ハンチントン病はハンチンティン HTT と呼ばれる遺伝子内の CAG 配列の数が増加して、結果異常な長さのポリグルタミンが脳に蓄積し、神経細胞を傷害することで起こる。現在原理に即した治療開発が進んでおり、このブログでもかなり多くの論文を紹介している。このような根本的治療法の開発とともに症状を軽減する方法の開発も生活の質を高めるためには重要になる。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、運動皮質の VIP 作動性介在神経を刺激することで、運動障害をかなり軽減できることを示した研究で、7月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Restoring cortical disinhibition improves Huntington’s disease phenotypes(皮質の抑制異常を正常化することでハンチントン病の症状を改善できる)」だ。
基本的には人変異HTTを導入したマウスモデルでの研究になる。R6/2 モデルマウスを回転するはしごに乗せて運動させると、足がついていかずに引きづってしまう。皮質運動野には VIP、ソマトスタチン、そして Parvalbumin 発現の3種類の介在神経と線条体に軸索を伸ばす興奮神経が回路を形成している。そこで、この運動障害と、それぞれの神経活動に相関があるかどうかを次に調べると、ハンチントン病の進行ともに、VIP 神経の活動が強く抑制され、逆にソマトスタチン神経や、parvalbumin 神経は興奮が上昇する事、そしてこれらの活動の結果興奮神経の活動が低下することを明らかにした。
次に自由な行動パターンビデオを機械学習で分類、行動と各神経の興奮を調べている。通常運動を始めるときに VIP 神経の興奮が起こるのだが R6/2モデルマスでは運動から休止に移行したときに反応が上がり、運動へと移行するときには反応が下がる。ソマトスタチン神経は運動に応じて興奮するが、正常の反応と比べると、反応が大きくなっている。この回路では VIP 神経がソマトスタチン神経を抑制する関係になっているので、VIP 神経の興奮異常が運動障害に最も大きく関わる可能性を示唆している。
以上を確認した上で、次に VIP 神経の運動時の興奮低下を外部からの刺激で元に戻すことで、運動機能を改善できないか調べている。刺激は電極ではなく、VIP 神経を光遺伝学的に操作して、興奮を誘導している。光刺激を加えると、VIP 神経は興奮を回復できる。そして、支配するソマトスタチン神経の興奮を抑えることができる。
この条件で、週一回光刺激を繰り返し、様々な時期に運動障害の程度を調べている。結果は期待通りで、刺激を繰り返すことで、足を引きづる運動障害が強く抑えられる事がわかった。また、この改善は決して光による刺激時で起こるのではなく、光刺激とは無関係に機能が改善することを明らかにしている。
結果は以上で、今まで同じような実験が行われなかったのかと思うほど、焦点を絞った実験で、これにより皮質回路の可塑性を回復させられる可能性が示されたのは大きい。実際ハンチントン病で傷害される皮質は広いため、人間にも適用出来るか、あるいは不随意運動にも同じようなスポットがあるかこれからの問題だと思うが、入り口が開いた気がする。
