11月23日;脳の内的状態を調べる(12月14日号Cell掲載予定論文)
AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ

11月23日;脳の内的状態を調べる(12月14日号Cell掲載予定論文)

2017年11月23日
私たちの脳は生まれた時から活動を続け脳死に至るまで止まることはない。生まれると内外からのインプットが全くなくなるという状態は考えられないが、それでも行動や感覚のような外界とは独立して脳自体が活動する内的状態があると考えられている。この状態を定義し、研究することは簡単でないが、認知科学の総説を読んでみると、何もしていない時に逆に活動しているDefault-mode networkが研究されているのがわかる。最近この状態を瞳孔の大きさと相関させることが可能になり、俄然研究が進んだ。この回路の面白いのは、特定のことをしようとすると活動が弱まるが、何もしないだけでなく、ボーとしながらとりとめもなく次から次へと思いを巡らせるMind Wondering時に必要なことだ。ところが、瞳孔の大きさだけはMind Wonderingでも縮小する。いずれにせよ、何もしていないことすら研究対象にして、神経的な指標を丹念に定義しているこの分野の進展を目の当たりにすると、私たちが人間特有の高次機能と考えてきたことについての解明が進む実感を持つ。

もちろん外界から独立して内的に活動するネットワークを形成することが、脳という組織が進化する駆動力だったはずで、すべての脳を持つ生命には共通の内部状態が存在するはずだ。この問題にチャレンジしたのが今日紹介するスタンフォード大学の光遺伝学の創始者Deisseroth研究室からの論文で12月14日発行のCellに掲載予定だ。タイトルは「Ancestral circuits for coordinated modulation of brain state(脳の状態を協調して変化させる先祖から伝わる回路)」だ。

脳の内部活動ということは、脳のどこかの領域に焦点を当てられないということで、神経の全活動をモニターする必要がある。この研究では、脳全体を同時にモニターできるゼブラフィッシュの幼生を用い、全ての神経活動をカルシウム流入による蛍光でモニターした後、脳を固定して各神経細胞のアイデンティティーを神経活動に関わる分子の抗体染色と細胞の位置で特定し、この地図を蛍光でモニターした神経細胞の活動にオーバーレイすることで、脳の内的状態の変化で同調して動く神経細胞を特定している。この時、瞳孔の代わりに心臓の活動を同時にモニターし、外界の刺激との関係を測定している。

活動記録の後神経細胞を特定するとか、全ネットワークをカルシウムでモニターすること自体はこの研究が最初では勿論ないが、それでもゼブラフィッシュの全部の脳の活動をモニターし、細胞間の関連を特定できるようにしたというのはハードだけでなく、ソフト面でも大変なことだと思う。例えば、細胞の大きさのズレを直すなど、一つ一つ問題が解決されたことがわかる。この方法で、外界からの刺激に対する感覚・運動系の反応時間を脳の内部状態の指標として使えることを示している。

次に、外界からの刺激に備えた状態に内部状態が移行した時に協調して興奮する神経を探し、5種類の神経が協調的変化することを突き止め、刺激に備えるために細胞間の協調が高まって行くことを捉えている。

ゼブラフィッシュで内的な状態を研究できることを示した後、今度はマウスで音を聞いた時の舌舐めの動きを内部状態の変化に対応する反応時間として測定し、同じマウスの脳幹の神経活動をほぼ同じ方法でモニターている。そして、外界への準備が高まるとゼブラフィッシュと同じタイプの神経の協調性が増大することを示している。最後に、同じ実験を学習させた課題ではなく、光遺伝学的刺激と瞳孔の反応を用いて行い、「内部状態が外部へと開く」と言えるプロセスが、刺激にかかわらず脊髄動物共通のメカニズムで行われることを明らかにしている。その上で、脳の内部状態と瞳孔の大きさを別の神経過程として切り離せることも示している。これは、Mind wonderingを考える上でも面白い。

デフォルトの回路や、Mind wonderingの実験を見てくると、これは動物実験は難しいのではと思っていたが、その辺を見事な説得力で解決してみせるDeisserothの脳には脱帽。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月22日:授乳期の食物抗原暴露によるアレルギー予防成立に関わる母体側の要因(Journal of Experimental Medicineオンライン版掲載論文)

