9月22日:人類最古の絵(9月20日号Nature掲載論文)
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9月22日:人類最古の絵(9月20日号Nature掲載論文)

2018年9月22日
考古学の世界では、理屈はともかく発見することが重要になる場合が多い。例えば、中国の漢字は殷時代の甲骨文字が最初とされていたが、1993年山東省の4000年前の龍山文化の遺跡から11文字を刻んだ陶片が発見され、大騒ぎになった。これが実際文字として使われていたのかどうか議論は続いているが、こういったありえないと思われていた発見の喜びが、考古学の醍醐味と言えるだろう。しかしこの喜びが、あり得ない発見を演出する捏造につながってしまうこともある。例えば、日本で旧石器時代の石器を発見したとする有名な藤村捏造事件が記憶に新しい。

今日紹介するノルウェー・ベルゲン大学からの論文は、人類が残した中では最も古いと考えられる絵というか、模様というか、ともかく間違いなく人の手によると考えられる描写を発見した研究で9月20日号のNatureに掲載された。タイトルは「An abstract drawing from the 73,000-year-old levels at Blombos Cave, South Africa(南アフリカBlombos洞窟の73000前の層から発見された抽象的線描)」だ。

この研究は、基本的には黄土で線が描かれた石片出土したという話で、この分野に興味がなければ、なるほどで終わる簡単な話だ。しかし、藤村事件と同じで、この分野の人にとっては大変な発見になる。というのも、それがどのような図であれ、人間が意図して描いたと思われる線描はこれまでたかだか4−5万年前の遺跡でしか見つかっていないからだ。確かに、イスラエルカフゼでは絵を描くのに使われたと考えられる黄土が10万年前の地層から見つかっているが、はっきり描かれたことがわかる図形は今回の石片が最も古く、これが興奮を呼んでいる。

さて、発掘された場所は、南アフリカケープタウンから300Km離れたブロンボスにある洞窟で、同時に出土する槍の穂先などから中石器時代であることがわかる。また、装飾品としてのビーズも出土している。アフリカはホモ・サピエンスが、ネアンデルタール人やデニソーワ人と交雑することなく進化したゆりかごで、ヨーロッパでの発見とは全く違う意味を持つ。

さて、絵が描かれると思われる石片については様々な考証を行い、黄土でできた線が、意図をもって人間が描いた線描で、実際にはもう少し大きな図形の一部が石片として残ったと結論している。そして、同じ洞窟から同じように黄土で描かれた線描の石片が約10万年前の地層からも発見されており、今後時間とともに、人間の絵心の変化についても検証できるのではと期待される。

最後に、では絵を描くという行為が考古学者の興奮を呼ぶのかという点だが、私たちが対象をシンボル化して考えるsymbolic thought能力が、言葉の獲得へとつながる最も重要なステップだと考える人が多いからだ。確かに、この能力は絵だけではなく、ビーズのような装飾品や石器の精巧さにでも表現されるが、やはり意図して何かが描かれるという行為はもっともわかりやすい。今、アフリカでのホモサピエンス形成過程を求めた発掘が続く。最も古いものでは30万年前に遡れれるようなので、今後も絵心を通して人類進化の跡を発見するための努力が続くと期待できる。次はどこまで古い絵心の跡が出てくるのだろう?
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9月21日 多発性硬化症の意外な発症機序(9月20日号Cell掲載論文)

2018年9月21日
多発性硬化症(MS)は最近様々な薬剤が利用できるようになり、少なくとも成人ではコントロールが可能になってきた病気だが、研究となるとほとんどマウスモデルに頼らざるを得なかった。

これに対し今日紹介する論文を発表したスイスチューリッヒ大学を中心とする研究グループは長年にわたってヒトMS患者さんの自己免疫反応を直接研究しようと、試験管内の実験系を模索していたようだ。その中で、MSの最も強いリスクファクターとしてのクラスII抗原、HLA-DR15を持つ患者さんの末梢血が、抗原を加えないで培養しても自然に増殖する事を見出す。この現象からスタートして、MSの中枢神経系へと浸潤するT細胞が、抹消でT/B細胞の相互作用を通して準備される可能性を示したのがこの研究で9月20日号のCellに掲載された。タイトルは「Memory B Cells Activate Brain-Homing, Autoreactive CD4 + T Cells in Multiple Sclerosis m(多発性硬化症では、メモリーB細胞が自己の脳に浸潤するCD4T細胞を活性化する)」だ。

研究ではまずCFSE法でラベルしたMS患者さんの末梢血を培養し、増殖している細胞のほとんどがB細胞とT細胞のリンパ球であることを確認し、また病気の収まっている時期でも、末梢血の自然増殖反応が見られること、また同じHLAでも他の自己免疫病では見られないことを確認し、末梢血の自然増殖がHLA-DR15を持つMSの重要指標である事を明らかにする。そして、この反応のメカニズムを解析し、以下の結果を得ている。

