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10月26日 リキッドバイオプシー2題(10月号 Nature Medicine 掲載論文)

2023年10月26日
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一般の方はリキッドバイオプシーという言葉は耳慣れないと思うが、細胞が壊れたときに血中にも流れると期待されるガン由来のDNAを特定し、その量をガンの活動の反映として利用する方法だ。勿論血中には様々な細胞に由来するDNAが存在し、ガン細胞由来のDNAはほんのわずかだが、今のテクノロジーを用いれば難しい話ではない。

今日最初に紹介するジョンズ・ホプキンス大学及びカナダ・クイーンズ大学からの論文は、レントゲンではフォローが難しいステージ4のガンの活動測定にリキッドバイオプシーが使用可能か調べた治験で、10月号 Nature Medicine に掲載された。タイトルは「ctDNA response after pembrolizumab in non-small cell lung cancer: phase 2 adaptive trial results(非小細胞性肺がんの Prebrolizumab 治療での血中腫瘍由来DNAの反応:第二相治験結果)」だ。

1人のステージ3、39人のステージ4の非小細胞性肺がん患者さんにPD-1抗体を用いたチェックポイント治療が行われるが、この時血中のDNAを次世代シークエンサーで配列を決定し、その中に存在する明らかにガン由来と確認できる遺伝子配列(例えばRAS遺伝子変異)を特定、それをガン活動の診断基準として使い、チェックポイント治療開始後の変化を調べ、患者さんの予後との関係を見ている。

結論としては、患者さんあたり2種類以上の指標となるDNA断片が特定でき、ガンの治療効果と、この指標の低下とが期待通り相関している。免疫治療の場合レントゲンでは効果が測定しづらいので、経過を追跡するためには十分良い指標となると結論している。

ただ、遺伝子配列を調べる検査の整備が極めて遅れている我が国でこれを使えるかは疑問だ。また、生化学的なマーカーが得られる可能性もあり、少なくとも我が国では実用とは言えないだろう。

次に紹介するハーバード大学からの論文は、血中のDNAに結合しているヒストンを用いてガンのエピジェネティックスを調べる可能性を示した論文で、10月21日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Liquid biopsy epigenomic profiling for cancer subtyping(リキッドバイオプシーによるガンの分類」」だ。

どれほど進行しても、身体全体から比べるとガン細胞の量は少ない。それでもガン細胞由来の変異を特定できるなら、細胞ごとに異なるエピジェネティックな状態の中からガン特異的エピジェネティックな変化を特定する可能性はある。これにチャレンジしたのがこの研究で、血中のDNAを、クロマチンが開いたプロモーターに結合している H3K4me3ヒストン、あるいは活動しているエンハンサーを H3K27acヒストンを指標に濃縮し、その中からガン特異的なヒストンコードとして使える領域があるか調べている。

タイトルを見たとき本当に出来るのかと思ったが、案ずるより産むが安しで、前立腺ガンから肺がんまで7種類のガンについて、ガン特異的プロモーターのエピジェネティックプロファイルを特定することに成功している。

また、主にスーパーエンハンサーとして活動している領域については、ガン特異的プロフィルを特定でき、例えばホルモン分泌性ガンへのシフトを捉えられる可能性を示している。

さすがにエピジェネティックスは無理だろうとの予想を裏切る結果で、ちょっと真面目に取り組むと面白い分野に発展しそうな予感がする。特に、スーパーエンハンサーを標的にした治療の経過観察などは面白そうだ。

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