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12月10日 B細胞とT細胞抗原受容体の空間的分布を調べる(12月8日 Science 掲載論文)

2023年12月10日
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免疫組織や腫瘍組織で起こっている免疫反応は、空間的階層性を持っていると考えられている。すなわち、抗原の存在場所を起点に、増殖や移動が調節される。その最たる物が、胚中心で濾胞樹状細胞の周りに大きなB細胞のクローン増殖と多様化が起こることが知られている。ただ、この空間的階層性はこれまで、組織の一部を切り出して、遺伝子発現を調べる方法を用いて行われ、組織で進行するB細胞抗原受容体(BcR)やT細胞抗原受容体(TcR)のクローン性や多様性を組織上でそのまま検出するのは難しかった。

今日紹介するスウェーデンカロリンスカ研究所からの論文は、スライドグラス上に異なるバーコードを持ったRNAトラップを敷きつめ、発現する遺伝子の空間的位置を特定できるようにした方法を用いてBcR、TcRのVDJ配列の組織上の分布を調べ、リンパ組織や腫瘍組織で起こっている免疫反応を捉えようとした研究で、12月8日号 Science に掲載された。タイトルは「Spatial transcriptomics of B cell and T cell receptors reveals lymphocyte clonal dynamics(B細胞とT細胞抗原受容体の空間的発現解析によりリンパ球クローンの動態が明らかになった)」だ。

2016年、この論文と同じ Frissen研から発表されたスライドグラスにバーコード付きのRNAトラップを敷き詰め、遺伝子発現分布を組織上に再構成する方法について紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/5490)、この研究では同じ方法を用いて、BcRやTcRの分布を明らかにし、局所での免疫反応を解析しようとしている。この方法に最も相応しい課題で、なぜもっと早くできなかったのかと思うが、読んでみると一つのバーコードで決められる場所に複数の細胞が入ってしまうため、TcRαとβ、あるいはBcRのH鎖とL鎖をペアリングすることが難しかった様だ。この研究では確率計算からペアリングを決める方法を開発しているが、完全に解決できているわけではなく、やはりバーコードの範囲をもっと絞って、単一細胞の遺伝子発現を特定できないと、どうしても曖昧さは残る。

この限界を理解した上で、それでも抗原受容体のレパートリーの分布を組織上にマッピングすることの重要性はよくわかる。

まずヒト扁桃組織で方法の特性、例えばB細胞のクローンの検出のしやすさやT細胞の分布様式を調べて、クローン増殖や移動を追跡できることを確認した後、乳ガン組織を調べ、B細胞のクローン増殖もみられるリンパ組織様のクラスターが腫瘍組織に検出できること、またT細胞は腫瘍と環境の境界領域でクローン増殖している可能性などを示している。今後αβの正確なペアリングが可能になれば、ガン抗原に対する反応を正確に追跡できる可能性がある。

そして、リンパ球の増殖と多様化が起こるリンパ濾胞について同じ検討を行っている。期待通り、濾胞内でB細胞はクローナルな増殖とともにBcR多様化を起こす。そして多様化した細胞が他の濾胞へと移動するのも検出できる。一方、多様化と共に起こると考えられるクラススイッチについては、まず濾胞外で起こった後、可変領域の多様化が起こることを示している。

結果は以上で、免疫反応を組織上で解析できる可能性が示されたことは大きいが、結果自体はこれまで知られていたことがほとんどだ。そしてB細胞の動態解析の方にこの方法が向いていることもよくわかった。したがって、今後は感染症やワクチン接種でのB細胞の動態解析にまず使っていくのが面白いと思う。

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