4月15日 アルツハイマー病免疫治療によるミクログリアの変化(3月6日 Nature Medicine オンライン掲載論文)
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4月15日 アルツハイマー病免疫治療によるミクログリアの変化(3月6日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2025年4月15日
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昨日はミクログリアの貪食能を抑えるチェックポイント分子Tim-3についての論文を紹介したが、今日紹介する米国ノースウェスタン大学からの論文は、アルツハイマー病 (AD) 治療としてアミロイドβに対する抗体を誘導する免疫治療を受けた患者さんの脳内ミクログリアの変化、及びレカネマブによる抗体治療中に脳内出血を起こした患者さんでのミクログリアの変化についての研究で、3月6日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Microglial mechanisms drive amyloid-β clearance in immunized patients with Alzheimer’s disease(免疫治療を受けたアルツハイマー病の患者さんのアミロイドβ除去に関わるミクログリアのメカニズム)」だ。

この研究ではまずAβに対する抗体を誘導する免疫治療を受けた患者さんのコホートの脳サンプルを用いて、組織レベルのゲノミックスを行い、Aβの周りに集まるミクログリアを、免役しなかったAD患者さんの脳と比較している。このコホートは免疫により髄膜炎が起こることがわかり中断されているが、Aβが脳から除去されていることは確認されている。

昨日も示したようにADでミクログリアが活性化することがわかっているが、免疫を行った患者さんでは特に活性化に関わるTREM2やAPOEの発現が上昇する。免疫によって上昇する遺伝子を調べると補体反応に関わる遺伝子とともに、上皮間葉転換に関わる遺伝子が上昇しており、昨日のTGFβ/Tim-3論文とも連関しているように思える。

このように、免疫治療によりミクログリアの状態がより活性化されたタイプに変化するが、この変化は蓄積したAβの周辺で強く、また誘導された抗体レベル、及びそれによるAβの除去程度と、ミクログリアの変化が一致していることから、免疫による抗体がアミロイドに結合し、さらに補体反応が活性化されることがミクログリアの変化に関わることを示している。

次に、抗体治療中に脳出血を起こした患者さんのミクログリアを調べている。TERM2やAPOEが上昇し、また補体反応や上皮間葉転換に関わる分子の変化は共通だが、遺伝子発現のパターンはアクティブに免役したときと、抗体投与では異なっており、この差については今後の研究が必要になる。

今日は両方の抗体治療で共通に見られる結果を強調したが、例えば免疫により神経保護作用に関わるFGF2シグナル分子が上昇していたり、ミクログリアのミトコンドリア代謝の上昇など、single cell levelの解析ならではの遺伝子発現変化が示されており、今後の研究に役立つと思う。いずれにせよ、これらの変化は脳のAβプラークの周辺で起こることから、ミクログリアの貪食作用と密接に関わっているのだと思う。

以上が主な結果で、昨日の論文と対比させると面白い。これまでADの免疫治療の副作用については様々な報告があるが、一つの背景は急速にAβプラークを貪食させることに関わっているようだ。能動的、受動的免疫を問わず、APOE、TREM2というアルツハイマーリスク遺伝子の発現が上がることは、Aβプラークの刺激以外に抗体が介在することで新しい活性化状態が誘導されることになる。これがプラーク除去に聞いているのだが、副作用の引き金も引いているようだ。実際、副作用はAPOE4タイプの患者さんで多い。また、TREM2を標的にした治療も考えられている。

この研究ではTGFβ/Tim-3の話は全く出てこないが、抗体が存在するとこのシグナル経路が高まっているように見える。とすると、Tim-3をうまく抑えることで、炎症を抑えて貪食能を上げるという治療が可能になるかもしれない。このように、ミクログリアはADの重要な治療標的になっている。

カテゴリ:論文ウォッチ
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