4月5日 ワクチンと細菌叢(4月4日 Science 掲載論文他)
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4月5日 ワクチンと細菌叢(4月4日 Science 掲載論文他)

2025年4月5日
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我が国で細菌性の下痢の頻度は極めて低いと思うが、例えばインドを旅行していて細菌性腸炎を起こしたという話はよく聞く。もちろん今でも食品からサルモネラや病原性大腸菌に晒されることはあり、特に小児では重症化しやすい。このような病原性細菌に対しては、抗生物質だけでなく、経口ワクチンで IgA を誘導する治療や健康な細菌叢を移植して病原菌と闘わせる方法も試みられている。

今日紹介するスイス・チューリッヒ工科大学からの論文は、ワクチンと細菌叢内の細菌の競争をうまく利用することで、それぞれの効果を何倍にも高められること、そしてワクチンを介して腸内細菌叢をコントロールする可能性を示した研究で、4月4日 Science に掲載された。タイトルは「Vaccine-enhanced competition permits rational bacterial strain replacement in the gut(ワクチンによって促進される細菌間の競争が腸管での合理的な細菌の置き換えを可能にする)」だ。

おそらくこのグループは経口投与する死菌ワクチンによる腸内細菌感染制御を研究してきたのだと思う。生菌を注射するのと異なり、死菌ワクチンの経口投与は腸内での IgA を誘導することが知られていたらしい。ただ、これだけでは病原菌を完全に除去するには足りないこともわかっていた。そこで、標的の細菌と腸内で競争するバクテリアで、ワクチンには反応しない競争細菌を加えたら効果が高まるのではと着想した。すなわち、ワクチンと細菌叢移植を組み合わせる方法だ。

まず、無毒化して、抗体が働く細胞壁抗原が除去されたサルモネラ菌を作成し、ワクチンを投与した後、競争菌を3日前に飲ませた後サルモネラに感染させると、ワクチンや競争菌のみの効果を圧倒的に凌駕する感染防止効果が見られ、完全に病原菌を除去できることがわかった。

このメカニズムを探るため、競争菌をさらに操作して、病原菌と競争する炭水化物の代謝系を除去すると、競争菌の効果がなくなることから、同じ腸内で栄養を巡って競争していることがわかる。

ただ、競争自体は量的なもので、競争菌が病原菌を完全に凌駕できなくても、競争菌の数がが多ければワクチンの効果を高めることができる。これを確かめるため、サルモネラ病原菌の競争菌としては完全ではないが、代謝がオーバーラップする常在の大腸菌を競争菌として同じように施主させると、感染を止める効果がある。

最後にこの方法を病原菌に限らず同じ大腸菌系統間の置き換えを誘導できるか試して、ワクチンに反応しない系統が反応する系統を駆逐できることを示している。最後にこの現象にはワクチンにより IgA が誘導される免疫の仕組みが必要であることを確認している。

以上が結果で、病原菌に対する面白い予防方法が考えられる。例えば、細菌性下痢が予想される地域へ旅行するとき、まず死菌ワクチンを接種した後、飛行機に乗る前に競争菌をプロバイオで摂取するなどいろいろできそうだ。また、細菌叢の構成を変化させたいと考える研究が進んでいるが、これをプロバイオだけでなくワクチンの助けも借りて実現することもできる。面白いアイデアだと思う。

詳しく紹介することはしないが、4月2日にオーストラリア健康医学研究所から Nature に発表された論文では、新生児腸内のビフィズス菌が抗生物質で除去されると、ワクチンによる免疫誘導が低下することも報告されていた。今後細菌叢が傷害されていないか考えながらワクチン摂取時期を決めることが重要になると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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