私の友人が経験してきたように、腎臓癌に対しては、これまで様々な治療法が存在し、IL-2やインターフェロンのように免疫を標的にする治療が効果を示すこともわかっている。一方、進行した外科治療が適応にならない腎臓癌に対するもう一つの薬剤として現在スニチニブが認可され、効果の高さから世界的にも標準治療になりつつある。血管増殖因子受容体VEGFRとそれに近縁のチロシンキナーゼ受容体に効果がある飲み薬で、ガンへの血管の供給を止める一種の兵糧攻めだ。このため、わが国でもオプジーボなどの免疫チェックポイント治療が認められるのはあくまでも、スニチニブなどの効果が見られない場合に限られる(私の印象で確かめてはいない)。
このように、さまざまな治療薬が認可されていることは、もちろん患者さんにとっては嬉しいことだ。ただ、私は臨床に関わっていないので間違っている可能性もあるが、様々な薬剤が、しかも組み合わせて用いられる腎臓癌は、今や製薬企業がそれぞれの薬剤の優位性を示す戦場になっている気がする。新しい組み合わせで、現時点での標準治療を置き換えるための競争だ。実際、血管新生を標的にする薬剤だけでも現在何種類も利用できるはずだ。
今日紹介するスローンケッタリング癌研究所を中心に214人が参加した臨床治験は、まさにこんな例で、現在進行腎癌の標準治療になりつつあるスニチニブをコントロールにして、なんとオプジーボとともに、同じ会社から発売されているもう一つのチェックポイントCTLA-4を標的にしたイピリムマブを組み合わせた2重チェックポイント治療の優劣を比べている。タイトルは「Nivolumab plus Ipilimumab versus Sunitinib in advanced renal cell carcinoma (進行性の腎臓癌に対するニボルマブ+イプリムマブ対スニチニブ)」で、4月5日発行のThe New England Journal of Mediineに掲載された。
対象は、未治療の進行性腎臓がんの患者さんで、約500人づつ平均で25ヶ月追跡している。
詳細は省くが、腎臓がんに対しては最初から免疫チェックポイント治療は効果を示す。しかも、スニチニブと比べると、癌が完全に消えるケースが1%に対して9%、癌が縮小した率は27%に対し42%、癌の進行を抑えることができた期間は8.4ヶ月に対し11.6ヶ月、そして18ヶ月目の生存率は60%に対して75%だ。加えて、治療による副作用はチェックポイント治療の方が少なく、生活の質も守られるという結果で、下世話な言い方をすれば、チェックポイント治療の圧勝と言っていいだろう。
もちろん、この結果は私の友人も含め、患者さんにとっては素晴らしい結果だ。健康保険に収載されれば、患者さんの負担はとくに変わることはない。私も患者の立場なら、この方法の早期承認を求めるだろう。
それでも何か気になるのは、新しい薬剤の価格が高騰していることと、効果のある薬もさらに効果がある薬に短期間で置き換わる状況が生まれていることだ。すなわち新薬が次々と開発されるのは、患者にとっては喜ばしいことだが、一つの薬の寿命が特許期間よりはるかに短くなると、それを見越して初期価格が高騰していく心配だ。さてどうするのか、処方箋がないのが最大の問題だ。
カテゴリ:論文ウォッチ