2017年11月22日
昨年の3月このホームページで紹介したが、ピーナツアレルギーの予防には乳児期からピーナツ成分を積極的に摂取させることが高い効果を示すことが報告された(http://aasj.jp/news/watch/4957)。その後我が国でも卵アレルギーの予防に、生後6ヶ月から少量の卵を食べさすことでアレルギーを予防できることが示され、乳児期から離乳期にアレルギー原因物質を消化管を通して投与することで抑制性T細胞を選択的に誘導し、長期に免疫寛容を誘導できると考えられるようになった。ただ、これらの臨床試験では、母体が同時にピーナツや卵を摂取していたのかどうかについては明らかになっていない。実際、最近Journal of Allergy and Clinical Immunology (http://dx.doi.org/10.1016/j.jaci.2017.06.024) に発表されたカナダの研究では、子供にだけピーナツを摂取させても逆効果で、母親も同時にピーナツを摂取していると高い効果があることが示されている。このように、臨床試験の結果もまちまちで、整理の意味でも条件を揃えた動物実験が必要だと思っていた。

今日紹介するボストン小児病院からの論文はこの母体側の要因をマウスモデルで丹念に検討した極めてオーソドックスな研究でJournal of Experimental Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Maternal IgG immune complexes induce food allergen specific tolerance in offspring(母体由来のIgG免疫複合体が乳児のアレルゲン特異的トレランスを誘導する)」だ。責任著者の一人はOyoshiさんというおそらく日本人の女性研究者だ。

実験では妊娠前から授乳中までメスマウスを卵白アルブミン (OVA)で免疫し、そのメスから育ったマウスのアレルギーが抑えられることの確認から始めている。抑制性T細胞の誘導の焦点を当てた研究から、アレルゲンで免疫された母親から母乳を通してアレルゲンが子供に摂取されるとアレルゲン特異的抑制性T細胞が誘導され、成長後もこの抑制性T細胞がアレルギーの発症を抑えることを示している。

次に、母親に誘導されたアレルゲン特異的IgGとアレルゲンの複合物が母乳内に存在し、これを摂取した子供の血中にも免疫複合物が存在することがわかった。また、この複合体を持った母親から授乳を受けることがアレルギー予防に重要であることも示している。さらに、母親に直接アレルゲン・抗体複合体を投与して授乳実験を行い、ミルクからの免疫複合体がアレルゲン予防の原因であることを示している。そして、抑制性T細胞誘導にCD11陽性細胞がIgG受容体を介して複合体を取り込むことが重要であることを示している。

最後に、人間の母乳にもOVA免疫複合体が存在し、これをIgGの受容体を人型に変えたマウスに投与して、アレルギーの予防が成立することを示している。

タイムリーな問題を、オーソドックスな手法で丹念に検討して、抗原の処理から抑制性T細胞誘導までの経路の一端が、動物モデルとはいえ明らかになったことは重要だと思う。また、先に述べたカナダの論文の意味も理解できた。
ただ、この論文を読んで疑問に思うのは、なぜ免疫複合体を母乳と混ぜるという実験がされていないのかだ。実際の臨床現場を考えると、母親に抗体がある場合も、ない場合もあるだろう。ない場合、母親に複合体を注射することは現実的でない。また、母親もアレルギーがあれば、授乳期にアレルゲンを摂取することは難しいだろう。とすると、免疫複合体を母乳と混ぜて効果を確かめることが重要になる。確かに、授乳期にマウスに強制的にミルクを飲ませることが実験的にいかに難しいかはよく分かる。また、結果は同じだろうと想像できる。しかし完璧を目指す意味でも、ぜひこの実験にもチャレンジして欲しいと願いたい。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月21日:古代社会のジニ係数からわかる大型家畜導入の不平等拡大へのインパクト(Natureオンライン版掲載論文)

2017年11月21日
貧富の差の指標としてジニ係数が用いられるが、この係数は所得を基礎に算定されるのが普通だ。厚生労働省により発表されている我が国のジニ係数は増加を続けており、平成26年では0.57になっている。しかしこの数字は、税率などで補正すると0.37−0.38とほとんど横ばいで、これが正しいとすると我が国の税制は格差抑制のためにうまく働いていることになる。ただ、所得をジニ係数の算定基準に使えるのは最近のことで、歴史的には所得事態を把握することは簡単でない。

