8月2日 メチオニン制限食はガン増殖をおさえる(8月1日Natureオンライン掲載論文)
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8月2日 メチオニン制限食はガン増殖をおさえる(8月1日Natureオンライン掲載論文)

2019年8月2日

最近のトップジャーナルの編集者は、論文としてのレベルはそれほどでなくても、すぐに人間の健康に役立つ論文なら、以前よりサポートするようになったと思う。その結果、NatureやScienceで症例報告まで掲載されることがある。雑誌の目的が、多くの人の興味を惹くことである以上、仕方ないことだと思う。

今日紹介するデューク大学からの論文はそんな一例で、メチオニン制限食によってガンの治療効果を高めることができることを示した研究で、8月1日のNatureにオンライン出版された。タイトルは「Dietary methionine influences therapy in mouse cancer models and alters human metabolism (メチオニン制限食はマウスのガンモデルの治療効果を高め人間の代謝も変化させられる)」だ。

メチオニンは人間にとって必須アミノ酸の一つで、したがってメチオニンが関わる葉酸を中心とするone carbon代謝と呼ばれる経路はメチオニンの摂取量により決まる。しかもこの回路は、核酸代謝や、抗酸化反応など、細胞の増殖や寿命に関わる重要な代謝物の合成に必須であることがわかっている。そのため、これまでアンチエージングやガンの治療として、メチオニン制限食の可能性が示唆されていた。

タイトルからわかるようにこの研究もガンの治療の一環としてメチオニン制限食がどのぐらい有効か調べることを目的としているが、この発想自体は新しいわけではない。ただ、実際の治療セッティングに役立つようにしっかりと研究が行われている点で評価されたのだろう。

まず制限食に変えてすぐ(2日後)に様々な代謝物からみた代謝が変化することを示している。これは治療という観点から見ると重要だ。そして、移植された自然発生腫瘍の増殖を、制限食だけでかなり抑えられることを示している。しかし、予想通り決して完治することはない。

次に、制限食だけでは抑制がうまくかからない腫瘍も、同じ代謝経路に関わる核酸阻害剤5FUと併用すると、一定の効果を示し、実際代謝もさらに大きく変化することを示している。同じように、放射線照射との協調性もみられる。

最後に、では同じような食事で人間の代謝もすぐに変化するかボランティアを用いて検討し、マウスと同じような核酸代謝、エネルギー代謝、酸化反応への効果が認められることを示している。しかし、ガンの治療実験は行われていない。

以上が結果のすべてで、正直言って掲載されるレベルとはお世辞にも言えない。しかし、著者らも述べているように菜食主義や地中海食の食事にはこの基準に達するものが存在しており、またFDAの許可が必要というわけではないので、低栄養さえ気をつければ、明日からでもトライすることができるという点で、掲載されたのではないかと思う。おそらく、ほぼ全てのガンに効果があると思うので、その意味で重要な論文だと思う。

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8月1日 悲しい選挙結果(7月19日号 JAMA Network Open 掲載論文)

2019年8月1日

今後急速に人口が減少すると予想される我が国も積極的に外国人労働者を受け入れる方向に舵を切ったが、今や先進国で移民政策なしに成長はないと言ってもいい。要するに、それぞれの国の必要から移民政策がある。しかしどんなに必要だからと言っても、移民政策は差別と表裏一体で、差別のない多民族社会を維持するためには強い政治的リーダーシップが必要になる。この差別意識のドグマは、ヨーロッパではブレクジットやポピュリズム政党の台頭として顕在化したが、多民族社会を国の精神にしていたはずの米国でも、2016年のトランプ選挙のあと彼の発言に支えられ、アメリカ第一主義のもと移民制限から差別へと拡大しつつあるように見える。

今日紹介するニューヨーク、Stony Broock大学を中心とした共同グループによる論文は、このようなアメリカの変化を医学データから検証しようとする研究でJAMA Network Openに掲載された。タイトルは「Association of Preterm Births Among US Latina Women With the 2016 Presidential Election (米国でのラテン系女性の早産は2016年大統領選挙と相関している)」だ。