1) 反応は自然に起こるが、HLA-DR15を強く発現するB細胞(自己ペプチドが提示されている)と、それに反応するT細胞受容体(TcR)を会する反応であること。
2) CD4T細胞を刺激するHLA-DR15を強く発現するB細胞はメモリータイプで、このB細胞の増殖はBTK依存性、CD40非依存性に増殖している。従って、BTK阻害剤イブルチニブはMSに効果がある可能性がある。
3) 自身も増殖するメモリーB細胞はHLA-DR+何らかの自己ペプチドでT細胞の増殖を誘導する。従って、MSにメモリーB細胞を除去するリツキサン(抗CD20抗体が効くのはB細胞によるT細胞の刺激が無くなることが背景にある可能性が高い。事実、著者らの実験系でも、リツキサンは自然増殖を抑制できる。
4) 脳の組織を調べて末梢血と比べることができた2人の患者さんでは、末梢でメモリーB細胞により活性化されるT細胞と同じTcRが脳でも多く検出され、抹消で刺激されたT細胞が脳へ移行していることがわかる。
5) すなわち、脳での炎症が抑制されていても、末梢で脳へ浸潤するT細胞が準備され、いつでも脳へ移行するとすると、抗インテグリン抗体で脳への移行を止めていた患者さんが急に抗体療法をやめると、強い炎症が再発するのも、その間に活性化T細胞が末梢で準備されていたからだといえる。
6) この研究の圧巻は、この自発的増殖に関わる自己ペプチドをRas guanyl releasing proteinファミリー分子であると特定した事で、このうちRASGRP2はB細胞にも神経細胞にも発現していることを明らかにしている。 もちろん、この抗原以外にも従来考えられていたように、ミエリンタンパク質に対する自己反応性のT細胞も存在するのは間違いないと思われるため、RASGRP2への反応と、ミエリンタンパクへの反応がどのような関係にあるのか、またHLA-DR15以外のケースでも同じようなメカニズムがあるのかなどさらに調べる必要がある。しかし、この結果が一般的な現象なら、MSの自己免疫反応のメカニズム理解に大きな変化をもたらすように思う。もしこれが正しいとすると、MSは末梢で十分対応できる疾患になる。早い進展を期待したい。」
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9月20日:欧州での民族大移動をゲノムから調べる(Nature Communicaton9月号掲載論文)

2018年9月20日
恐らく高校生の時だと思うが、西ローマ帝国の没落と同時に、多くの民俗がヨーロッパに相次いで移動し現在のヨーロッパ人が形成される事を学んだ。この最初がゲルマン人の移動で、ゴート、フランク、ブルグンド、ロンゴバルドなどの王国が形成される。私達がアングロサクソンと呼ぶのはこの系統だ。一方、それ以前の住民には当然ローマ帝国を代表する南の人たちの系統が存在し、私達がラテン系と呼んでいる人たちの基盤と考えればいいような気がする(この考えは検証したわけではなく私が勝手に想像していると理解してほしい)。この時代のことは、ローマ人による記録と、あとはさまざまな遺物から検証され、私たちが高校の世界史で習うストーリが出来上がっている。

今日紹介する米国ストーニーブルック大学、イタリアフィレンツェ大学、ドイツマックスプランク人類史研究所が合同で発表した論文は、ロンゴバルド王国がハンガリーから北イタリアにかけて形成される過程での民族交流の後を、ロンゴバルド王国の身分の高い戦士とその家族が代々葬られた墓から出土した遺骨のDNAを解読することで明らかにしようとした研究で、9月12日Nature Communicationsに掲載された。タイトルは「Understanding 6th-century barbarian social organization and migration through paleogenomics (6世紀の蛮族社会構成と移動を考古ゲノミックスから理解する)だ。

これまで古代人のゲノム解析の論文を多く読んで来たが、この研究は考古学的な検証とゲノム解析の両方を丹念に関連付けたより総合的な考古学の論文で、読んでいて高校の歴史を思い出すとともに、この墓に葬られている家族の有様がありありと浮かんでくる大変興味深い論文だった。

論文のイントロダクションはゲノム科学の論文というより、ロンゴバルド王国の歴史学の話が中心で、これによるとロンゴバルド王国は現在の東ヨーロッパにあるローマ統治地区パンノニアのゲルマン人が北イタリアへと移動しながら築いた王国だが、この研究ではハンガリーのソラッドと北イタリアのトリノに近いコルレーニョの2箇所に残る大きな墳墓を考古学的、ゲノム科学的に調べている。

