11月29日 腸内細菌ゲノムに統合されているプロファージ(11月26日 Nature オンライン掲載論文)
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11月29日 腸内細菌ゲノムに統合されているプロファージ(11月26日 Nature オンライン掲載論文)

2025年11月29日
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腸内細菌の研究はDNAシークエンサーの発展とともに進化してきたと言える。私が現役を退いた12年前、次世代シークエンサーが普及し始めると同時に、バクテリアの種類を特定できる標識DNAを大量にシークエンスして細菌叢の構成を調べ、病気や生活環境での変化を探索する研究が世界中で行われた。その後、ゲノム情報処理技術が進展し、さらに配列決定にかかるコストが下がると、読み出した配列からバクテリアの全ゲノムを一応満足できる精度で再構成できるようになり、細菌叢から取り出したゲノム配列を全て解析する方法が主流になった。

そして最近の最も大きな進展は、DNA配列を一度に解析できる long read と呼ばれるシークエンサーが発展し、腸内に存在しているバクテリゲノムをこれまで考えられなかったレベルの精度で再構成できるようになった。今年9月に紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/27460)この方向性の研究は始まったばかりだが、腸内細菌叢の人為的操作につながる様々な技術開発につながるのがわかる。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、6人のボランティアから採取した腸内細菌叢を、short read と long read で解析し、細菌叢ゲノムの中に組み込まれたファージウイルス(=プロファージ)をできるだけ正確に解析し、細菌との関わりを調べた極めて地味だがこの分野の将来には欠かせない研究で、11月26日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Long-read metagenomics reveals phage dynamics in the human gut microbiome( long read によるメタゲノムによりヒト腸内細菌叢のファージの動態が明らかになる)」だ。

9月に紹介した論文と同じで、得られた解析結果を short read と比べることでプロファージ研究にとっての long read の重要性を際立たせるように計画してある。実際 short read ではゲノム外のファージと区別がつきにくく、short readデータ内のプロファージの割合は高々5%に過ぎない一方、long read だと60%がプロファージに相当する。

まず面白いのは2年の間隔を空けて同じ人の細菌叢を比べた時、繰り返し検出できたプロファージのほとんどは安定して同じ細菌に維持されていた点だ。10月に紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/27638) プロファージは様々な刺激で活性化されるが、このような誘導現象は実際にはほとんど起こっていないことがわかった。もちろん、低いレートであるがファージが誘導され他のホストに組み込まれた例や、環状DNAとしてプラスミドのようにファージがホスト内に存在している例も発見できる。大事なことは、試験管内で起こる大規模な溶菌ではなく、個別の細菌レベルで小規模な誘導と伝搬が起こっている点で、細菌叢の多様性が大規模な伝搬を防いでいることがわかる。

この研究から得られる最も重要な情報は、組み込まれるバクテリアのレパートリーの制限で、種、属、科と広いレパートリーで同じプロファージが見られる場合、遺伝子導入に使える可能性がある。実際にはほとんどが種レベルの細菌だけに伝搬するが、属レベルや科レベルの細菌に広く感染しているファージをそれぞれ10種類程度特定しており、今後の研究が楽しみだ。

最後に、プロファージはゲノムを離れ他のゲノムに組み込まれるためのインテグレースという酵素を持っているが、今回ホストのIS30と呼ばれるトランスポゼースを組み込んプロファージが多数見つかることも明らかにしている。

以上が結果で、まだまだ記述段階の地道な仕事だが、新しい細菌叢研究が始まったことを告げる研究が次から次へと発表されている。今後腸内細菌叢のゲノムを事前学習した言語モデルができてくると、我々の腸内細菌叢とは何かという究極の謎に迫れる気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ
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