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4月6日:クリスパー/Cas9+クローン=ハンチントン病モデル(5月3日発行予定Cell掲載論文)

2018年4月6日
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ゲノムから系統関係を計算すると、マウスはヒトやサルに最も近い実験動物で、大型動物として実験研究に用いられる、犬、豚などとヒトとの距離は遠い。それでも、例えばカテーテルの練習はもっぱら豚が使われているし、外科的な研究は大型動物なしには難しい、寿命の問題も重要で、発症までに時間がかかる場合、マウスはあまりに寿命が短い。この意味で、大型動物を用いた疾患モデルを作ることは重要だ。

今日紹介する広州にある中国科学院生物医学健康研究所からの論文は、豚を使ってこれまで難しかったヒトのハンチントン病モデル作成に成功したことを報告する論文で、5月3日号のCellに発行予定だ。タイトルは「A Huntingtin knockin pig model recapitulates features of selective neurodegeneration in Huntington’s disease(Huntingtinをノックインした豚モデルはハンチントン病の特異的な神経変性を再現する)」だ。

個人的な話になるが、この研究所の設立にはアメリカで早くからクローン動物の作成に成功していた中国人科学者Xiangzhong (Jerry) Yangが様々なアドバイスをしていたように思う。私が初めて会った時、彼自身は唾液腺ガンでアメリカを離れることはできなかったが、新しい研究所の構想を話してくれた。その後ハードワーカーのDuanquin PeiがDirectorとして、胚操作の強みを生かした立派な研究所に成長したと思う。

ハンチントン病は、Huntintin遺伝子の第一エクソンに長いCAGの繰り返し配列を持つ人に発症する、現在では治療法のない神経変性疾患で、特に大脳の奥の線条体の尾状核の神経細胞が選択的に変性し、付随運動や認知症、そして後期には呼吸障害が現れる優性遺伝病だ。このグループはこれまでも、長いCAGリピートを持つ豚モデルの作成を試みていたが、異常分子の発現の線条体選択性が再現できず、豚は発生過程ですべて失われていたようだ。

そこで、クリスパー/Cas9を用いて、150回繰り返すCAGリピートがhuntintinに導入された豚の線維芽細胞を作成、この線維芽細胞の核を取り出し、豚未受精卵に戻してクローン豚を作成している。クリスパーの効率がいいと言っても、2400近い遺伝子導入実験の中からようやく9クローンが得られている。さらに、線維芽細胞の核を3000近い卵に核移植し、全部で6匹のクローンブタ作成に成功している。金も、人手もかかる大変な仕事だと思う。

このうちの一匹を起点に2年でようやく15匹のF1、10匹のF2を作成している。こうして得られたCAGリピートを持つブタの多くは、5ヶ月経つと急に運動障害を発症する。さらに、ヒトでは後期にしか現れない呼吸障害も早期から現れる。実際、最初の世代も10ヶ月でほとんどが死亡しており、繁殖も大変だったと想像する。そして何よりも、マウスモデルではうまく再現できなかった、線条体尾状核の選択的神経脱落が見られ、極めて人のハンチントン病に近い 病態であることが、解剖学的、組織学的に確認されている。発症が早いのは、150という、普通より2−3倍長いリピートを用いたためだろう。

具体的な病変などの説明はすべて省くが、要するに人間の病気に近い大型動物疾患モデルができた。しかし実際の臨床的解析はこれからだと思う。今後、コストはかかってもコンスタントに同じハンチントンモデル豚の生産ができれば、治療の切り札として期待されている細胞治療による治療の可能性を確かめることができるだろう。もちろん、CAGから作られるポリグルタミンの毒性を和らげる薬剤のテストにも用いられる。

しかしクローニングとクリスパーを組み合わせてこの目的を達成した論文を見て、今は亡きJerry Yangを思い出した。
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