代わりに遺跡に残る住居跡のサイズの違いをベースに、狩猟生活から、植物栽培の開始をきっかけに定住が始まる時代を経て、農業社会へと移行していく約1万年近い時間にわたってジニ係数を算定し、文明の進化に伴う格差の発生について調べた論文がワシントン州立大学からNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Greater post Neolithic wealth disparities in Eurasia than in North America and Mesoamerica(新石器時代以降に北米、およびスペイン占領前の中米と比べると富の不平等がユーラシアで進行した)」だ。

この研究では、世界中に点在する古代社会の遺跡で住居について詳しい記載のある論文から、集落の住居の広さを算定し、その差をもとにジニ係数を算定、その社会の特徴を探ろうとしている。住居の広さからジニ係数を算定すること自体は、記録のない時代を知るための優れた方法であることを確認し、そのデータの解析を行っている。

まず、ジニ係数が狩猟生活、定住の始まり、農耕社会と経過するにつれて、上昇する。すなわち格差が広がっていくのが明らかになった。さらに悲しいかな、政治体制が国家へと進むとともに原則としてジニ係数が増加する。もちろん例外もあり、例えばメキシコのテオティワカンでは農業を基本とした大型の国家が形成されているにもかかわらずジニ係数は0.17で止まっている。これは、宗教を中心にした集団政治体制により貧富の差が抑えられたとするこれまでの考え方と一致する。

各地・各時代のジニ係数から著者らが最も注目したのが、アジア、中東、ヨーロッパの旧世界と、北米、中米の新世界では、時代によるジニ係数の増加パターンが大きく異なる点だ。すなわち、旧世界ではジニ係数が時代とともに上昇し続けている一方、新世界では時間と相関が明確でない。また、一般的にジニ係数は新世界で低い。この差が、大型の家畜の農業への導入時期が、旧世界では地域でまちまちだったせいではないかと考え、その地域の大型家畜導入時期を起点としてグラフを書き直し、両地区でのジニ係数の動きがほぼ同じようになることを示している。

まとめてしまうと、共同性を獲得することで新たな発展を遂げ、共同狩猟社会、そして原始農業の始まりとこのスタイルを守ってきた人間も、専門性を必要とする大型動物の導入で新たな格差社会を始めたことになる。また、テオティワカンのようにこの傾向から大きく外れる国家については、体制について違った見方が必要であることも示している。この研究では、現代の集落についても同じ方法でジニ係数を算出し、スロべキアやスペインではジニ係数が横ばいなのに対し、アメリカや中国でそれぞれ、0.8,0.73と急速に上昇することを指摘して、この原因を調べることで現代の問題点も整理できるのではと結んでいる。結論は当たり前に見えるが、「古きを考える」考古学が、ゲノム研究だけでなく様々な領域で新しい科学へと変換する息吹を感じる。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月20日:肺線維症の治療薬開発の可能性(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2017年11月20日
肺が線維化するびまん性肺線維症には、慢性型と急性型がある。私の7年余りの短い臨床経験では、幸いというか、残念というかハマンリッチ症候群と呼ばれる急性肺線維症を経験することはなかったが、多くの慢性型肺線維症の患者さんを経験した。おそらく現在も、根本的な治療法はないのではと思うが、少しでも進行が遅くなるよう祈るしかない病気だった。急性肺線維症では線維芽細胞が増殖し細胞外マトリックスが増えて呼吸不全が起こるが、線維芽細胞が平滑筋細胞のような形に変化し筋線維症と呼ばれる病像を示すことも特徴の一つだ。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、上に述べた肺線維症の特徴を全て再現し、新しい治療法の開発の可能性を示した研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「ADAM-10 mediated ephrin-B2 shedding promotes myofibroblast activation and organ fibrosis(ADAM10により切断されたephrin-B2が筋線維芽細胞の活性化と組織の線維化を促進する)」だ。