社会学的調査で差別の実態を調べることはわが国でもよく行われているが、米国では医学調査で差別を裏付ける試みが行われているようで、トランプが選挙キャンペーンでメキシコ国境の壁から、不法移民の強制送還までキャンペーンした影響を、ラテン系住民の血圧や、精神疾患、あるいは低体重児の出産頻度の増加などとの相関として調べられてきていた。しかし、これまでの研究は統計学的に完全ではなく、トランプにjust an opinionと片付けられそうなので、3000万人に及ぶ国の出生統計をもとに、ラテン系住民(合法、非合法の滞在者を問わない)の出生に対する早産率を調べたのがこの研究だ。

基本的には大統領選挙に入る前と、選挙後の早産率を月ごとに比べたもので、統計的正確さを確保するために、様々な調整を行なって、予断が入らないよう様々な工夫が行われているが、詳細は全て省く。

結果は、全体で見たとき選挙中に妊娠していたラテン系住民の早産率は、それ以前と比べ0.6%近く増加している。もちろん大きな差ではないが、月ごとに見ると、選挙後2017年2月と、7月ではっきりとした増加が認められることから、ラテン系移民を名指した選挙キャンペーンにより、早産率が上がったことは間違いないと結論している。

結果は以上で、相関が見られるという以上の調査ではない。ただ選挙中の発言の影響ということで、一人の政治家の発言が多くの人の健康に影響がある可能性を示す一つの例にはなるだろう。個人的には、身体の医学を社会の問題と結びつけようと常に努力している米国の医学の幅広さに感心した。

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7月31日 自閉症スペクトラムを簡単に、早期に診断する(米国アカデミー起用オンライン版掲載論文)

2019年7月31日

自閉症スペクトラム(ASD)に対しては、現在着実に様々な治療手段の開発が進んでいると思う。ただ、脳発達から考えると、できるだけ早く診断して、脳の自由度の高い時期から治療を始める方が望ましい。従って、治療方法の開発とともに、早期診断方法の開発も重要な課題になる。

今日紹介するハーバード大学からの論文は覚醒時のコリン作動性の神経の興奮が振動していることを利用して1−2歳からASDの診断が可能になることを示した研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Deep learning of spontaneous arousal fluctuations detects early cholinergic defects across neurodevelopmental mouse models and patients (自発的におこる覚醒時の変動を深層学習させることで、神経発達異常を示すマウスや人のコリン作動性システムの異常を検出する)」だ。

私たちが覚醒状態を維持しているときコリン作動性の神経興奮は振動していることが知られている。これは瞳孔の大きさの変化や、心拍数の変化として見られ、外からの刺激に迅速に対応するための準備と考えられている。著者らは、この心原生の振動の違いをASDの診断に使えないかと考えた。

ASDの多発するBTBRマウス、MECP2遺伝子の欠損したレット症候群モデル、そしてCDKL5欠損マウスの3種類のASDモデルを用いて、自由回転するボールの上で覚醒状態を保っているマウスの瞳孔サイズの変化を調べ、正常と比べるとASDモデルマウスでは変動幅が大きいことを発見する。

次にレット症候群モデルでまだ行動学的異常が見られない生後2ヶ月までのマウスでも、瞳孔サイズの変動の異常が同じように見られること、そしてコリン作動性の異常をMECP2発現神経で正常化させると、振動も正常化することを確認した後、この変化を検出してASDと診断できるAIプログラムを完成させている。

次に同じ機械学習を用いて、幼児の心拍数の変動をコリン作動性神経興奮振動指標として学習させ、ASDを早期に診断できないか調べ、レット症候群では1−2歳の段階で8割以上の子供を診断できることを示している。

この研究では、人間についてはレット症候群だけだしか調べていないが、検査は簡単なのでできるだけ多くの遺伝的ASDのケースにまず試して、他の遺伝子が原因のASDも同じように早期診断が可能か確認してほしいと思う。次に、家族にASDが見られるハイリスクグループを用いた研究を行えば、ほぼ可能性は確かめられるだろう。期待したい。

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7月30日 セラミドと糖尿病(7月26日号 Science掲載論文)

2019年7月30日

一般の人にとってセラミドとは、皮膚のケラチン層に存在して、保湿や皮膚のバリアー機能に欠かせない分子として理解されていると思う。実際保湿効果をうたう化粧品には必ず添加されている。

