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7月11日 白血病はゲノムだけで決まる訳ではない。(7月8日 Nature オンライン掲載論文)

2026年7月11日
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私も多くの友人をガンで亡くしているが、今回自分がガンになって、多くの友情や理解に支えられ、少なくともゲノムだけは徹底的に調べることができ、その中から様々な作戦が考えられることを知って、結果はともかく新しい時代まで生きることが出来て良かったと感謝するとともに、自分のガンのことをほとんど知ることなく逝ってしまった友達の無念が伝わる。このように、自分のガンを知る意味でゲノム変異は最も大きな情報になるが、ガンのタイプはゲノムだけで決まっているわけではない。例えば K-ras, p53 等のよく似た変異を持っていても、直腸ガンと膵臓ガンは区別される。これは、それぞれの臓器の発生過程で、染色体構造の変化、即ちエピジェネティックな変化によって細胞の特徴が決まったところに、ガンのゲノム変異が加わるからで、もちろん大きくエピゲノムが変化してしまうこともあるが、ゲノム変異にもかかわらず、細胞の特徴が維持されていることになる。即ち、特定のガンを知るには、ゲノムとエピゲノムを明らかにすることが必要になる。

このことを見事に証明したのが、今日紹介する京大とカロリンスカ大学からの論文で、1500例を超す急性骨髄性白血病 (AML) のゲノムとエピゲノムを徹底的に調べ、様々な細胞へと分化する血液幹細胞のガンは、エピゲノム抜きに理解できないことを示した研究で、7月8日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Chromatin landscape and epigenetic heterogeneity of acute myeloid leukaemia(急性骨髄性白血病の染色体地図とエピジェネティックな多様性)」だ。

研究では1500人を超す症例について、ゲノム、Atac-seq によるオープンクロマチンを調べ、一部の患者さんではメチル化DNAや、Chip-seq による super enhancer の特定、必要に応じて single cell レベルの Atac-seq まで行い、徹底的に AML のエピゲノムを解明している。(このブログで最初に Atac-seq を紹介したのが2015年だったが、あれから10年、エピゲノム検査のエースとして定着しているのに感心する。)

データは膨大で、詳細については AML やゲノム研究について知識が必要だと思う。事実、京大の小川さんたちは日本のガンゲノムを牽引してきており、特に AML のゲノム分類では大きな成果を上げてきている。その上に、今度は Atac-seq を中心にエピゲノムを加えているので、Fig.1c にまとめられたデータは、おそらくこれからの臨床にとっては情報の宝庫になるが、ここでは詳細は全て割愛して、大きな結論だけを紹介する。

  1. Atac-seq のピークのパターンから、AML を16サブグループに分けることができる。このパターンはメチル化DNA のパターンとほぼ逆相関で一致している。
  2. エピジェネティックサブグループは、白血病発生に関わる遺伝子と強く相関していても、独立している。例えばサブグループA (SubA) では、PML-RAR 転座と完全に一致するが、AML の3割程度に見られる有名なFLT3-ITD は、広くサブグループに分布している。即ち FLT3-TID だけでは AML のドライバーという一面しか見ることができない。
  3. この事実は、遺伝子変異はランダムに起こるにせよ、造血細胞に応じてドライバーの好みがあることを意味する。
  4. 事実、エピゲノムをベースのサブグループは、当然転写されている遺伝子の違いと対応しており、ほとんどは血液分化のステージを反映する。さらにそれぞれのサブグループで働いているスーパーエンハンサーを Chip-seq で特定することが出来、例えば Su-M、 N では骨髄球や単球、Sub F、H では赤血球系で働くスーパーエンハンサーが特定できる。このようにエピゲノムのプログラムの強固なネットワークの上に、ガンが発生しているのがわかる。
  5. 即ち、エピジェネティックに決定される造血系の複雑な前駆細胞階層性のうえに、白血病が発生していることがわかるが、これをさらに確認するため、各グループの白血病細胞の single cell Atac-seq を行い、single cell レベルでは明確に一つの前駆細胞に対応する白血病であることを証明している。
  6. さらに、ガンの幹細胞に関しても、それぞれのエピジェネティックなタイプごとに、特定することができる。
  7. そして何よりも重要なのは、この分類は臨床的な予後、薬剤への反応性など、臨床経過を強く反映することで、例えば同じように K-ras、p53 変異でも膵臓ガンが予後が悪いというのと同じことが、AML では同じ白血病の中でわかる点だ。

以上、かなり私の勝手な解釈を加えて、詳細を省いて解説した。間違っていると小川さんからお叱りを受けるかもしれないがお許し頂きたい。造血系などの複雑な階層性が存在する組織では、ゲノムだけでガンを定義するのは片手落ちであることを見事に示した研究だと思う。そして、AML だけでなく、全てのガンで、ガンを知るのにエピゲノムも欠かせないことを示していると思う。是非次世代の体がん戦略に役立てていってほしい

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