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10月11日 光遺伝学的手法を治療に応用できるか?(10月4日号 Science Translational Medicine )

2023年10月11日
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特定の波長の光を当てて神経が興奮したり、あるいは興奮を抑えたりする方法は光遺伝学と呼ばれ、動物モデルを用いた神経科学を大きく変化させた。これは、光に反応するイオンチャンネルを神経細胞に導入して興奮を調節する方法だが、刺激は光に限らず、チャンネルの開閉を操作できれば、化合物でも、磁場でも刺激を問わない。基本的にはモデル動物を用いた研究だが、それだけでも十分ノーベル賞を授与されることは間違いないと思っている。しかし、原理から考えると、当然人間にも応用されることは間違いない技術だ。

遺伝子導入を領域や細胞特異的に行えば、脳を操作して、不安を抑えたり、あるいは興奮を与えたり、これまで領域非特異的薬剤で対応していた精神疾患治療に大きな変革をもたらす可能性がある。ただ、これが実現するのは病気の神経科学を我々が理解してからのことで、それだけ脳は複雑だ。

代わりにより単純な神経サーキットを標的とした光遺伝学が開発されている。今日紹介するオックスフォード大学からの論文は禁煙を促すために使われるニコチン受容体作動薬バレニクリン刺激により開くクロライドチャンネルを痛みを伝える感覚神経に導入して、痛み刺激による神経興奮を抑えられないかを調べた研究で、10月4日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A humanized chemogenetic system inhibits murine pain-related behavior and hyperactivity in human sensory neurons(ヒト化した化学反応性システムはマウスの傷み反応を抑え、ヒトの感覚神経の過興奮を抑える)」だ。

クロライドチャンネルを開けることで、細胞内のクロライドが流出することで膜の伝導性が高まる。これにより電圧依存性のチャンネルの閾値が高まって、神経興奮が抑えることが出来る。ただ、脳神経細胞のクロライドの維持量は高くないので、この方法を他の神経に使うと、神経活動全体を抑えてしまうが、クロライドを多く維持している感覚神経に使える可能性は高い。

この研究ではリガンド作動性クロライドチャンネルGlyR をバレニクリン作動性に変化させた遺伝子が試験管内で感覚神経の興奮を抑えることを確認した上で、遺伝子を導入したアデノ随伴ウイルス(AAV)を直接マウスに注射し、その効果を見ている。

臨床的に近い設定としてまず関節炎の痛みを、関節腔に遺伝子を注入して抑えられるか調べている。炎症を誘発して関節痛を発生させたとき、バレニクリンを極めて少量注射するだけで、非ステロイド系抗炎症剤と匹敵する鎮痛作用を示す。

次に脊髄に直接注入して熱に対する反応を見ると、10ヶ月後も導入した遺伝子は維持され、バレニクリンにより熱反応を抑えることが出来る。同じように、神経損傷後に起こる神経原性の痛みも抑制することが出来ている。

最後に、電圧依存性ナトリウムチャンネルの変異により痛みが持続する患者さんの iPS由来感覚神経細胞を用いて、このような遺伝的痛み感受性も抑えることが出来ることを明らかにしている。

以上が結果で、痛みという局所の神経反応であれば、光遺伝学をヒトに応用することが出来ることが示された。勿論痛みは主観的な要素も強く、本当に痛みが取れたと感じられるのか、またクロライドがいくら多いと言っても、慢性的バレニクリンしようが可能なのか、応用までに乗り越えるハードルがあるが、光遺伝学の人間への応用がいよいよ始まったと感じる。

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