アミラーゼはデンプンを分解する酵素で、膵臓や唾液腺から分泌される。AMY2A、AMY3Bha は膵臓で主に発現し、AMY1 は唾液腺で発現するが、全て 100Kb から 400kb とサイズが人によって異なる AMY 領域に存在している。このサイズの違いからわかるように、それぞれの遺伝子は歴史的に重複を繰り返した結果、最も複雑な構造が形成された。このため、通常のゲノム解析では人間の多様性を完全に把握することが難しい。
今年の9月、この問題を Long read のシークエンサーを使って調べ、アミラーゼ遺伝子コピー数は農耕によりデンプン消費が上昇するとともに増えることを示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/25169)。
今日紹介するジャクソン研究所からの論文は、実際に AMY 遺伝子領域はさらに複雑で、重複はここの遺伝子レベルで起こるのではなく、特定の領域の組み替えで重複、欠失が起こること、そしてサルから現存の人間までの進化を明らかにした研究で、11月22日 Science に掲載された。タイトルは「Reconstruction of the human amylase locus reveals ancient duplications seeding modern-day variation(ヒトアミラーゼ遺伝子領域を再構成することで古代に起こった重複が現在の人間に広がった歴史がわかる)」だ。
9月にカリフォルニア大学バークレイ校から発表された論文と比べながら今回の論文を見てみると、30近いハプロタイプの特定についてはほぼ一致している。ただ、重複があると各遺伝子の突然変異の解析が難しくなるという問題を解決して、3種類の AMY 遺伝子がどう分かれてさらに重複してきたかについて詳しく解析できている点で、この研究は深さがある。
この解析の上にそれぞれのハプロタイプの分布として遺伝子進化を見せている点も重複遺伝子数だけで示した以前の論文よりわかりやすい。
そして何よりも、重複のメカニズムとして個別の遺伝子が重複するのではなく、領域間での組み替えにより片方の染色体は欠失もう片方は重複するという変異タイプと小さな相同部位をベースにした相同組み換えの2種類が組み合わさって、現在の多様性が形成されることを見事に示している。
これらの解析をベースに、最後に人間進化とアミラーゼ遺伝子を重ねて見えてきたシナリオは、やはり前の論文とは異なっている。まず農耕以前、ネアンデルタール人とホモサピエンスが別れる前にアミラーゼ遺伝子の重複は起こっている。おそらく、火を使う調理や甘い植物を食べる習慣が生まれたことによると考えられる。
その後ホモサピエンスで現在の AMY 領域の構造が完成すると、農耕の始まりとともに遺伝子重複が進む。すなわち、現在のトルコで始まったアナトリア人で最も多くのコピー数が見られ、これがヨーロッパに談判していくことでヨーロッパでのコピー数や多様性が増加する。面白いのは、狩猟採取民と分類される古代人でも重複数などの多様性が大きいことで、すでにデンプン消費の影響がはっきり見られる。
以上が結果で、今回の論文はカリフォルニア大学の論文とはかなり異なるシナリオを示しており、この領域の解析の難しさを物語っている。いずれにせよ、世界中でこれだけ多様性があるとすると、それぞれの文化とアミラーゼ遺伝子を重ね合わせることの重要性がよくわかる論文だ。