9月11日 Long read DNA sequencerは細菌叢研究を変革する(9月9日Cellオンライン掲載論文)
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9月11日 Long read DNA sequencerは細菌叢研究を変革する(9月9日Cellオンライン掲載論文)

2025年9月11日
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細菌叢研究は最初リボゾームRNAの配列をベースに細菌叢に存在する細菌種を推定する事から始まった。多くの研究はまだまだこのレベルにとどまっているが、細菌叢のホストへの効果が細菌のプロダクトによることを考えると、細菌叢とホストの形質の間の因果性を明らかにする目的にはここの方法の限界は明白だ。そこで、細菌叢から採取されるDNAの配列を全て読んで、それを現在わかっているゲノム配列を参照して各バクテリアのゲノムに再構築するメタゲノムが行われるようになり、重要な論文の多くはこの方法を用いて細菌叢とホストの関係の研究を行っている。

細菌叢の全ゲノムを解読する目的には当然long readと呼ばれる新しいシークエンサーのポテンシャルは大きい。即ちlong readだと繰り返し配列や重複、欠損が正確に解析できるだけでなく、アッセンブラーを用いた全ゲノム再構築も容易になる。そこで、細菌叢研究にLong readが大きな変革をもたらす可能性を、アフリカの最貧国の一つマラウィの2カ所の村の子供の細菌叢をほぼ1年にわたってサンプリングし、様々な機器やアプリを用いて全ゲノムを解析、それと子供の成長との相関から示そうとしたのが今日紹介するソーク研究所からのの論文で、9月9日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Culture-independent meta-pangenomics enabled by long-read metagenomics reveals associations with pediatric undernutrition(培養に基づかないlong readメタゲノムを用いたメタパンゲノミックスにより子供の栄養不良と細菌叢の関係が明らかになる)」だ。

この研究の最も重要な貢献は、同じサンプルを様々なlong readの機械、及びゲノムアッセンブリーのためのアプリを使って徹底的に解析し、今後の研究のための最適なプラットフォームを提案するとともに、異なる方法の間の互換性についても考慮されていることで、今後Long readを用いた細菌叢研究を推進したいという目的がはっきりわかる。実際、Long read機器は最近急速に進展しており、最も新しい機械を用いた今回の結果はこれからの研究に大きく貢献すると思う。

各方法の比較で言うと、最も正確に多くのデータが得られるのがパックバイオの機器を用いた方法で、次がオックスフォードナノポアを用いた方法が続く。即ち一分子シークエンスの老舗が最も信頼が置けることになる。解析に必要な価格はパックバイオがかなり安いが、機械自体の価格はナノポアと比較にならないほど高いので、評価は難しい。いずれにせよ、どちらを選んでもデータの互換性が確保できるようさらにデータを重ねてほしい。

この研究ではshort readと比べてlong readが因果性解析に優れているかどうかについては直接のデータが無い。しかし、subspeciesレベルの細菌と子供成長や、母乳との関係についてはこれまで示されてきた以上の詳細な相関を示すことができている。

もちろん集団としての細菌叢を定義する点でも、成長が安定している子供で細菌叢が安定していること、逆に成長障害が認められる場合は細菌叢が安定しないことなどを高い感度で検出することができる。

そして何よりも、細菌がコードする様々な遺伝子と成長、母乳栄養などとの相関をかなりの精度で特定できる。驚くのは、このように相関が認められた様々な遺伝子のほとんどはアノテーションができない、ほとんど解析できていない遺伝子で、今後これらが明らかになることで、細菌叢の因果性の正確な判定が可能になる。

またlong readによりゲノム構造が明らかになることで、遺伝子間の水平伝達やファージ感染などを特定することができる。例えば遺伝子重複は主に細菌同士の融合をベースにすることなどが示唆されているが、これらのデータは今後細菌叢の遺伝子改変を考えるときに極めて重要になる。

以上、解析の意味についてはほとんどすっ飛ばしたが、long read時代が確実に来ていることがよくわかる論文だった。

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