この研究はまず、肺線維症患者さんの細胞の遺伝子発現が公開されているデータベースを調べなおし、EphrinB2の発現が亢進していることを見つけ、この現象をもう一度自分の患者さんで確認するところから始めている。私たちも経験があるが、公開のデータベースは宝の山で、常にアクセスして自分の考えを確かめてみることはIT時代の科学者にとっては基本的素養だと思う。いずれにせよ、標的分子が決まると、あとは常法に従って、その分子の機能を調べればいい。

この研究では、昔から肺線維症研究に使われていたブレオマイシン肺線維症モデルを用い、コラーゲンを作る細胞だけでephrinB2をノックアウトすると肺線維症の発生を強く押さえられることを確認し、次に肺の洗浄液を調べ、肺線維症ではephrinB2が大量に分泌されていることを発見して、この分子の分泌が肺線維症誘導の主役であることを明らかにした。

もともと細胞表面に発現しているEphrinB2が分泌されるということは、細胞表面からプロテアーゼで切り出され、それが線維芽細胞を活性化されていることになる。これを確かめるため、まずephrinB2の細胞外ドメインを免疫グロブリンFcと結合させたキメラ分子をマウスに投与、分泌されたephrinB2が線維芽細胞の遊走、組織への浸潤、そして筋線維芽細胞への転換を誘導し、さらにマウス体内で肺線維症を引き起こすことを示している。すなわち、期待どおりこの分子が線維化の主役として働いていることになる。 最後に、ephrinB2を細胞膜から切り出し分泌させる分子がメタロプロテアーゼ分子の一つADAM10で、この分子の酵素活性を阻害してephrinB2の分泌を阻害すると線維芽細胞の筋線維芽細胞への転換が抑えられることを示している。実際の急性肺線維症の患者さんでもADAM10とephrinB2が上昇していることから、ADAM10を新しい標的とする線維症の治療が可能であることを示している。

これまで治療標的として研究されてきたTGFβやPDGFβ、そして今回明らかになったADAM10などは阻害剤が存在するが、それを患者さんの数の多い慢性線維症に使うとすると、副作用などまだまだ克服すべき問題が多くあると思う。しかし治療の難しい急性肺線維症で坂道を転がるように病気が進むのを抑えることに使える可能性は十分あるように思う。ぜひ臨床研究を期待したい。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月19日:現象論から因果論へと転換する腸内細菌研究(11月15日発行Science Translational Medicine掲載論文)

2017年11月19日
腸内の炎症や免疫機能との関連でいうと、腸内細菌叢の研究が注目されるきっかけになったのは、無菌動物に個々の細菌を移植し、細菌の持つ免疫系への影響を丹念に調べ上げるスタイルの仕事だ。その後、次世代シークエンサーを用いて細菌叢全体の構成を調べるメタアナリシスが可能になり、細菌叢の変化と病気の相関を調べる研究がブームになった。しかし、このような現象論からだけでは論文は出ても、なかなか因果関係に迫れる可能性は少ない。この反省から、細菌叢の現象論を無菌動物を使った因果論的研究と結ぶ努力が重要になっている。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はこれまでの現象論的研究から因果論的研究を導き出した典型とも言える研究で11月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A role for bacterial urease in gut dysbiosis and Crohn’s disease(腸内の細菌藪異常とクローン病に関わる細菌由来ウレアーゼの役割)」だ。

このグループは小児の腸炎症性疾患のコホート研究を進めており、この研究の中からクローン病では大腸菌やクレブシエラなどのプロテオバクテリア類が上昇していることを報告してきた。そして、これらの変化が腸内でバクテリア全体の窒素代謝の結果として現れるのではと着想した。

この研究ではまず、窒素代謝の元となるアミノ酸の便中の濃度をクローン病と正常人で比べ、食事による変化とは異なる細菌叢の変化に関わるアミノ酸がクローン病では上昇すること、そしてこのアミノ酸の上昇がプロテオバクテリアの上昇と平行していることを突き止める。このアミノ酸上昇がバクテリアがアミノ酸の原料となるアンモニアを尿酸から合成する代謝機能の結果であると考え、次に窒素同位元素を用いた追跡実験を行い、ホストが合成できないアミノ酸が同位元素でラベルされることを確認し、このアミノ酸の変化が確かに細菌叢内の窒素代謝変化によることを明らかにしている。