ところが臨床現場では最近になって、セラミドの血中レベルを糖尿病のインシュリン抵抗性や脂肪肝のマーカーとして用いる動きが出てきた。今日紹介するユタ大学からの論文はセラミド代謝がインシュリン抵抗性による肥満などの原因になっていることを示し、治療標的DES1分子を特定した研究で7月26日号のScienceに掲載された。タイトルは「Targeting a ceramide double bond improves insulin resistance and hepatic steatosis (セラミドの2重結合を標的にすることでインシュリン抵抗性と脂肪肝を改善できる)」だ。

セラミドの代謝には2つの重要なdihydroceramide desaturase(DES)と呼ばれる酵素があり、ジヒドロセラミドをセラミドへと転換している。このグループはこの反応によりセラミドレベルが高まると、肝臓や脂肪細胞で脂肪蓄積が高まるスイッチが入り、インシュリン抵抗性が高まることを、示してきた。

今回の研究では、このセラミドへの転換を促すDES1が肥満や糖尿病を改善する標的になるかどうかを調べるのが目的だ。

脂肪に様々な活性があることは知っていたが、セラミドを細胞に加えると脂肪蓄積のマスター遺伝子Srebs1が活性化されるとは全く予想だにしなかった。とすると、セラミドの血中レベルを下げることでインシュリン抵抗性が解消し、肥満が治るはずだ。この最も近道がジヒドロセラミドをセラミドに転換するDES1の活性を下げることだ。ただ、ジヒドロセラミドもセラミドと同じ効果があれば、この戦略は使えない。

この研究ではまず、大人になってから全身でDES1の転写を低下させるコンディショナルノックアウトを用い、DES1の活性が低下するとインシュリン抵抗性が改善し、肥満が治ることを確認する。すなわち、セラミドの量を減らせば代謝を改善させられる。

つぎに、脂肪細胞、肝臓細胞選択的にDES1遺伝子をノックアウトする実験を行い、どちらもインシュリン抵抗性が改善され、血中のインシュリン濃度が下がり、脂肪酸のレベルも低下することを確認している。

最後により治療可能性を追求するため、アンチセンスRNAをくみこんだ

アデノウイルスの効果を調べ、量に応じて大きな効果があることを示している。

結果は以上で、インシュリン抵抗性を誘導するのはセラミドで、慈悲泥セラミドではないこと、今後DES1を標的にすることでこの状態を改善できることを示した、少なくとも私にとっては新鮮な研究だった。

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7月29日 エストロゲン受容体阻害薬の作用機序の再検討(8月8日号Cell掲載論文)

2019年7月29日

乳がん治療の最も重要な薬剤が、エストロゲン受容体の阻害剤であることは、医師でなくてもよく知っている事実だ。しかし、抗エストロゲン薬といっても作用機序が異なることは意外と知られていない。

タモキシフェンは最初に開発された抗エストロゲン薬だが、エストロゲンと受容体の結合は阻害するが、核内で標的DNAと結合するのは阻害しない(タモキシフェン誘導による遺伝子活性化を考えて欲しい)。実際、受容体が持っているAF-1部分を介して、新たな転写が誘導されることもわかっている。そのため、完全なERの阻害剤にはならない。

この問題を解決する目的で開発されたのがFulvestrantで、受容体に結合すると受容体のユビキチン化を促し、分解するため、完全な阻害剤としてタモキシフェンより有効であるとされている。

今日紹介する創薬ベンチャーGenentechからの論文は、これまで考えられてきたこのFulvestrantの作用機序が、実際には間違っていることを証明した重要な論文で8月8日のCell に掲載される。タイトルは「Therapeutic Ligands Antagonize Estrogen Receptor Function by Impairing Its Mobility (エストロゲン受容体機能の阻害は受容体の細胞内での移動を阻害することで行われる)」だ。