考古学的には、一緒に埋葬されている遺物から、家族の中心人物と、言って見れば庶子のような家族の中でもあまり尊重されていない一族は、少し離れて埋葬されている。ただ、ゲノム解析から、それぞれが一つの家族であることは確認される。 同時に、ゲノムからこの序列が、ゲルマン系のゲノムを引き継いでいる割合で概ね決められていることもわかる。すなわち、ゲルマン民族が、ラテン系のローマ人を征服し、その過程でラテン系の女性も家族になって行く。同じ家族でも、ラテン系の血を多く受け継ぐ家族は差別されていることが、副葬品の有無などでわかる。ラテン系の女性の中には副葬品と共に葬られている例外も存在する(より愛されたのか?;私の勝手な想像)。

そして家族構成とそのゲノムを調べると、ソラッドでは中心部に埋葬される男性のほとんどがゲルマン系で、ラテン系は女性に多いことから、まさに征服過程をそのまま反映している。一方コルレーニョになると、よりゲノム的には多様性が増している。面白いことに、アイソトープを使ってその土地で一生を過ごしたのか、他の土地からやってきたのかを調べると、ソラッドではラテン系もゲルマン系もゲノムに関わらずこの土地で育ったのではなく移動してきたことがわかる。すなわち、ゲルマンとラテンが何処かで家族を形成し、ソラッドに移動してきたことを示している。一方コルレーニョでは、ラテン系のゲノムを持つメンバーはほとんどコルレーニョで育っている。またゲルマン系も、世代が進むとコルレーニョ育ちであることが確認できる。すなわち、王国が形成されるときにはすでに定着が進んでいたことが分かる。

私なりにだいぶ脚色してしまったがデータをまとめるとこんなところだ。考古学、アイソトープによる生活圏測定、そしてゲノムの各解析が見事に一致したエキサイティングな研究だと思う。そして何よりも、有史時代でも、ゲノムも加えた総合的研究が今後ますます重要であることがわかる。言ってみれば異物からあとは想像の世界に入るのではなく、より厳密な考証ができることを意味する。その意味で、これまで考古学、歴史学と称されてきた学問で人文・自然科学の融合が進むように思える。ぜひ日本の歴史学もこのような文理融合した総合的なものへと変わってほしいと思う。。
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9月19日 医療の対象としての老化(9月17日米国医師会雑誌掲載に掲載された3編の意見論文)

2018年9月19日
米国では何が医療の対象かを新しく決めていくため、常に医療界の意見の集約が図られている。勿論一般的な病気ではそんな必要は無いが、実際に病気と健康状態の境界にあるような病気の場合は、一般の人や保険会社を説得するための様々な広報努力が行われる。この中で医療の対象としてのメタボリックシンドロームや慢性炎症といった概念が出来上がっていったように思う。

そして今最も重視されているのが、老化を医療の対象として認め、介入するかどうかで、この方向での合意に向けた意見調整が現在行われていることを伺わせる3編の意見論文が、米国医師会雑誌に掲載されたので紹介する。掲載されている順番は無視して、全体像がわかりやすいように私の方で順番を勝手に調整して紹介する。

最初の論文は疫学、医療統計の専門家Olshanskyの視点で、タイトルは「From Lifespan to Healthspan(寿命から健康寿命)」だ。

著者は、寿命の限界を現在のコンセンサス115歳から先に伸ばすのは困難と考えているようで、当分の間は現在レッドゾーンと呼ばれている80歳から90歳での死亡率の上昇を、横にシフトさせていく努力が重要と考えている。

結局医療統計学で競合リスクと呼ばれるさまざまな老化に伴う病気をどう抑制するかが今後の課題で、これによる健康寿命の延長を目指すべきだとしている。そしてこのために、専門家会議が形成され、この健康寿命延長のための臨床研究について議論が始まり、FDAもそのための助成を2019年から増やす方向で進んでいる。以上、当たり前だが着々と体制を整えているのがよくわかる。なるほど米国と感じ入ったのは、この取り組みの先行例としてGoogleがすでにGoogle Calico Human Longevity Incという会社を設立してさまざまな老化研究を推進していることで、IT企業が続々と健康についての研究を助成している米国の力を感じる。

2番目の論文はアルバート・アインシュタイン研究所とアラバマ大学の3人の研究者による論文でタイトルは「Aging as a Biological Target for Prevention and Therapy(老化は介入や治療の標的になる生物学過程)」だ。

最初の論文での疫学的視点を、医療の立場で考えてみたという意見が述べられている。

まず、老化では様々な生命過程が絡み合っているため、一つ一つの過程を見てしまうと、一つの病気として診断されるが、実は総合的な状態である点に注目している。すなわち、老化を治療することで、一人の老人がいくつも抱える慢性病の大きな原因を断つことができる可能性があることを示唆している。また、医学研究としては、老化状態の生物学的解析が進んで、いくつかの前臨床介入研究が進み、NIHも老化介入プログラムを形成して様々な薬剤のマウス寿命への効果を系統的に調べ始め、すでに26種類の薬剤を候補としてリストしている。これは、これまでの老化予防ではなく、老化マウスの治療研究である点で重要だ。特に、老化細胞を除去するsenolytic分野で、ダサチニブのような特異性の低いキナーゼ阻害剤についての研究が進んでいることを挙げている。