この結果から、腸内での変化の一因が、バクテリアのウレアーゼによりアンモニア合成が高まるためだと考えられるので、ウレアーゼを持つ大腸菌と、持たない大腸菌を準備し、抗生物質で腸内の細菌量を低下させたマウスに移植し、ウレアーゼ有無で回復する細菌藪を比べ、ウレアーゼを発現する大腸菌が存在するだけで、プロテオバクテリアの多い炎症型の細菌藪が成立することを示している。そして、この腸内細菌叢の変化の結果、腸の慢性炎症が誘導されることも確認している。

細菌藪を回復させる実験系はかなり凝っており、どこまで一般化できるのか難しい点もあるが、腸内細菌叢の構成が窒素代謝のネットワークで決まるというのは説得力がある。また、条件を絞った実験系とはいえ、ウレアーゼの有無で、腸内細菌叢が炎症型に変化したという結果も、ただバクテリアの増減を記述するだけの仕事と比べると、はるかに先に進んでいると言える。次は、細菌叢のウレアーゼを抑えて炎症を治療できるかが勝負になるだろう。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月18日:リソゾームの細胞生物学(11月10日号Science掲載論文)

2017年11月18日
細胞内にはミトコンドリアを始め、様々な小器官が存在するが、それぞれの機能を調べるには、目的の小器官を細胞内からできるだけ正常な形で取り出してくる必要がある。この精製方法の開発には、プロの知識とヒラメキが必要で、例えば京大時代に仲の良かった、亡くなった月田さんから細胞接着領域を精製する話を聞かされるたびに、構造にこだわってこそが細胞学であることを思い知らされた。

今日紹介するMITからの論文は細胞内分子を分解し再利用するときの中心器官リソゾームの精製の話で11月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Lysosomal metabolomics reveals V-ATPase and mTOR-dependent regulation of amino acid efflux from lysosomes(リソゾームの代謝産物の包括的解析によりV-ATPaseとmTOR依存性のリソゾームからのアミノ酸輸出の調節が明らかになった)」だ。

タイトルを見て今頃リソゾームかと思ったが、リソゾーム内では様々な分子の分解が進んでいるため、これまでの方法で精製しても時すでに遅しで、細胞内の現場で何が起こっているのか知ることが難しかったようだ。この研究のハイライトは、リソゾーム表面に発現している分子を標識にリソゾームを抗体で精製する方法の開発に尽きる。これにより細胞内での状態を反映したリソゾームが得られるようになっている。

こうして精製したリソゾーム内の57種類の代謝産物を調べると、これまでリソゾームに濃縮されていることが知られていたシステイン、グルクロン酸、核酸に加えて、幾つかのアミノ酸では細胞質での濃度と大きな差を示すリソゾームに特徴的なパターンが明らかになり、リソゾームがタンパク質を壊して再利用のために輸出するプロセスの中心にいることが確認できる。

そこでこの輸出に絞って、まずリソゾーム内を酸性に維持して輸送に関わるATPaseの機能を阻害すると、リソゾーム特異的にシステインの流入低下と、必須アミノ酸の輸出が低下することが明らかになった。さらに、アミノ酸飢餓条件で培養する実験から、細胞質で合成できない必須アミノ酸が低下すると、リソゾームからの輸出が止まることを明らかにしている。そして、このアミノ酸飢餓によるリソゾームの変化が、アミノ酸代謝調節経路の主役mTORを介していることを明らかにし、mTORが直接リソゾームからの必須アミノ酸の輸出を調節して、細胞質のアミノ酸量をバランスさせていることを明らかにしている。

話はここまでで、今後mTORがリソゾームのアミノ酸輸送を調節しているメカニズムの詳細など明らかにする必要があるが、いずれにせよフレッシュなリソゾームが得られることが重要で、その意味でこの研究はリソゾーム研究を大きく前進させるように思う。構造を精製することが細胞生物学の入り口であることを教えてくれる論文がまた一つ付け加わった。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月17日:米国では抗がん剤新薬の保険適用価格が上がり続けている:薬価の自由競争の結末(Journal of Clinical Oncology10月号掲載論文)