この研究ではこれまで開発されたエストロゲン受容体(ER)阻害剤を集めて、まずERの分解、ERによる転写活性化、さらに乳がん細胞の増殖抑制などから、ER分解能、転写活性能の阻害効果が強い阻害剤GDC0927とGDC0810が、どんな細胞ででも強い増殖抑制を示す、分解活性の高い化合物であることを見つける。すなわちタモキシフェン型のER分解能が低い抗エストロゲン剤は、転写を完全に抑えるわけではないこと、一方転写を抑える活性の強い阻害剤は、増殖抑制効果も高いことを確認する。

これまでだと、fulvestrant型ではER分解率が高いため転写抑制効果が強いと結論して終わるが、このグループはさすが創薬ベンチャーだけあって、GDC0927ですら細胞によってはERを完全に分解するわけではないことに注目し、化合物を加えた時に染色体上でDNAと結合しているERについて調べ、予想に反しFulvestrantやGDC0927のような転写が低下する化合物でも、ERはDNAに結合していることを発見する。

しかし、fulvestrantやGDC0927は結合していてもコファクターのプロモーター部位への結合が維持されることで、染色体をオープン型に変化させないため、転写活性が低下していることを明らかにしている。 

この結果は、fulvestrantが単純にERを分解することで転写抑制していると言う考えでは説明できないので、タンパク質の新陳代謝を解析する方法を用いて調べると、核内でのERの動きが強く抑制された結果、分解が進むことを発見する。

以上のことから、抗エストロゲン剤の作用機序はリガンドごとに大きく異なり、またリガンド結合部への結合様態に応じて全く異なる効果を持つことを示している。私だけでなく、おそらく多くのプロもほとんど予想外の結果だろう。現在、Fulvestrantも含め、多くの化合物は薬剤として完全に至適化されたとは言いがたい状況で、経口投与もむずかしいものが多い。この研究は、抗エストロゲン剤の分野が奥の深い、まだまだ素晴らしい薬剤を生み出せる分野であることを示した意味で大きいと思う。多くの乳がん患者さんと一緒に期待したい。

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7月28日:血管平滑筋のグルコースに対する反応(Journal of Clinical Investigation オンライン掲載論文)

2019年7月28日

糖尿病の最大の問題は高血糖に反応して起こってくる様々な血管病変で、代謝を通じて影響を受ける動脈硬化過程から、グルコースに対する急性の反応まで様々だ。特に後者に関してはほとんど論文を読んだ記憶がない。

今日紹介するカリフォルニア大学デービス校からの論文は、その意味で高血糖がなぜ血管平滑筋の緊張を誘導するのか、生化学的過程を丹念に解明した研究でJournal of Clinical Investigationオンライン版に掲載された。タイトルは「Adenylyl cyclase 5–generated cAMP controls cerebral vascular reactivity during diabetic hyperglycemia(アデニルシクラーゼ5によって合成されたサイクリックAMPが糖尿病時の脳内の血管の反応性をコントロールする)」だ。

この研究では血管平滑筋に焦点を絞って、まずフレッシュな平滑筋を用いて、一般に糖尿病や、私たちの生活サイクルで起こる範囲のグルコースの変化に反応しておこる筋緊張を測定するシステムを構築している。

このシステムで緊張を高める原因が平滑筋内でサイクリックAMPが高まることであることを確認した上で、グルコースに反応してcAMPを合成する酵素がAC5であることを遺伝子ノックアウトなどを用いて確認する。

そして、このcAMPの局所での上昇が、L-タイプのカルシウムチャンネルの活性を高め、こうして高まった細胞内カルシウムが平滑筋の緊張を高めることを、試験管内および実際のマウス脳内で確かめている。

以上の結果をこれまでの研究結果と合わせてブドウ糖の上昇で平滑筋が高まる過程をまとめると、

グルコースが高まると、細胞内で核酸の合成が高まり、それによりプリン作動性の受容体が活性化し、これがAC5アデニルシクラーゼの活性を高め、これによる合成されたcAMPがL-タイプカルシウムチャンネル活性を高めて、細胞内カルシウム濃度が上昇し、平滑筋が緊張しやすい状態が生まれるという結果だ。

久しぶりに古典的とも言っていいい論文を読むと、何か一つ勉強した気になる、いい日曜日の朝だ。

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7月27日:皮膚の感覚神経による炎症誘導(8月8日号 Cell 掲載論文)

