高温でも棲息できる高熱細菌は生物学の発展に大きく寄与している。Covid-19パンデミックで一般の人にも完全に周知されたPCR検査は、高温に耐えるDNA複製酵素が支えている。と言うのもPCRによる遺伝子増幅には、複製したい2本鎖DNAをまず一本鎖に変えてからそれぞれの鎖を複製する必要がある。DNA2本鎖が一本づつに別れるためには、94℃以上に熱する必要があり、その後プライマーと会合させて複製を進めるには温度を下げる必要がある。即ち、温度を二本鎖分離、プライマー結合、複製と変える必要がある。この温度変化に耐えるために使われているのが、好熱菌から分離したDNAポリメラーゼで、これら異なる温度で働くことが出来るのは、高熱細菌由来のポリメラーゼだけだ。このように、細菌や古細菌には100℃以上の環境で増殖するものが多く見つかっているが、これまで知られている高い温度で棲息できる真核細胞は、カビや藻類で見つかっているだけだった。
今日紹介する米国ニューヨークのシラキュース大学からの論文は、藻類より進化したアメーバの中にも63℃と言う高温でDNA複製と細胞分裂や細胞移動を平気で行う種の存在を明らかにした研究で9月22日Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A geothermal amoeba sets a new upper temperature limit for eukaryotes(地熱地帯で発見されるアメーバは真核生物が生存可能な新しい限界を示す)」だ。
カビや藻類で60℃近くで生存する種は知られているので、この研究では最初からアメーバに絞って米国の米国ラッセン火山国立公園の49-65℃のお湯が流れる川で、pHが6-7と安定している支流を選び、3年かけて探索し、高温で生息できるバクテリアを食べるアメーバを分離するのに成功している。最初は実験室で63℃で増殖させた系統を解析に使っているが、その後同じアメーバを高温の環境から直接分離することにも成功している。
まずゲノムを解析して系統関係を確立し、これまで耐熱性があることで知られるVermamoeba vermiformisに近い新種で、Incendiamoeba cascadensis(炎のアメーバ)と名付けている。63℃で平気で増殖することから、真核生物の高温耐性の限界を引き上げる新種の発見と言える。
まず細胞学的に、高温で細長い芋虫様形態と典型的アメーバ様構造をとることができる。それぞれは食べる時と移動するための形態といえる。増殖活性は55℃がピークだが63℃まで増殖できる。そして、完全に融資分裂がこの温度で起こることも確認される。また、さらに高温になると増殖は止まりシスト形成により生存が可能だ。これにより70℃までは生存し温度を下げると増殖を再開するが、80℃になると死滅する。
重要なのは、高温でも生存するメカニズムだが、これについてはゲノムや遺伝子発現をざっと見ているだけで、詳しい解析はこれからになるが、それでも熱耐性への進化の道筋は追うことができる。まず最も近いV. vermiformisと比較した時、共通の遺伝子は半分だけで、残り7000近くの遺伝子はこの種特異的であることが分かった。原核生物では遺伝子がコンパクトになるとは逆の戦略がとられている。また遺伝子自体の耐熱性のためのコドンの使用パターンも違う。
温度が上昇した時に発現が変化する遺伝子を調べると、シャペロン、タンパク分解システム、DNA修復、細胞膜やオルガネらとの輸送システムなどが上昇し、アミノ酸代謝、脂肪代謝など軒並み低下が見られる。重要なのは、高温で強く誘導される200遺伝子のうち、70%が機能が予想できない分子で、熱耐性を理解するための宝の箱が開いたかもしれない。
そして、多くのタンパク質で高温耐性が発生している。代表的な分子の構造をAIで調べると、疎水性で側鎖が荷電していないアミノ酸がタンパク質表面から除去されることで、高温でタンパク質が凝集するのが防がれている。また、表面の電荷が少ないのは熱耐性菌でも見られる。
以上が結果で、遺伝子解析は行われていても、なぜ60℃を超える高温でアクチンや微小管をコントロールして分裂や遊走貪食が可能なのかなど、多くの面白い課題が残った。さらに、全く機能のわからない何千もの分子が存在し、全てではないにせよ耐熱性を支える分子の宝箱がどう進化したのか、興味は尽きない。