2017年11月17日
現役時代は、再生医学実現を支援する様々なプログラムに関わってきたが、新しい治療法が現実になるたび、地球温暖化問題を議論するレベルで21世紀の医療技術開発のあり方を世界中で議論する必要があるように思っていた。例えば、TPPで経済自由化が議論された時、我が国など医薬品開発では劣勢にある国々はデータ保護期間を短くするよう主張した。しかし、もし薬剤の特許をもっと長くして開発を行った会社の利益を保護することで、最初の薬価を大きく抑えられるなら、逆に保護期間をもっと伸ばすのが患者の利益になる。

もちろん薬価の決め方は複雑だ。我が国や、英国では国が薬価決定に強く介入するが、米国では国の介入を徹底的に排除する仕組みになっている。米国の薬価は自由競争で決まると思ってしまうが、国の介入がないというだけで話は簡単ではない。薬価は、まず薬剤の効果の高さ、次にクリニカルパスと言われる標準医療プロトコルに組み入れられるか、そして最近になってそれをさらにチェックし患者のケアの質を向上させるための組織ACOの意見などが関わって決まる。ただ、クリニカルパスは医師が決めるように思っていても、そのための費用など創薬企業の影響が必然的に大きくなることから、完全に自由競争と言えるのかも難しい。この疑いは、今日紹介するアトランタ・エモリー大学からの論文を読んでより強くなった。

タイトルは「Trajectories of injectable cancer drug costs after launch in the United State(米国で注射用抗がん剤の上梓後の価格変動)」でJournal of Clinical Oncology10月号に掲載されている。

米国の保健システムは複雑なので、この研究では企業保険に入っていない人を対象にするメディケアパートBに絞って、外来での点滴治療で使われる抗がん剤のうち、1996年から2012年に認可された新薬の価格の推移を8年近くにわたって追跡している。

結果は明瞭で、医師、患者さんからあまりにも値段が高すぎると批判が出たアフリベルセプトを除く全ての抗がん点滴薬の価格が、発売時点より増加し続けているという結果だ。この傾向は、他に方法がない進行癌に対する薬剤で著しく、ブレンツキシマブやトラスツマブなど抗体薬は上梓後2倍近くに跳ね上がっている。

この要因について、例えば競合薬の出現や、FDAからの様々な改善要求の有無、あるいは適用外の利用などを調べているが、影響があるようには見えない。すなわち、何の外的要因もなく上昇を続けている。競合薬が出ても上昇が続くのが当たり前で、例えば抗PD-1ニボルマブが競合薬として出現した後も、同じ会社で先に認可されていた抗CTLA4イピルムマブの価格は3割程度上昇している。

なぜこんなことになるのか結局よくわかないが、末期で選択肢のなくなった患者さんに対して効果がある場合は、強気で売れると解釈するしかないように思える。我が国の薬価決定は公定価格制度で、2年ごとの見直しがある。これが自由競争を阻害すると批判されているが、少なくとも公的介入を全て排除する米国型の自由競争よりはずっとマシと言えないだろうか。

とはいえ、創薬のインセンティブとは何かも含め、もう一度薬価の決め方、さらに新しい医療技術の開発の支援方法を議論する時が来たように思える。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月15日:組織適合抗原(MHC)が発ガン遺伝子を選ぶ:免疫監視機構の証拠。(11月30日発行予定Cell掲載論文)

2017年11月16日
2日間にわたってチェックポイント治療の研究論文を紹介してきたが、言うまでもなくこの治療はガン細胞に蓄積する正常細胞にはない突然変異を持ったタンパク質由来のガン特異的ネオ抗原の存在が前提になっている。そして、このネオ抗原は突然変異タンパク質がプロテアソームで分解されできる短いペプチドが組織適合抗原と結合してT細胞に提示される。

これについてはしっかり理解しているつもりでも、MHCにより発ガン遺伝子が選ばれる可能性について今日紹介するフォックスチェースがん研究所からの論文を読むまで考えもしなかった。論文のタイトルは「MHC-I genotype restricts the oncogenic mutational landscape(MHC-I遺伝子型が発ガン遺伝子のレパートリーを制限する)」で、11月30日発行予定のCellに掲載される。