そして、実際に人間での投与が進んでいる薬剤として、糖代謝を標的とするアカルボースやメトフォルミン、あるいは免疫機能に対するラパマイシンなどが今後治療薬として検討されることを述べている。

そして最後の論文はメイヨークリニックの2人の研究者による、より基礎医学的視点からの論文でタイトルは「Aging, Cell Senescence, and Chronic Disease Emerging Therapeutic Strategies (老化、細胞老化、慢性病:新しい治療戦略)」だ。

この研究でも、多くの慢性疾患の最大の原因が老化であると認識して、慢性病の治療として老化治療があることをまず強調している。その上で、老化原因を、⑴低いレベルの慢性炎症、⑵細胞内ストレス:タンパク質の沈殿やオルガネラのストレス、⑶幹細胞の機能不全、⑷細胞老化、の4種類の過程として研究が進んでいることを紹介している。 特に重要分野として著者らがあげるのが、老化細胞から分泌されて、若い細胞の機能を傷害する分子の研究で、このような分子が存在することは老化細胞を除去することで、寿命が延びるという現象から明らかにされている。これに対し、一つは分泌因子の本態を明らかにすることだが、それより先に老化した細胞を除去するための様々な取り組みが進められており、特に非特異的キナーゼ阻害剤ダサチニブとフラボノイドの組み合わせが期待されていることを紹介している。すなわち、これまでの老化防止はカロリー制限や、運動など老化細胞の発生を落とす方向で考えられてきたのを、老化後治療として行う方向性だ。

その上で、現在進行中のFDAによる臨床試験の結果、老化細胞除去療法が有効と判断された時点で、医師処方の治療薬としてだけでなく、市販薬として開放煤のかの議論が進むと結んでいる。

この3編の論文から見えるのは、老化を医療の対象として治療するとする米国医学界の考え方で、かなり具体的薬剤リストも挙がってきている。一見当たり前の話だが、本当は大きな転換点に来ていることを示している。言ってみればテレビに溢れる老化防止の様々なサプリや食品を排除して、医療が老化治療に乗り出すということなので、わが国でもそろそろ議論を始めるべきだと思う。
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9月18日 脳腫瘍特異的T細胞を脳内へ浸潤させる(9月13日号Nature掲載論文)

2018年9月18日
多発性硬化症など、脳の免疫炎症性疾患からわかるのは、T細胞が必要な場合は脳血液関門を超えて、脳内の標的に到達できることだ。ところが、これは炎症に特異的な現象らしく、例えば最も注目されている脳腫瘍に対するCarTなどはなかなか腫瘍部位に到達できないようだ。

今日紹介するテキサスベイラー大学からの論文はT細胞の接着分子を遺伝子操作で改変することで、脳腫瘍に到達する効率を高めることに成功した研究で、CAR-Tを用いる治療に新しい方向性を開く研究で、9月13日号のNature に掲載された。タイトルは「A homing system targets therapeutic T cells to brain cancer (治療用T細胞を脳腫瘍に到達させるホーミングシステム)」だ。

この研究のスタートは、ALCAMとよばれる血管の接着因子が、グリオブラストーマや髄芽腫内の血管だけに強く発現していることの発見から始まっている。もう一つこの研究の方法論的注目点は、試験管内で、正常人やグリオブラストーマ血管を使ったヒトの脳血管関門の再現が可能になっていることだ(どの程度信頼できるのかはよくわからない)。この試験管内技術を使って、ヒトの正常脳血管と、腫瘍内血管を比べると、正常の血管はIL-6など炎症刺激で一般的ICAM.VCAMなどの接着分子が上昇するのに、腫瘍内の血管では逆に低下する一方、また腫瘍が分泌する因子によりALCAMだけが強く上昇することに気づいている。

そこで、腫瘍内で発現の高まっているALCAMをT細胞の腫瘍内浸潤のガイドとして使うための技術開発を目指している。まず、ALCAMがT細胞側に分子CD6のD3領域に結合することを確定した後、CD6上のD3の数を増やすと、CD6とALCAMの結合を高まり、血管内皮上をくるくると回りながら減速するローリングが高まることを明らかにする。

その上で、この分子メカニズムがCD6が細胞質内ドメインからのシグナルでZAP70がリン酸化され、これが細胞骨格の再編成を通して、LFA1の活性を高め、脳血管関門を越えて腫瘍内へと細胞が浸潤できることを詳細に検討している。この辺の解析は、私たちが現役の頃、米国のTim Springerたちが完成させた概念の延長を見る思いがする。

この論文でこれまで示されたデータは全て人間のT細胞と癌組織の血管内皮の話で、どうしても特殊な実験系に頼る必要があったが、最後はマウスモデルで脳腫瘍に対するCAR-Tを用い、この研究の中でT細胞の浸潤性を高めることがわかったエンジニアしたCD6がCAR-Tの脳腫瘍への活性を高めるかどうか調べている。結果だが、誰が見ても絶大な効果が示されている。