2019年7月27日

炎症が起こると、発赤、浮腫、痛み、熱が局所に必ず起こることは、古くから知られた事実だが、この疼痛には炎症部位で分泌された神経作動性ペプチドや熱そのものに反応した痛みを感じる感覚神経端末が関わることが知られている。しかし、あくまでも反応の主体は、炎症刺激物質に対する組織反応で、神経の反応は従と考えられてきた。

ところが今日紹介するピッツバーグ大学からの論文は、純粋な神経刺激により特殊なタイプの炎症反応が局所に誘導できることを示した研究で8月8日号のCellに掲載された。タイトルは「Cutaneous TRPV1 + Neurons Trigger Protective Innate Type 17 Anticipatory Immunity (皮膚のTRPV1神経はIL-17型防御型自然免疫を予防的に誘導する)」だ。

TRPV1神経はカプサイシンに反応して痛みを伝達する神経の主役だが、我々は痛み刺激が続くだけで炎症が起こっても良さそうだと直感的に感じていないだろうか?この疑問に答えるため、この研究ではTRPV1神経に光感受性のチャンネルロドプシンを導入して、その皮膚にレーザーで光をあて炎症が起こるかどうか調べた。

実際には光で痛みも誘導するので、痛みを感じた全身の影響なども除外していく必要があるが、結論は予想通り、光をあてた局所だけで局所の炎症刺激物質が誘導され、IL-17A分泌を核とする炎症が誘導されることを発見している。この、神経刺激だけで炎症が起こるというのがこの研究のハイライトで、あとはそのメカニズムを解明している。

メカニズムをまとめると次のようになる。

  • TRPV1陽性神経の興奮は、端末でのカルシトニン関連ペプチド(CGRPα)の分泌を促す。
  • CGRPαはシナプスと同じで小胞に蓄えられ細胞外に分泌され、近くのIL17A分泌T細胞を刺激する。
  • これにより局所の炎症が誘導される。同じ神経は分枝の興奮も誘導する結果、炎症が光をあてた局所を中心の小さなエリアに広がる。
  • 神経刺激のみで、皮膚真菌に対する免疫が成立する。
  • この神経は局所の真菌感染でも興奮し、周りの炎症を誘導することで、真菌に対する予防的防御反応を起こすことができる。

ある意味で、なぜこのような研究がもっと早く行われなかったのか、不思議に思うほど明確なデータで、痛いという刺激だけで炎症が起こってしまうことがよくわかった。とはいえ、神経が細菌を感じているなど、驚いてしまう。このタイプの神経は他の場所にも存在すると思うので、同じシナリオが消化器などにも当てはまるのか、研究が進むと予想できる。

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7月26日 自閉症を隠す(7月23日号The Lancet掲載論文)

2019年7月26日

比較的文化系マインドの強かった私は、精神科も進路の選択肢の一つとして考えていた。そのため、当時精神科の助教授をされていた高木隆郎先生の読書会に2度ほど出た覚えがある。高木先生は当時は珍しかった児童精神医学を専門に診療や研究をされていたが、ある時「治療と称して子供の行動を正常化させることが本当にいいのか、実際には良い子ぶった演技を強要しているだけではないのか」と疑問を呈され、新鮮に感じた覚えがある。大学をお辞めになってから開業され、今もお元気で診療しておられると思うが、卒業してからは一度患者さんを紹介した以外、お会いしたことはない。

前置きが長くなったが、今日紹介する英国キングスカレッジからの論文はまさに高木先生が指摘された、自閉症児が一般の人に合わせるため自分を演じているのかどうか、成人した自閉症の人々に直接たずねた研究で7月23日号のThe Lancetにオンライン出版された。タイトルは「Compensatory strategies below the behavioural surface in autism: a qualitative study (自閉症の行動の表面に隠れた代償戦略:定性的研究)」だ。

まず告白するが、紹介するのが難しい論文だ。研究では、自己診断も含めて18歳以上の自閉症症状を持つと考えられる人たちにネットで呼びかけてアンケートに答えてもらい、全質問に答えた136人(医師による診断:58人、自己診断:19人、特に自閉症と診断されたり自覚もないが社会に適合しにくい:59人)について、分析を行ったものだ。