著者らは、発ガンに細胞の自発的増殖を誘導する分子のアミノ酸置換を伴う変異が必要なら、変異分子由来のペプチドがMHCと強く結合すれば、異物として排除されるはずで、特定の変異がガンのドライバーとして働くためには、異物として認識されないこと、すなわちMHCとの結合力が弱いことが必要となるのではと着想した。クラスI MHCは発ガンの初期過程では、細胞に例外なく発現しており、このためMHCと強く結合するドライバー分子を持った細胞はすぐに除去されるというわけだ。

この研究ではこれまでネオ抗原を予測するプログラムを改良し、変異ペプチドとそれぞれのMHCとの結合を定量する指標を開発している。次に五種類のガン細胞株を用いてこの指標から強く結合していると予測されるペプチドと、実際のMHCと結合しているペプチドが強く相関することを確認している。

次に患者さんの持っている六種類のMHCそれぞれの結合の強さを統合したPHBRと呼ぶ指標を開発し、ゲノム解析が行われたガンのデータベース(TCGA)を使って、MHCと発ガンに関わる突然変異との相関を調べ、発ガンに関わる遺伝子の種類がMHCの種類と一定の相関があることを見出す。しかし、ガンによっては全く相関を示さないもの、また突然変異も生まれつき持っている場合はMHCとの相関がないこと(トレランスによる)を見出している。

特に相関が高いのは、発ガンに特定の遺伝子変異が関わる場合で、例えばBRAFの変異が60%近くで見つかる甲状腺癌や、IDH1の変異が70%近くで見つかるグリオーマでは、ガンになる人のMHCにバイアスが強くかかる。すなわち、変異ペプチドと弱くしか結合しないMHCが選ばれる。

最後に9000人余りのガンゲノムデータベースをもう一度サーチして、発ガンが突然変異だけで決まるのではなく、MHCに関わる免疫反応の影響を受けており、MHCとの結合が低いほど高い頻度で同じ変異がガンで起こることを確認している。

これまで、発ガンを抑える免役監視が起こっていることが繰り返し提唱されてきた。ただ、確たる証拠が人間のガンで示されたことはなかったと思う。その意味で、何十年来の免疫監視の証拠がついにつかまったと少し興奮する。またMHC型から将来なりやすいガンをリストすることも可能で、期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月15日:抗PD-1と抗CTLA-4抗体治療の比較(11月9日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2017年11月15日
我が国ではチェックポイント治療というと抗PD-1抗体と同義になってしまうが、免疫のオーバーシュートを止めるチェックポイント分子は多く存在する。実際、CTLA4に関しては2011年に抗体薬が認可され、ほとんど`PD-1と同じように利用されてきた。T細胞から見ると、免疫機能を落とすという点では両者はよく似ているが、PD-1の刺激因子PD-Lがガン細胞にも直接発現されるのに対し、CTLA−4の刺激因子B7は免疫系の細胞のみで出ており、腫瘍には発現しない。このため、どちらが効果が高いのか、併用はありうるのかなど多くの臨床研究が行われてきた。論文を読んだ印象だけでは、抗PD-1治療の方がよく効くという印象だったが、それぞれの治験は抗がん剤の使用など様々な要因が重なって、明確な答えは出しにくかった。

今日紹介する25カ国、130医療施設からの論文は抗がん剤などの影響を排して手術による腫瘍摘出とだけ抗体を組み合わせ両者を比べた国際治験の結果で、11月9日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Adjuvant Nivolumab versus Ipilimumab in resected stage III or IV melanoma(ステージIIIか IVのメラノーマ患者さんの腫瘍摘出術に組み合わせるアジュバント治療としてのニボルマブとイピリムマブの比較)」だ。

競合する二種類の薬剤の効果を比べる治験は簡単ではない。特にすでに認可を受けている場合、製薬会社の積極的協力を得るのは難しい。どちらか一方に軍配が上がれば、もう一方は売れなくなる。幸い小野薬品とタッグを組むブリストルマイヤー社は両方を販売している。従って、併用療法が行われない限り、結果がどちらでもあまり腹は痛まないのだろう。

