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11月25日 健康女性の乳腺上皮細胞に見られるAneuploid (染色体の数の変化)(11月20日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月25日
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女性の乳腺は周期的に女性ホルモンで刺激を受け続ける。思春期から乳腺が増大すると、ヒトによっては Kg レベルに達する乳房が形成され、さらに出産を経験するとミルクを作るため大量の転写が起こることを考えると腫瘍に匹敵する増殖力を発揮していることになる。

その結果、正常の乳腺細胞でも様々な遺伝子変異が起こっていることは、京大の小川誠司さんのグループにより昨年8月 Nature に報告されており(https://www.nature.com/articles/s41586-023-06333-9)、また乳ガンの遺伝子増幅のスイッチが正常乳腺の段階から入ることを示したハーバード大学の研究をこのブログでも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/22131)。

今日紹介するテキサス MD アンダーソン ガン研究所からの論文は、発達しすぎた乳房を小さくする手術で得られた正常乳腺細胞に絞って単一細胞レベルで aneuploid と呼ばれる染色体の数の変化(増えたり減ったりすること)を調べ、正常細胞のかなりの割合で Aneuploid 細胞が観察されることを調べた研究で、11月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Normal breast tissues harbour rare populations of aneuploid epithelial cells(正常の乳房組織には低い頻度だが aneuploid 上皮細胞が存在している)」だ。

乳房縮小手術を希望されたということで、発達のいい女性に限られる話の可能性もあるが、小川さんの正常乳腺の仕事から考えても、一般化できる話だと考えている。研究では乳腺上皮を精製したあと、single cell レベルでゲノム解析を行い、染色体の大きな領域の欠失や重複が発生していないかを調べている。また平行して、染色体の構造を調べる Atac-seq 解析も行い、3種類存在するどの上皮細胞で変異が見られるのか、さらには組織上でどこにその変異が存在するのかを調べる in situ hybridizatio も組み合わせて調べている。

まず49人から採取した83260個の上皮細胞のゲノムを調べ、なんと平均3.19%の細胞が何らかの aneuploidy を示すことを確認している。ただ詳しく見ていくと、chr1q 重複、chrS欠損、chr16欠損、chr22欠損、chr3欠損、chr6q重複、chr16q欠失が順番に多い異常で、決してランダムに起こっているわけではない。

そしてこれら異常の結果が細胞の増殖に影響があるかを平ベルト、chr1 重複、chr10q、chr16、chr22欠損は細胞増殖力が城主しているが、他の aneuploidy はほとんど増殖に影響がないことがわかる。すなわち、増殖力が高まった aneuploid cell が選択され、割合が増加することがわかる。一方、X染色体欠損は2番目に多い aneuploidy だが、ほとんど増殖性に変化が認められない。従って、変異の頻度は最も高いといえる。これは当然のことで、元々X染色体は片方が不活性化されているため欠失しやすい。また、検出される aneuploidyは10q というように染色体の一部の aneuploidy でXだけ全体の aneuploidy が見られる。

以上をまとめると、正常乳腺細胞ではかなりの割合で aneuploidy が起こっており、その中の一部では増殖優位性獲得が起こった結果、細胞が増殖し、anueploidy の比率を上げていることになる。とすると、この aneuploidy とガンとの関わりが考えられるが、実際 chr1 重複では MCL1 や MDM4 などの発ガンに関わる遺伝子が増加し、また chr16、chr22欠損ではカドヘリンや NF2 などの重要遺伝子が欠損し、実際エストロジェン反応性の乳ガンでも広く認められる。また、複数の変異が合わさって最終的にガンが発生しているケースも認められる。

面白いのはそれぞれの aneuploidy が起こっている乳腺上皮の種類が異なることで、Atac-seq と組み合わせて変異と細胞の種類を対応させると、chr1q 重複は3種類の上皮で起こっているのが観察できるが、例えば chr10q 欠損は PTEN 遺伝子欠損につながり、管腔型の上皮だけに見られる。一方、chr3p は基底細胞型の上皮に見られる。この違いはガンへと発展しても共通で、このことから基底細胞型と管腔型の乳ガンは別の細胞から発生する確率が高いと言える。また、上皮型細胞での aneuploidy は、エストロジェン受容体陰性の乳ガンで頻度が上がっていることから、正常細胞での aneuploidy がガンのタイプに強い影響を持つ可能性を示唆している。

以上が結果で、ガンが発生するずっと前から、女性がその性ともいえるリスクを背負っているのを知ると、乳ガンを早期発見し、一人でも死亡者を減らすことが社会全体の課題であることがよくわかる。

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