昨日の日経新聞に「肥満薬、開発レース激しく」というタイトルで、GLP-1などの抗肥満薬の市場規模が30兆円になろうとしていることについての記事が出ていた。驚くべき数字で、フィーバーぶりがわかるが、GLP-1受容体アゴニスト (GLP-1RA) の作用についてはまだまだわかっていないことも多く、思わぬ副作用が起こる可能性を示した論文を3編紹介する。
最初のペンシルバニア大学からの論文は、GLP-1RA を使っている糖尿病患者さんは脱毛症になる危険性が SGLT-2 阻害剤群より高いことを示した研究で、British Medical Journal に掲載された。タイトルは「Risk of hair loss associated with glucagon-like peptide-1 receptor agonists in adults with type 2 diabetes: target trial emulation(2型糖尿病の成人のGLP-1RAは脱毛症のリスクがある)」だ。
研究はペンシル大学医学部の関連病院の電子カルテから、2型糖尿病で GLP-1RA、SGLT2 阻害剤、DPP4 阻害剤のいずれかの投薬が始まった患者さんで、投薬前に円形脱毛症の診断を受けたことのない患者さんを年間追跡、脱毛症の発生を調べている。
結果は明白で、SGLT-2阻害剤やDPP-4阻害剤投与群と比べて、円形脱毛症の発生頻度は2倍近い(1000人に7人程度の発症)。GLP-1RA の薬剤の中では、GIPR にも効果がある Tirzepatide 服用群が最もリスクが高い。
以上の結果は、これまで小さな規模の研究で指摘されてきたことを、1万人規模の対象で確認したもので、脱毛症は GLP-1RA の副作用として明確になった。これまでカロリー制限が脱毛を誘導することは知られており、急速に体重を低下させる GLP-1RA も同じメカニズムで脱毛を促進すると考えられる。ただ、自己免疫性の円形脱毛症の発生は認めないので、免疫より、代謝や内分泌の変化が重要と結論している。
2番目はトロント大学からの論文で、GLP-1RA 使用による虚血性視神経症の発症リスクを調べた研究で、6月22日号の Neuro-ophthalology and strabismus に掲載された。タイトルは「Ischemic optic neuropathy with semaglutide: global observational analysis of sex- and formulationspecific risk(セマグルタイドによる虚血性視神経症:国際的観察研究による性別、薬剤別のリスク)」だ。
研究ではFDAの副作用レポートデータベースから2017-2024年にいずれかの GLP-1RA を用いたとき虚血性視神経症を発症が診断されたリスクをオッズヒトして算出している。結果は驚くべきもので、ozempic、semaglutide、wegovy 全てで、特に男性で虚血性神経症の発症リスクが上昇している。おもしろいのは、成分は同じでも wegovy を利用時のリスクが高く、それぞれが含んでいる用量から考えると、使用量の多いほどリスクが上がることになる。一方 GIPRA 作用も持つ Tizepatide ではほとんどリスクは上がらないことから、抗肥満剤として用いるとき、wegovy のような高用量の GLP-1RA は避けて GLP-1/GIPRA を選んだ方が良いという結論になる。
最後のカナダ・British Columbia大学からの論文は、動物実験で GLP-1RA 投与が骨再生に関わる骨芽細胞に影響する可能性を示した研究で、7月21日 Cell Reports Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Negative effects of semaglutide on bone in obese mice(肥満マウスでセマグルタイドは骨にネガティブな効果を示す)」だ。
研究は単純で、12週間高脂肪食で肥満にしたマウスに、4週間毎日セマグルタイドを投与して、大腿を採取、重さや強さ、血液中の分子マーカーなどを調べている。セマグルタイド非投与群では食事量を投与群と同じに調整して、食事量による変化を平準化している。
結果は明確で、大腿骨の重さ、強さ、もろさなど強度が低下していること、そして血中のオステオカルシンやPINPのような骨芽細胞活性マーカーが低下していることが示されている。ただ、セマグルタイドをやめると全て元に戻る。
以上の結果は、動物実験で、セマグルタイド毎日投与という方法の問題はあるが、GLP-1RA が脂肪や筋肉だけでなく、骨の代謝にも影響して体重を落とす可能性があることを示唆し、臨床的にも確かめる必要性を指摘している。
以上が結果で、30兆円という市場が形成される薬剤だが、まだまだ我々の知らないことがあることを示唆している。
