対して行われた治験は画期的で、無作為化偽薬治験で発症までの期間を24ヶ月から48ヶ月と倍に伸ばせることが示された。
今日紹介するトロント大学からの論文は、この大成功した治験で残っている血清を用いて腸内細菌叢への免疫反応と1型糖尿病の発症や抗CD3抗体の効果との相関を探った研究で、10月25日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Immune responses to gut bacteria associated with time to diagnosis and clinical response to T cell–directed therapy for type 1 diabetes prevention(腸内細菌への免疫反応は1型糖尿病の予防治療での発症までの時間と治療効果を予想できる)」だ。
医師として働いているとき、検査データの中に何か面白い相関が認められないか、いろいろ探ることを常としていた。そんな中で、汎細気管支炎の患者さんに、不思議なことに寒冷凝集反応が中程度上昇していることを見つけ、論文にはしなかったが学会発表をした覚えがある。臨床データ、既に経過がわかっているデータは、それ以上検査を増やせないので、結局残っているサンプルから何か出てこないか探ることになる。
この研究では抗CD3 治療の効果をさらに正確に予測できないかいろいろ調べる中で、腸内細菌叢への抗体のいくつかが相関を示すことに気がつく。
例えばビフィズス菌(B.longum)に対する IgG2抗体の低い患者さんと高い患者さんを分けて調べると、高い患者さんの方が治療による効果が高い。一方、低い患者さんでは差はない。一方、治療を受けなかった偽薬群で調べると、抗体価が高いほど、発症が早いことがわかる。同じことは、Enterococcus fecales に対する IgG2反応でも見られる。
よく気がついたと思うが、考えてみると腸内細菌叢に対する反応が高いと言うことは、T細胞の活性化が起こりやすいことを示しており、抗体が高い、すなわち活性化がされやすい人は、発症しやすいし、逆に抗CD3抗体治療の効果が高いというのはよく理解できる。
さらに HLA―DR4陽性の人がハイリスク群であることを利用して、T細胞の活性化が起こりやすいと考えられる DR4陽性の人で見ると、DR4陰性群と比べ発症までの時間は短いく、また細菌に対する抗体価が高いと発症がさらに高まる。しかし、抗CD3抗体を投与すると、効果はよりはっきりとし、特に細菌に対する抗体価が高い人ほど効果が高い結果になっている。
相関をいろいろ調べる内に、母数は減ってしまい、バラツキが大きいが、要するに免疫反応が起こりやすくなっている人をバクテリアに対する抗体で早く層別化することで、より治療効果のある患者さんを選べると言うことになる。
ゴチャゴチャしてわかりにくい論文だが、臨床時代が思い出される論文だった。