結果は予想した通り、自閉症的傾向は決して自覚されないわけではなく、社会的規範に合わそうと様々な努力を行っていることを示している。成人して症状も軽くなった後とはいえ、自閉症を社会性の欠如と単純に決めつけることの間違いを指摘するものだ。このように社会に適合しようとする代償努力は、自閉症の診断が遅れたり、いじめの対象になったりの原因になり、診断や治療を考える上で必須の条件になると結論している。

実際私たちだって、社会に合わせるために自分を演じるし、良い子ぶるのが普通だ。その意味で、自閉症はあくまでも自閉症スペクトラムとして神経多様性として捉えることを改めて認識させる論文だった。

これ以上の紹介は難しいので、アンケートの回答に書かれていた「演じる」努力について抜き書きして終わる。

「いつもどう答えるか考えています。」

「話すときは、外国語を話しているようです」

「実際の行動と心は違うのに、周りの人にはそれはわかりません」

「人と付き合うのは多くの問題がありますが、わからないよう隠しています」

「他の人の行動パターンをよく観察し、それを真似するようにしています。」

「演じるのは必要だからで、人間がいかに残酷か嫌という程経験しています。」

「私と同じ言語を持つ自閉症の友達とは驚くほどうまくやれます。一般の人でも目をそらしても気にしないほとは付き合いやすいです。」

「社会に出て初めて自分が自閉症気味だと気付きました。」

「いつも自分を演じていることを自覚しています」

これはほんの一部だが、心のバリアーを外す必要があるのは、まず私たちの脳からだと思う。

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7月25日 ボルバッキアによる蚊の撲滅(7月25日号Nature掲載論文)

2019年7月25日

今でこそ我が国の蚊に媒介される伝染病の危険は無くなったが、私たちの子供の頃は当たり前で、特に日本脳炎は最も恐ろしい伝染病だった。小学校時代は京都市に住んでいたが、水たまりを消毒してボウフラがわかないようにするため、消毒液がまかれていた思い出があるし、もちろん日本脳炎の予防接種は全員がうけた。その後都市化が進むとともにいつの間にか、日本脳炎と蚊の恐怖は私たちの社会から消えたが、今も多くの国で蚊が伝染病を媒介し、その撲滅が待たれている。

今日紹介するミシガン州立大学からの論文は特定の蚊をボルバッキア感染で起こる細胞質不適合性によって撲滅できるか行われた野外実験で7月25日号のNatureに掲載された。タイトルは「Incompatible and sterile insect techniques combined eliminate mosquitoes (昆虫の不適合と不妊テクノロジー両方を合わせることで蚊を撲滅する)」だ。

私たちの頃は蚊の撲滅というと水たまりのボウフラを撲滅することだった。もちろんこれも行われていると思うが、ジャングル地帯ではこれには限りがある。そこで考えられているのが、一つは人工的に作成した不妊のオスを野生のオスと競合させ、蚊の発生を抑える方法と、もう一つが蚊に寄生しているボルバッキアが誘導する細胞質不適合性と呼ばれる現象を利用する方法だ。

詳しいメカニズムについては勉強していないが、細胞質不適合性とは不思議な現象で、ボルバッキアに感染した精子が、同じボルバッキアに感染した卵子以外は発生させない現象で、ボルバッキアが自分に感染した昆虫だけを増やすための一つの戦略だと考えられている。

もしその地域に存在しないボルバッキアの感染したオスを野外に放つと、その精子により受精した全ての卵子は発生できないため、化学物質を用いずに蚊を撲滅することが可能になる。

この研究ではまさにこの可能性が実験室および野外で確かめられた。

まずウイルスを媒介するヒトスジシマカに他の種のボルバッキアを感染させ、実験室で感染したオスを大量に生産する体制を整える。こうして生産したオスが、新しい蚊の発生をほぼ完全に抑えることを実験室で確認した後、次に野外実験に進んでいる。

次にこうして用意したオスの蚊を限られた地域に放って、他の地域との蚊の発生をモニターすると、蚊の発生を抑える一定の効果が認められている。ただ、完全な効果を出すためには、できるだけ多くのオスを放つ必要があるが、その時同じボルバッキアに感染したメスの蚊が混じってしまうと、今度はそのメスから蚊が発生することになり、撲滅は望めない。ただ、メスが全く混じらないようにするのは簡単でない。