話は以上で、これまでの血液と血管内皮の相互作用を熟知することで、CAR-Tに新しい力を加えることができることを示した、重要な研究だと思う。すでに、Her2を標的にしたCAR-Tに応用する準備が着々と進んでいるようで、うまくいくのを期待したい。現在でも、まだまだCAR-Tの効果が期待できない腫瘍は多くある。ガン組織中の血管内皮を熟知することで、同じようにガン組織特異的T細胞の浸潤をガイドできるようになるかもしれない。CAR-Tはまだまだ大きく進化していく予感がある。
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9月17日:光によるムードの変調回路 (9月20日号Cell掲載論文)

2018年9月17日
緑の大地で燦々と光を浴びていると、気持ちがゆったりするが、同じ太陽でも何もない砂漠でジリジリと照りつけられると、かなり気が滅入る。もちろんテントの中でのランプの光は、ムードを演出してくれる。もちろんこんな気持ちは人間だけだと思うが、このような人間だけと思われるような高次の感情も必ずルーツがある。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、この光がムードを変える特別な回路についてマウスを用いて明らかにした論文で9月20日号のCellに掲載された。タイトルは「Light Affects Mood and Learning through Distinct Retina-Brain Pathways (光は特別の網膜から脳への経路を使って学習やムードを変化させる」だ。タイトルにズバリムードを変える脳の回路と書かれているので、マウスのムードをどう定義するのか興味を持って読んでみた。


網膜の視細胞は、稈細胞と錐体細胞と思っていたが、実際には他にも光を感じる色素を持ったガングリオン細胞(RGC)が何種類か存在するようだ。著者らはこの網膜の光に反応するRGCの働きを研究してきたようで、一般の視細胞と異なり、RGCが視交叉上部に存在して脳の概日周期を統合しているガングリオン(SCN)に投射し、この細胞を遺伝的に除去すると、他の視覚機能は残したまま、概日周期が光に影響を受けなくなり、結果様々な障害が出ることを明らかにしていた。 この研究ではRGDのうちSCNに直接投射して、光による概日周期の撹乱に関わるBrn(-)RGCに注目し、3.5時間ごとに昼夜のサイクルで24時間の概日周期を乱す実験を行い、Brn(-)細胞だけで概日周期を乱すことができ、それだけでなくマウスを無気力に陥らせるのに十分なことを確認している。その上で、この網膜の特殊なRGC細胞がどの経路で最終的に感情を支配する脳領域につながるのを明らかにするのがこの研究の目的で、そのために様々な遺伝子操作を駆使している。ここまでの遺伝子改変マウスが用意されているのには驚くが、あとはこの回路の機能を調べる光でムードを壊す実験系で順番にその回路を検証すればいいことになる。

実験の詳細は全て省いて(神経系に興味のある人は、遺伝子改変マウスとアデノ随伴ウイルスによる脳への遺伝子導入がどう利用されるのか大変参考になる論文だと思うので、ぜひ一読を進める)結論をまとめると次のようになる。

1)RGCは様々な脳領域に神経投射をして眠りや活動性の調節に関わっているが、そのうちBrn(-)RGCは直接SCN、特に視床の傍手綱核(pHB)に投射する。
2)Brn(-)RGCの興奮は、pHB神経にリレーされて、最終的には感情などを支配する内側前頭前皮質や線条体に投射する。
3)この回路は、他のRGCと異なり、もっぱら気分を調節しており、例えばこの細胞が感じる昼・夜サイクルが正常より短いと、マウスはムードが低下し、新しいものへの興味を失い、同じ場所でじっとすることが増える。
4)この回路が機能しなくても、記憶や運動には影響がない。また、光とは違う刺激で概日周期を撹乱する場合、この回路が機能しなくても、ムードを変化させることができる。

まとめてしまうとこんなところだろう。ともかく、あらゆる証明に異なる遺伝的テクノロジーが使われ、RGC-pHB-mPFCの3種類の神経が実際につながっていることを証明するのに使われたtriple-virus trans-synaptic retrograde tracing strategy(mPFCとpHBにウイルスベクターでシナプスを超えて逆行性に標識できるマーカーをpHB内で活性化させ、最終的に網膜RGCを染められるかどうかを調べる複雑なシステム)は、私にとっても初耳だったが、光遺伝学だけでなく、様々なマウス遺伝子操作技術が神経科学で開発されていることがよくわかる論文だった。

いずれにせよ、同じ回路が私たちのムードの起源なら、RGCをうまく刺激して、気分障害を治す日がくるかもしれない。
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9月16日:人間の造血動態(9月5日号Nature掲載論文)

