今日はどちらもNature Medicineに掲載されていたアルツハイマー病(AD)についての臨床研究を紹介する。
最初のワシントン大学からの論文は環状RNAを用いてADのステージについての正確な診断を行う試みで、7月1日にオンライン掲載された。タイトルは「Blood-based circular RNAs for early diagnosis of Alzheimer’s disease(血中の環状RNAはアルツハイマー病の初期診断に使える)」だ。
これまで症状の出る前からADのリスクを判定できる血中マーカーとしてpTau217が開発され、広く使われるようになった。ただ、アミロイド沈着に依存するため、抗体治療でアミロイドが除去されると病気のモニターに使えなくなる。この研究では神経細胞由来のRNA、とりわけ血中で安定な環状RNA を用いてAβやTauの治療にかかわらず診断が出来ないか、500人近くのADのコホート研究サンプルを用いてチャレンジしている。
結果、主に脳で発現しているmRNAがスプライシングを受ける際に発生する34種類の環状RNAの量を組み合わせた指標を開発し、この指標がアミロイドPET等の他の検査と比べても、ADリスクや病態と相関する検査になることを示している。pTau217と組み合わせて使うと、AUCで0.931と言う高い特異性でアミロイドPET陽性の患者さんを発見できることを示している。最初、神経が損傷されて環状RNAが出てくるから神経変性疾患の間で特異性がないのではと思ったが、なんとAD特異的で、逆に言うと他の神経変性疾患でも同じようなマーカーを開発できる可能性がある。
環状RNAは認知症が始まる2年前から陽性になり、この数値は予後と強く相関する。更には胃や胃段階から上昇するpTau217と比べるとその精度は一段と上がる。
以上が結果で、ここでは検討されていないが、アミロイド抗体を用いた治療群を調べると、検査としての重要性がより明確に示されると思う。実際にはシークエンスベースで行っているが、簡易検査として確立することを期待している。
次は米国のImmunobrain Checkpoint Incという会社と、イスラエルワイスマン研究所などからの論文は、軽度認知を示すAD患者さんの進行を、ガンのチェックポイント治療に用いられるPD-L1抗体を用いて抑える第一相の治験で、7月15日にオンライン掲載されている。タイトルは「Immunotherapy with a short-lived anti-PD-L1 antibody in Alzheimer’s disease: a phase 1b, randomized, double-blind trial(半減期の短いanti-PD-L1を用いたアルツハイマー病の免疫治療:無作為化、2重盲検第一相b治験)」だ。
ADにチェックポイント知慮を行う理由は、高齢のAD患者さんでは免疫機能が低下しており、ミクログリアなどの活性が低下して異常が拡大する傾向にあると考えているからだ。これは年齢とともに自然炎症が亢進することがADのリスクになるとする考えの真逆になる。ただ、チェックポイントは獲得免疫の話なので、自然炎症とは別に獲得免疫がADの進行を抑えているという前臨床研究が行われてきたのだと思うが、全く把握しておらず、こんな治験が始まっているのかと正直驚いた。
とは言え、ガンに使う抗体とは異なり、わざわざ半減期が短い抗体を設計し、しかも12週に1回と、かなりの間隔を空けて注射している。ただ投与量は30mg/kg と多く、例えばPD1抗体は3mg/kgで使うことを思うと、短い期間免疫疲弊を戻すという方法だ。
結果だが、量は多くとも、間隔が短く半減期も短いので、通常のチェックポイントよりはるかに副作用は少なく、一番重い副作用として自覚症状のない肝機能低下が挙げられている。また、薬剤動態だが4日で抗体価が半減している。
効果だが、活性化T細胞が投与後1週間をピークに末梢血に出現し、免疫反応では期待の効果を上げている。そして、ADのバイオマーカーとしての脊髄液中のneurogranin、tTau, pTauの量は低下している。症状については、ほぼ一年の経過観察でホトンの大きな変化がないという結果だ。
なんとなく効いてそうな感じだが、軽度認知症を対象にAβ抗体を選ぶのか、PD-L1を選ぶのか、もっと大規模な第二相、第3相の結果待ちになる。いずれにせよ、ADも搦め手からの治療法はまだまだありそうだ。
