ガン特異的代謝経路を狙い撃ちにしてガンを制御する研究が着実に進んでおり、このHPでも何回も紹介してきた。単独で治療というわけにはいかないと思うが、現在使われている抗ガン剤と併用薬として開発が進むのを期待している。
今日紹介するマサチューセッツ医科大学からの論文も同じ方向の研究だが、ガンで生産される毒性のある代謝物の処理をブロックして、その代謝物によってガン細胞の増殖が抑えられるような経路を探索するというユニークな研究で、10月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Disruption of sugar nucleotide clearance is a therapeutic vulnerability of cancer cells(糖ヌクレチド処理経路は治療可能なガンの脆弱性になる)」だ。
タイトルにある糖ヌクレチドはゴルジでの糖転移反応に必須の分子だが、溜まりすぎると毒性を発揮する。研究では、毒性がある中間代謝物の合成と分解のバランスが変化するケースをガンのデータベースから探索し、ウリジンーブドウ糖かUGDHにより合成され、UXS1酵素により分解される UDP-glucuronic acid(UDPGA) を候補として特定している。
実際ガン細胞ではUDGHが上昇し、それと並行してUDPGAを分解するUXS1も上昇することでUDPGAの濃度が抑えられている。そこで、UXS1をCRISPRを用いてノックアウトするとガン細胞の生存が低下する。またUXS1と同時に合成系であるUGDHをノックアウトすると、細胞派生上に維持される。すなわち、期待通りUDPGAは合成系と分解系のバランスをとることで、溜まり過ぎるのが抑えられており、ガンでは正常細胞と違って合成、分解を高めることでバランスが維持されているので、UXS1を標的にする抗ガン剤の可能性が示された。
あとはUDPGAが蓄積することが細胞毒になるメカニズムを探索し、UDPGAが溜まりすぎるとゴルジ体の形態が変化するとともに、ストレスマーカーが上昇し、これと平行してゴルジで進む糖添加反応が強く抑制され、多くの膜蛋白質のゴルジから細胞膜への移行が強く抑制されることを明らかにしている。そして、EGF依存性のガンを例に、EGF受容体の細胞膜上の発現が低下するため、増殖因子への反応性が失われることを示し、おそらくゴルジ機能の低下で生じた細胞膜蛋白質の発現低下がガン増殖を抑制すると結論している。
次に、なぜガン細胞特異的にUDPGA合成経路、分解経路が高まるのかについて調べ、ガン細胞が様々な薬剤耐性を獲得する過程で、この変化が起こることを示し、このような適応は正常細胞では見られないことを明らかにしている。
最後に、ガンを移植するモデルで、ガン細胞からUXS1をノックアウトする手法を用いて、UXS1発現抑制単独でガン細胞の増殖を抑えられることを示している。また、正常細胞は元々合成系のUDGHが低く、UXS1ノックアウトの影響はほとんどないことも示している。
結果は以上で、UDGHとUXS1酵素が同時に上昇しているガン細胞では、UXS1阻害剤を開発することでガン増殖を抑制する可能性があることが示された。毒性を持つ中間代謝物の蓄積を狙う点ではユニークな研究だが、このようにガンの代謝を標的とした治療の可能性が続々発見されており、期待したい。