そこで、ボルバッキアに感染した蚊を生産する際、蛹の段階で放射線を与えて、生殖能力を落として、メスが混じっても発生しないようにした上で、さらに大量のオスを同じ地域に放つ実験を行い、ほぼ100%の蚊の発生を抑えることに成功している。そしてなによりも、その地域で蚊に刺される頻度が劇的に下がったことも示している。

これ以外も放ったオスと、野生のオスの数の変化や、卵の孵化確率、ボルバッキアを持つメスが野外で維持される率などを調べているが、詳細は省く。基本的には実用段階に達したという結果だ。

あとは実際に大規模な実証実験を行うかどうかだが、実際のところやってみないとわからないだろう。結局は、一つの方法に頼らないことが重要になるように感じるが、ワクチン接種と並行して進めれば、期待できると思う。

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7月24日 性差をゲノム全体から考える(7月19日Science掲載論文)

2019年7月24日

平等の意味は、男女平等を考えるとよくわかる。すなわち身体から精神まで、男女差が存在することは明らかだが、平等とはこの差を無視することではなく、この差を認識しつつそれを克服することになる。この時克服すべき男女差は、遺伝的な差異になるが、これを正確に定義することは意外とできていない。というのも、私たちは性差というと、性染色体の遺伝子発現の違いと思ってしまうが、実際にはこれだけでは説明できないことがわかっている。

今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文はまさにこの問題を、人間、サル、マウス、ラット、イヌの5種類の動物の様々な細胞について、オスとメスで発現に差がある遺伝子を丹念にリストし、そのリストから性差について調べた研究で7月19日号のScienceに掲載された。タイトルは「Conservation, acquisition, and functional impact of sex-biased gene expression in mammals (哺乳動物での性差のある遺伝子発現の保存、獲得、そして機能的インパクト)」だ。

この研究では5種類の動物の12種類の組織での遺伝子発現がオスメスで違っている遺伝子をデータベースや自分の実験から調べ、最終的に全部で4000近い遺伝子を抽出している。

重要なことは、性差の認められた遺伝子の8割以上が常染色体上に存在しており、オスメスでの発現差は最大でも2倍程度にとどまっている。

研究ではまず、この性差が種分化過程でどう変化したかを調べ、23%程度は北方真獣類共通に見られるが、残りの77%は種分化が始まってからそれぞれのラインで新たに生まれたことがわかった。

次に、北方真獣類共通に性差が保存されている遺伝子の多くは、オスメスの体格差に関わる遺伝子で、筋肉、脂肪組織、下垂体に発現が見られる。また、これまで人間のゲノム研究から体格に関わることがわかっている多型と強く関係している。すなわち、体の大きさなどの差は、多くの遺伝子の性による小さな差が集まって形成されることがわかる。

実際、オスメスの差に関わる遺伝子は、特定の生物学的プロセスごとにまとまっている。例えばメスの大腸や甲状腺で発現が高い遺伝子群はなぜか免疫反応に関わっているし、脂肪組織で高い遺伝子はミトコンドリアの翻訳に関わっている。詳細は省くがオスにも同じように性差を示す遺伝子と特定の生物学的プロセスとの相関が見られる。おそらく、これらの情報は様々な病気の男女差を考える上で最も重要な情報になると考えられる。

最後にこれらの性差のある遺伝子発現に関わる遺伝子調節領域を探索し、約6000種類の性差発現に関わる83箇所を特定している。そして、これらが実際に性差に関わることを、転写因子の結合プロファイルを集めたデータベースを用いて探索し、調べた多くの領域で、性差に関わる変化がおこると、それに伴う転写因子の結合が変化することも確かめている。また、一部の遺伝子については、遺伝子改変を行い、それによりオスとメスの性差を説明する転写の変化を誘導できることも示している。

以上、地道で膨大な研究だが、目的がわかりやすく、特に種特異的な性差に切り込んでいる点で、今後様々な男女の生物差を私たちの社会が克服するためには重要なデータになる気がする。

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