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1月29日 保育園で形作られる腸内細菌叢(1月21日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月29日
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人間の様々な集団について調べた腸内細菌叢の研究を読むと、人間の言語によく似ているなといつも思う。我々は言語を話す能力を持って生まれてくるが、言語自体は一生をかけて人とのつながりの中で学習し、自分の脳内に言語空間を形成する。とは言え、言語は我々の脳内の言語空間に閉じ込められるわけではなく、自分が発する言葉として社会に投げられる。そこで、他の構成員から投げられた言葉とともに、個人とは独立した大きな言語空間が形成される。それぞれは相互に作用し合い、刻々変化する。そして、流行語や優れた文章に見られるように、言語空間を形成するユニットは、個人から個人、個人から社会、社会から個人へと不断に行き来する。

言語と同じで細菌叢も、最初は両親兄弟など家族を中心に、その後個人が経験する様々な社会から獲得され、個人の細菌叢として発達する。もちろん細菌叢が維持される社会の場所があるわけではないが、多くの人がコミュニケーションを通して影響力のある細菌叢が形成され、これは地域や民族により異なる。

少し前置きが長くなったが、細菌叢の個人と社会のコミュニケーションによる発達や変化について研究をしたのが今日紹介するイタリア・トレノ大学からの論文で、1月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Baby-to-baby strain transmission shapes the developing gut microbiome(子供から子供の系統の移行が発達中の腸内細菌叢を形成する)」だ。

研究では、生後1年目から同じ保育園に預けられた43人の新生児を、生後1年の家庭内での育児期間に1回、その後保育園に預けられている間に40回程度(途中2回の休みにそれぞれ1回)便を採取して、細菌叢の全遺伝子解析を行っている。これと平行して、保育園の先生、母親父親、そして兄弟についても数回の細菌叢ゲノム解析を行い、それぞれの子供が家庭から保育園という社会で育っていく中で、細菌叢が社会の他のメンバーの細菌叢とどのように相互作用していくかを調べている。

細菌叢とコミュニティーの研究はこれまでも数多く行われてきている。しかし同じ保育園での子供同士を比べる研究は面白いアイデアで、これまで行われていない。さらに、細菌が個人間を伝搬する過程を正確に調べるため、細菌叢から得られる全ゲノムを解読し、これまで特定されない201種を含むトータル512種の系統関係を明らかにし、これを用いて細菌の個体間の伝搬の様子をレトロスペクティブに追跡出来るようにしている。これまでの研究が属レベルを区別する16rRNA シークエンスで行われてきたのを考えると、この徹底性がこの研究の特徴だ。

まず言語と同じで、新生児の細菌叢の種類は少なく、大人も子供も一人一人存在する種類が異なっている。不思議なのは、この方法で比較すると、これまで言われていたような出産時の抗生物質使用、帝王切開などの差は、細菌種の多様性に大きくは影響しない。また、兄弟がいる方が種類が多様化するので、発達時に多くのメンバーとコミュニケーションがあるほど細菌種が増える。

共有されている種の比率から、子供の細菌叢を形成する過程で細菌種の個体間のやりとりを特定できる。この結果、兄弟の影響と同じで、保育園で新しい子供同士のコミュニケーションを続けることが、家族以上に細菌叢の発達に大きく寄与することがわかった。

研究では、一つの細菌種が同じ保育所の子供たちに伝搬する過程を追跡して、これらの発達が人間観での細菌種の伝搬によることも、証明している。そして、このやりとりの中から、伝搬性の強い細菌を特定することにも成功している。伝搬性の高い細菌は、好気環境に強く、また逆境で休眠できる種と言える。この中で、保育園で子供同士で伝搬しやすい細菌種の代表はビフィズス菌で、このことを知る前から、我々が経験的にプロバイオとして利用しているのもおもしろい。

子供の言語吸収能力が早いのと同じで、抗生物質で一度壊れた細菌叢の回復力は子供が圧倒的に早く、多くは新しく他の人間から導入している。一方大人になると、他の人間から細菌種を獲得することは少なく、元々持っていた細菌叢が増えてくるのを待つことになる。英語を子供の時に習うほど良いというのに似ている。

私たちの時代は共稼ぎは珍しく、幼稚園まではほとんど家族と近所の子供と過ごした。しかし今は多くの子供が保育園を経験する。この研究では細菌叢の健康への影響は示していないが、1歳児保育の有り無しで子供の将来の健康を比べることは重要なテーマになると思う。

自分で面白いと思った点を強調して紹介してしまったが、この研究を読んで、細菌叢の発達は言語の発達と同じという確信を強くした。

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