治験ではステージIII or IVのメラノーマの患者さん906人で手術療法だけで存在する全腫瘍の摘出した症例を選び、その後ニボルマブかイピリムマブを投与し再発を追跡している。

今回の治験結果は明瞭で、ガンのPD-L1発現が低い症例も含めて、すべての基準でニボルマブ(抗PD-1)の方が成績が良い。また、ガンのステージもIIIとIVを分けて見ているが、治験期間中常にニボルマブの再発率が低いという結果だ。グレード3、4の強い副作用も、ニボルマブの方で1/3でかなり低いことから、使いやすいことも今回明らかになった。

以上の結果は、現在の治療レジメンで行われるメラノーマ治療に関する限り、ニボルマブがチェックポイント療法として優れていることを示している。この結果を示されると、抗CTLA4を選ぶのは余程の理由が必要になるだろう。両剤を持つブリストルにとっては問題ないが、CTLA4のみを標的にしていた会社は胆を冷やすことだろう。ちょっと下世話な興味だが、今後の展開が楽しみだ。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月14日:腸内細菌叢はガンのチェックポイント治療にまで影響するのか?(Scienceオンライン版掲載論文)

2017年11月14日
我が国のマスメディアの扱いが大きい研究分野で言えば、iPSは別格として、やはりPD-1に対する抗体を用いるチェックポイント治療と、腸内細菌叢と様々な疾患の関係だろう。マスメディアが注目するのは、一般にわかりやすいからという理由だけではなく、多くのトップジャーナルでこの2領域に関わる論文の数は多いからだと思う。NatureやScienceに限ってみれば、現在掲載回数の多い領域は、遺伝子編集、チェックポイント治療、腸内細菌叢の3領域で、iPS関連論文を凌駕しているのではないだろうか。
こんな状況なら必ず調べる人が出てくると思っていたが、今日紹介するフランスINSERMからの論文は腸内細菌叢がチェックポイント治療に影響があるのではと調べた研究でScienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Gut microbiome influencees efficacy of PD-1-based immuneotherapy against epithelial tumors(腸内細菌叢は上皮腫瘍に対する血PD-1ベースの免疫療法の効果に影響する)」」だ。

「人気の分野を2つ合わせてウケを狙うとは品がないな」と読み始めたが、最初から臨床的には重要な仕事であることがわかった。もし腸内細菌叢が良くも悪くもチェックポイント治療に影響があるなら、抗生物質で細菌叢が変化した場合、抗PD-1抗体の効果が変化するはずだと考えた筆者らは、一般抗生物質とPD-1抗体の併用効果についてマウスで調べ、抗腫瘍効果が一般抗生剤で低下することを明らかにする。次に同じことが人間でも言えるのか調べる目的で、非小細胞性腺ガンの患者さんでPD-1治療を受けた人のデータを集め、生存曲線を描いてみると、抗生物質を併用した人では抗体の効きがはっきり低下していることがわかった。

抗生物質の使用の有無と、がんの進行度など本当はさらに詳しい検討が必要だが、チェックポイント治療を考える時、この結果は重要だと思う。そこで、PD-1治療の効果があった人と、なかった人で腸内細菌叢の構成を調べると、期待どおり大きな違いが認められる。特に、A muciniphiaという細菌が存在すると治療成績が上がること、またこの細菌に対するTh1細胞の反応と治療成績が相関することを見出している。

人間でのこれ以上の解析は難しいので、無菌マウスに患者さんの便を移植する実験で、PD-1抗体の効果が見られた患者さんの便ではマウスでもいい効果を持ち、逆に効果のなかった患者さんの便は抗体の効果を悪化させることを示している。そして最後に、抗生物質投与でPD-1抗体が効きにくくなったマウスにA muciniphiaを移植すると、腫瘍部位のTh1細胞や樹状細胞の浸潤が高まり、効果が回復することを示している。

最初は少し品のない論文かと思って読み始めたが、臨床的データが示されている点で、チェックポイント治療をさらに効果のある治療にするには、重要な貢献である確率は高い。また同じような内容の論文が、テキサスのMDアンダーソンガン研究所からも Scienceに報告されており、信用性もあるように思える。期待が持てる話だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
1 / 15212345...102030...最後 »
2017年11月
« 10月  
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930