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10月4日 アルツハイマー病を調べ尽くす。 1,バイオプシーによる初期病変(9月28日号 Cell 掲載論文)

2023年10月4日
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バイオジェンとエーザイが開発したAβを除去する抗体薬が大きな注目を浴びているが、この治験が成功した一つの要因は、初期のアルツハイマー病(AD)患者さんを選んで治験を行ったことだ。その結果、ADの初期段階が改めて関心が集まっている。これに呼応して、今週発刊された Cell はADに関する論文や総説が集められているので、今日からオリジナル論文4編を順番に紹介することにした。

最初のMIT、Broad研究所からの論文は、突発性正常圧水頭症の鑑別診断目的でバイオプシーが行われた患者さん52例の新鮮組織についてAβやTauの蓄積状態と細胞変化の相関を徹底的に調べた研究で9月28日号Cellに掲載された。タイトルは「Early Alzheimer’s disease pathology in human cortex involves transient cell states(初期アルツハイマー病の皮質では一過性の初期病変が存在する)」だ。

この研究の最大の特徴は、バイオプシー後5分以内に凍結した生きた細胞を用いている点だ。採取した組織をAβの蓄積程度、及びTau病変の出現をベースに分類し、主に single cell RNA sequencing により解析するとともに、これと症状、脳脊髄液などAD初期診断に使われるデータ、さらには5年の経過観察期間のAD発症数など、徹底的に調べ、Aβ蓄積のみが見られる早期に起こる変化を調べている。

また、これまで発表された剖検脳を用いた研究や、動物モデル研究データも、改めてメタアナリシスを行い、今回の結果と比較している。この結果、新鮮組織は剖検組織解析結果と大体同じだが、死後変化の結果RNAは低下し、また細胞ごとに低下スピードが異なるため、新鮮サンプル解析抜きにADの全貌は捉えられないこと、また新鮮組織が採取可能な動物モデルでは、人間の変化が再現できていないケースが多いことを示しており、今後もバイオプシーを用いた研究が重要であることを強調している。

こうして高解像度で解析を行うと、脳細胞でも82種類に分けることが出来、当然データは膨大になる。そこで詳細を省いて、重要な点のみ以下にまとめる。

  1. 新鮮組織でもADはAβの蓄積が上昇するステージから、Tauのリン酸化と沈殿が形成されるステージへと進んでいく。バイオプシーによる新鮮組織での病理と、臨床はほぼ一致し、病理ステージと症状は相関している。また5年の経過観察でもTau蓄積が始まった人は100%ADを発症し、Aβのみ蓄積しているケースでも30%近くがAD診断を受けている。 
  2. Aβ蓄積が始まった初期段階にのみ見られる細胞変化が存在し、この変化は後期には見られない。
  3. 初期変化は、皮質上部の興奮神経が生理学的にも代謝的にも過興奮していることで、これに伴いアストロサイとのグルタミン酸代謝も上昇している。そして、この変化はNDNFを発現した介在神経が初期に特異的に失われることで発生する。従って、この過興奮を検出することが出来れば、ADの初期診断は可能になる。
  4. この初期変化に伴い、ミクログリアの活性化も見られるが、他のデータと比較すると、パーキンソン病で見られる変化とオーバーラップしており、特にTGFβシグナル異常を示すのが特徴。
  5. おそらくこの研究の最も重要な発見は、Aβを産生する細胞が神経細胞だけでなく、オリゴデンドロサイトも同じように前駆蛋白質と、それを切断する酵素を発現していることを示した点だろう。これを確かめるために、ES細胞から神経、オリゴデンドロサイトの両方を誘導して、Aβ合成を確かめている。この発見はADを白質障害の方向から見るときには重要に思える。

以上が主な結果で、間違いなくAβにより誘導される病変がADには存在し、病気の標的になることが明らかになった。このステージで、介在神経が失われることで、皮質神経が興奮し、これが神経細胞とオリゴデンドロサイトのAβ蓄積を悪化させ、最後にTau病変を誘導することになる。

他の論文はまだ読んでいないが、エピジェネティックス、ミクログリア、そしてDNA損傷と盛りだくさんで面白そう。

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