2018年9月16日
一人一人の個人のゲノムを知ることは社会のダイナミックスを知ることにつながるが、同じことは当然細胞が集まってできる個体内での長い時間にわたる細胞のダイナミックスも同じだ。ただ、これまで少ない細胞数で、十分なゲノム解析を行うことは簡単でなかった。その結果、細胞動態についての研究は様々な操作が可能な血液を用いて、ほぼ1世紀続いてきた。ただ、このような操作された個体の血液細胞動態は、ある種のポテンシャルを示していても、実際の体の中で起こっていることを反映しているのかは常に議論があった。受精卵からの発生過程でゲノムに必ず蓄積する突然変異を用いれば、造血システムの動態がわかるのだが、これまでは技術的に不可能だった。代わりにX染色体上にコードされた遺伝子の違い(アロタイプ)を用いて、私たちの体の血液がきわめて少ない数の幹細胞に由来することを示した英国の古典的研究をはじめとして様々な苦労が行われてきた。

今日紹介する英国サンガーセンターからの論文は、人間の血液動態を操作なしに調べるという英国の伝統がサンガーセンターのゲノム解析と合体した研究で9月5日号のNatureに掲載された。タイトルは「Population dynamics of normal human blood inferred from somatic mutations (突然変異から知ることができる人間の血液細胞のポピュレーションダイナミックス)」だ。

全ての細胞は、一個の受精卵から発生してくる。その間増殖と分裂を繰り返し人間では40兆個の細胞が出来上がる。私たちの細胞の分裂ではほぼ必ずゲノムの突然変異が起こる。これは全くランダムに起こるため、ある細胞の子孫はほぼ同じ突然変異を持っていることで特定できる。その結果、例えば2つの細胞が分化したのか、突然変異の分布を調べれば推定することができる。例えば、生殖系列の突然変異が共有するかどうかを遡ることで私たちの祖先が特定できるのと同じだ。

この研究では52歳の健康男性の骨髄を採取し、FACS で89種類の造血能を持つ細胞をソーティングしたあと、得られた様々な段階のsingle cellを試験管内でサイトカインとともに培養して増殖させ、クローン増殖できた細胞の全ゲノム解析を行っている。最終的に異なる表面抗原セットで特定できる89種類の細胞に由来する、140種類のクローンについてのゲノムデータを解析している。

人のゲノムに分裂ごとに突然変異が入ることがわかってから、いつか誰かがこのような研究を仕上げると思っていたが、ゲノムシークエンスで世界をリードするサンガーセンターから論文が出てきたのは納得だ。この研究は、140種類の血液前駆細胞クローンそれぞれの全ゲノムを解析できたという技術力が全てだ。

あとは、それぞれのクローンが蓄積している突然変異が、どの細胞同士で共有されているのかをコンピュータ解析し、系統樹を作ればいい。調べたのは血液細胞系列だが、当然変異は発生初期から起こる。この人の血液は、原腸陥入前に起こったと考えられる異なる2種類の変異で分けることができ、もちろん3胚葉に分化する前なので、同じ変異は口腔粘膜細胞でも認められる。

細胞の分裂回数を換算して計算される突然変異は、だいたい1回の分裂に1ー2個で、今後血液だけでなく体のあらゆる細胞で系統関係を調べることが可能になる。発生には今も系統関係について議論の多い分化経路が存在することから、single cell transcriptomeとともに、single cell genome解析により、ほとんどの問題が解決するような予感がする。

さて、分裂ごとの変異数が算定できると、140クローンがどのように分裂を繰り返して52歳の骨髄を形成しているかがわかる。シミュレーションを繰り返してその経過を推定すると、血液細胞は胎児期から幼児期にかけて急速に数が増え、大人になると定常状態に達して、一定の割合で自己再生が繰り返されることがわかる。この研究で調べられた140種類の細胞には血液のガンになるドライバー変異は存在しないが、一部の細胞は他の細胞よりより優位な分裂を繰り返すことができる変異を持っている。

こうして得られた140種類の前駆細胞の変異が、ではこのボランティアの末梢血に見つかるかを、骨髄採取の4ヶ月、および9ヶ月目に調べたところ、ほとんど見つけることができない。従って、今回骨髄で捕まえた変異はほんの一部のクローンであることがわかり、理論上中年の男性では数千以上の幹細胞が存在すると考えられる。また、分化した顆粒球は常に大元の幹細胞から作られており、骨髄には少なくとも45000から20万個の顆粒球を産生する幹細胞が存在し、少ない数の顆粒球系の幹細胞が入れ替わりたち代わり顆粒球を供給するのではないこともわかった。

最後に、血液学では今も議論されている、T細胞とB細胞のみへ分化できる、common lymphoid progenitorは存在するのかも調べており、B細胞と顆粒球へと分化できる前駆細胞は存在しても、50歳の人には、common lymphoid progenitorはまず存在しないだろうと結論している。

