4月13日 αシヌクレインはDNA修復を促進する(4月9日 Science Advances 掲載論文)
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4月13日 αシヌクレインはDNA修復を促進する(4月9日 Science Advances 掲載論文)

2025年4月13日
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αシヌクレインはパーキンソン病(PD)発症の引き金を引く分子で、これが様々な要因で凝集すると、ドーパミン産生細胞の細胞死を誘導するが、そのメカニズムは多様で、ミトコンドリア異常誘導が最も大きな要因になっている他、小胞体ストレス、グリア細胞活性化、シナプス機能障害などを誘導する。しかしこんなまとめ方をしてしまうと、αシヌクレインが PD のために存在しているような錯覚に陥るが、当然正常の機能が存在している。

αシヌクレインの本来の機能も極めて多様だが、今日紹介するオレゴン健康科学大学が4月9日、Science Advance に発表した論文を読むまで、DNA修復に関わるとは思ってもみなかった。タイトルは「Alpha-synuclein regulates nucleolar DNA double-strand break repair in melanoma(αシヌクレインはメラノーマでのDNA二重鎖切断修復を調節する)」だ。

全く初耳だったが、PD患者さんではメラノーマリスクが高く、逆にメラノーマ患者さんではPDリスクが高いことが知られていたようだ。αシヌクレインノックアウトマウスでは二重鎖切断後の修復が低下していることが示唆されており、PDとメラノーマとの相関を修復から考えようと研究を進めている。

ただ残念なことに、研究では結局 αシヌクレインノックアウトを用いたDNA修復の研究で終わっており、PDについて直接検討しているわけではない。また多くの実験を行ってはいるが、最終的に αシヌクレインの正確な機能を特定できていない現象論で終わっている。

そう断った上で、詳細は省いて結論だけをまとめてみると次のようになる。

  • メラノーマ細胞でDNA切断を誘導すると、γH2AXヒストンが切断部位に集まるが、このとき αシヌクレインの発現が上昇する。
  • 誘導された αシヌクレインは核小体の周辺に濃縮され、ここに集まる γH2AXと結合する。
  • 修復部位の γH2AXはATMによりリン酸化され、修復に必要な様々な分子を回りに呼び込んで修復が進み、最終的に γH2AXはDNAから離れる。
  • この過程が αシヌクレインがノックアウトされると遅延する。その結果、ガンが分裂へと進むと、染色体の断裂が起き、染色体外DNAが形成され、染色体不安定性が生じる。
  • αシヌクレインはこの修復過程に直接関わるだけでなく、修復に必要な遺伝子の発現誘導にも関わる。
  • おそらくPDでは αシヌクレインの凝集により、ノックアウトと同じような状況が生じる。

結果は以上で、現象論的には新しい問題を示した点で面白いのだが、研究としてはフラストレーションが残る。すなわち、このシナリオだと αシヌクレインは核小体の rRNAをコードする遺伝子に働いていることになる。事実核小体のDNAのみ切断する実験も行っており、αシヌクレインが誘導されること、また核小体の回りに濃縮されることを示しており、かなり特殊な修復システムを形成していると言える。とすると、この点がおそらく最も面白いはずだ。

素人考えだが、以前紹介した熊本大学の矢吹、塩田さんの αシヌクレイン凝集に特殊なRNAが関わることを示した研究が思い浮かぶ(https://aasj.jp/news/watch/25430)。この凝集は αシヌクレインの相分離によって起こることが示されたが、核小体の周辺にαシヌクレインが集まるのも同じような相分離能力を利用している可能性がある。だとすると、核小体特異的にDNA修復を促進する特殊マトリックスとして働く αシヌクレインが、矢吹、塩田さんたちの見つけたRNA G4で相分離性質が変わり、修復機能が低下することが、PD患者さんでメラノーマが発生しやすい背景にあるのかもしれない。また、メラノーマも、ドーパミン産生細胞もメラニン号性能を持っている点も面白い。中途半端で残念な論文だが、面白い発展がありそうなので紹介した。

カテゴリ:論文ウォッチ
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