元々腎臓内科医としてスタートした発生学者の西中村さんのおかげで、我が国の腎臓オルガノイド研究は世界をリードしてきた。西中村さんはアクチビン発見者の浅島さんとはおそらく一種の師匠と弟子のような関係を持たれているようで、浅島さんのアニマルキャップにオルガノイド研究のルーツがあるのかななどと勝手に納得していた。しかし腎臓のような複雑な構造の臓器をオルガノイドで再現しようとチャレンジしたこと自体おどろく。
ただ、いわゆる自己組織化という一種他人任せの発生操作は万能ではない。今日紹介する南カリフォルニア大学からの論文は、これまでのオルガノイド培養の問題点を、正常発生と詳しく比較し、人為的にでもオーガナイザーを導入することでより複雑なオルガノイドが可能になることを示した研究で、7月2日 Science に掲載された。タイトルは「Patterning human kidney organoids with synthetic Wnt-secreting organizers(ヒト腎臓のオルガノイドを人工的なWnt分泌オーガナイザーによりパターン化する)」だ。
ほとんど腎臓発生は勉強していないが、この研究ではヒトのネフロン発生過程の Xenium 解析をベースに、ネフロンが集合管から分泌される Wnt11 と Wnt9B の連携により増殖とネフロンの延びる方向が決められることが重要であることを示している。即ち、集合管がオーガナイザーとしてネフロンの方向性と長さが決まっていく。
次に、一般的なオルガノイド培養で発生するネフロンを正常の発生過程と比べている。確かにネフロンの構成要素はほとんどオルガノイドでも発生するが、正常で見られる集合管から明確な軸に沿った極性がほとんど見られない。さらに、集合管で発現している Wnt9B もオルガノイドでは認められない。要するにオルガノイドの中では Wnt シグナルが低下しており、逆に Wnt 阻害分子などの発現が上昇している。しかし、Wnt なしでどうしてネフロンの誘導が起こるのかという問題があるが、最初に小分子阻害剤を用いた Wnt シグナルをオルガノイドに提供していることで、Wnt で刺激されたように振る舞っているが、構造化に必要な極性などが再現できない。
そこで Wnt を分泌する細胞を作成し、集合管の代わりに Wnt 分泌オーガナイザーとしてオルガノイドに接触させると、見事に極性を持ったネフロンが形成されることを発見する。さらに、Wnt の量に応じて、遠位と近位のネフロンの細胞の数が決まり、正常な構造には、特定の Wnt 発現量が重要であることを示している。
結果は以上で、もちろんオルガノイド研究の人たちも十分認識していたことを、改めて美しいビジュアルを用いて示した研究だと言える。しかし論文を読んでいて、昔のアニマルキャップとオーガナイザーと言った研究とのオーバーラップを強く感じた。