他にも、インフォーマティックスを駆使すれば、いろんな問題を解決できることができるだろう。今後はもっとゲノム解析した細胞数を増やすことで、より精度の高い系統解析ができると思う。従来の実験血液学が、ゲノム解析手法の進歩により、おおきく変わっているのが実感できた。
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9月15日:自然免疫に関わるTLR5を用いるアルツハイマー病治療戦略(8月28日Journal of Experimental Medicineオンライン掲載論文)

2018年9月15日
アルツハイマー病ではアミロイド沈着による神経変性が主病変であることは間違いないが、アミロイドが沈着するまでの長い過程に炎症反応が関わっていることを示唆する報告が最近は多く見られる。とするとミクログリアを介する自然免疫に関わるメカニズムが当然関与していると予想できる。実際、TLR4受容体ノックアウトマウスでは、アミロイドの除去が低下して沈着が進むことが知られている。

今日紹介するフロリダ大学からの論文は、アルツハイマー病(AD)に自然免疫系が関わることを前提として、TLRを介してアルツハイマー病の進行を止める可能性を探索した論文でJournal of Experimental Medicine にオンライン出版された。タイトルは「TLR5 decoy receptor as a novel anti-amyloid therapeutic for Alzheimer’s disease(TLR5デコイ受容体はアルツハイマー病の新しい抗アミロイド治療に利用できる)」だ。

この研究の実験部分はほとんどマウスでアミロイドが沈着するADモデルを使っているが、あくまでもヒトへの応用を考えて、ヒトで調べられることはしっかりやろうというスタンスで研究を進めている。

まず、人ADでアミロイド沈着が多い皮質と、沈着が少ない小脳から組織を採取、TLRとその下流シグナルを調べると、アミロイド沈着が始まった場所では確かに様々なTLRの発現とそのシグナルが高まっているのが観察された。

そこで、それぞれのTLRの細胞外ドメイン(デコイ受容体)を脳内で発現するアデノ随伴ウイルスをADモデルマウスの脳に投与する実験を行い、TLR5を発現させた時に、不溶性のアミロイドの蓄積が強く押さえられることを発見する。次に、ウイルスではなく、TLR5に抗体のFc部分を結合させたタンパク質を直接脳に投与する実験を行い、TLR5の細胞外ドメイばアミロイド沈着が押さえられることを確認する。またこれと並行して、ミクログリアの数や活性が低下することも示している。

次にTLR5のデコイ受容体の作用メカニズムを様々な方法で調べ、
1)驚くことに、デコイTLR5は直接不溶性のアミロイドC末部分と強く結合すること。
2)不溶性のアミロイドはミクログリアのTLR5を直接活性化し炎症反応を誘導するとと同時に、この刺激によりミクログリアが細胞死に陥り、アミロイドの除去が低下する。デコイ受容体は過程を抑制し、炎症性サイトカインの分泌を押さえ、ミクログリアの細胞死を止めることで、アミロイド除去を高めADの進行を遅らせることを明らかにしている。

また次に、TLR5にこのような働きがあるなら、ヒトでもTLR5の変異で同じようなことが起こっているのではと考え、これまで蓄積されたGWASデータからTLR5のバリアントを抜き出し、ADとの相関を調べ直すと、期待通りTLR5細胞外ドメインが分泌される変異のみADリスクが低下することを示し、デコイ型受容体がヒトでも効果がある可能性を示している。

話は以上で、私自身は将来の介入手段として結構有望ではないかと感じた。ただ、全身投与により他の影響が出る可能性もあるので、できれば負担の少ない脳内投与の方法が開発される必要があると思う。しかし、バクテリアの鞭毛に反応するTLR5が糸状になったアミロイドに反応してミクログリアを活性化するという話はなかなか面白いのではないだろうか。
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9月14日:新石器時代ケニヤでの遊牧の影響(8月29日号Nature掲載論文)

2018年9月14日
ナミビアの後、ケニアに入ってナイロビで一泊した。空港からホテルまで車から外を眺めていると、ナイロビはインドと同じように人が溢れているという印象がある。ただ大きな違いは、黙々と早足でしかも背筋を伸ばして歩いている人が多い。たまに走っている人も見かける。なんとなくマサイなど遊牧民の伝統を感じるが、思い込みだろうか。しかし、アフリカでは狩猟採取だけではなく、遊牧が3000年前から行われた痕跡があるようで、今日紹介するワシントン大学からの論文は新石器時代のケニアサバンナの遊牧民の痕跡についての研究で8月29日号のNatureに掲載された。タイトルは「Ancient herders enriched and restructured African grasslands(古代の遊牧民がアフリカの草原を肥沃にし再構成した)」だ。

ナミビアの砂漠地帯を走っているとアフリカの大地の多くが養分が少ない不毛の地だとわかる。ナミビア砂漠にも様々な動物を見かけるが、群れているのは珍しい。これは一匹の動物を支えるのに広い土地が必要だからだと思う。そこに、ケニアのように一部で森や肥沃なサバンナが広がる地帯が孤立して存在している。この研究では、このような新石器時代の遊牧民の暮らしが、ケニヤに存在する肥沃な土地をもたらしたと仮説を立て、それを土壌学から検証しようとしている。

これまでの発掘調査から、新石器時代の遊牧民が暮らしたことがはっきりしている場所を地層学的に調べると、最も表層の堆積物の下に15ー30cmの色の薄い堆積物が見つかる。この地層が遊牧民により形成されたと気づいたのがこの研究のすべてと言っていいだろう。この地層から採取した土を調べると、この土壌に多くの動物の糞から変化した様々な物質が他の地層の何倍も濃縮している。また、アイソトープを用いた生物成分の測定でも、これらが動物の有機物由来であることが証明できる。すなわち、遊牧民が家畜を連れて移動することで、家畜の糞が土壌の養分を高め、それを目指して多くの動物が集まり、有機物のサイクルが生まれて現在の肥沃なサバンナ地帯ができたと結論している。

もちろん地質学は素人の私には、よくわからない部分もあるが、おそらく以上が内容の全てだと思う。新石器時代から人間の活動が自然を大きく変化させてきたことは間違いないようだ。そのおかげで、今日見てきたケニヤのサバンナが成立していると思うと、感慨が深い。タイムリーな論文を紹介することができた。
カテゴリ:論文ウォッチ

9月13日:アリの社会性を決めた遺伝子(7月27日号Science掲載論文)

2018年9月13日
ネットの制限であまり論文をダウンロードできないので、この機会に、少し古いが紹介したいと思いながらできなかった論文を取り上げることにした。今日は、ほぼ1ヶ月半前の7月27日にScienceにロックフェラー大学から発表されたアリの進化についての面白い論文を紹介したい。タイトルは「Social regulation of insulin signaling and the evolution of eusociality in ants (インシュリンの社会的調節とアリの真社会性の進化)」だ。

全てのアリは単独で生活することはなく、異なる役割からなる社会を形成して集団生活をしている。どのように卵を産む女王アリが決定されるかは種によりまちまちだが、種によっては女王アリ、働きアリ、雄アリ、兵隊アリ、ショジョ女王蟻など、複雑に分かれてはいるが、基本は生殖能力のある階層と、そうでない階層に分かれる点だ。この社会性は、全てのアリの先祖に誕生した後、現存する全てのアリで維持されて来た。この研究ではこの最初に社会性をもたらしたイベントに関わる分子を、おそらく脳に発現して食性を決める分子だろうとあたりをつけ、現存の多くのアリについて、生殖能力のある個体と、生殖能力のない個体にわけ、それぞれの頭部で発現する遺伝子を比較し、生殖能力と完全に一致する遺伝子を探している。驚くことに、両者ではっきり発現の異なる遺伝子はインシュリンに極めてよく似たペプチド、ILP2だけに絞られるというラッキーな結果が得られた。

すなわち成虫になる過程でILP2の発現が高いと食欲が刺激され、多くのカロリーを摂取できる結果、生殖能力を獲得できるという、なかなかよくできたアリだけが持つ仕組みが成立している。このシナリオをより実験的に検証するため、さすがアリの専門家と思わせる、Ooceraea biroiと呼ばれる卵を産む女王アリと働きアリのステージを、子育て時期に応じて周期的に繰り返すアリを選んで調べている。そんなアリがいるのかと感心したが、このアリは卵が幼虫になる段階では働きアリとして幼虫を育て、手がかからない蛹になると今度は女王アリに変わって卵を産む周期を繰り返す。アリの中では変わり者だ。このサイクルから、幼虫は子育てに専念させるため、働きアリが女王アリに変わるのを抑えていることになる。そこで、幼虫から働きアリを離して生殖能力が現れる時に、ILP2の発現が高まるかどうか調べると、期待通り幼虫から離すとILP2の発現が高まり、逆に女王アリの段階で幼虫を加えると、ILP2の発現が低下することが確認された。さらに、ILP2ペプチドは脳の中央にある一握りの細胞だけで生産され、食欲中枢を刺激することも明らかにしている。ILP2が生殖能力を決めていることをさらに確認する目的で、働きアリの段階でILP2ペプチドを注射すると、期待通り卵巣が活性化され、卵形成が始まる。そして、シナリオ通り、このペプチドにより食物摂取量が上昇することが卵巣の活性化を誘導していることを確認している。

ILP2分子のみで生殖能力が決められることを、変わり種のOoceraea biroiを使って証明したことがこの研究のハイライトで、他のアリも含めたゲノムレベルの進化研究は全く手がついていない。しかし、示されたシナリオは説得力があり、この遺伝子をコードするゲノム領域を詳しく調べていくことで、エキサイティングなシナリオが生まれて来る予感がする。一つ物知りになったことが実感できる面白い研究だった。
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