そして同じシンガポールA*Starのグループから、8−16細胞期のアクチンの動きを調べ、やはり思いもかけない挙動が初期胚で見られることを示した論文が4月19日号のCellに発表された。タイトルは「Expanding Actin Rings Zipper the Mouse Embryo for Blastocyst Formation(伸びていくアクチンの輪がマウス胚の接着を閉じて胚盤胞を形成する)」だ。
一般的上皮では、細胞接着構造により細胞骨格分子がオーガナイズされ、特にアクチンは接着班に集まって見える。当然初期胚でも細胞同士は未熟ではあっても接着構造を形成しており、そこに濃縮されていると思っていた。ところが、この研究では16細胞期、接着部位と離れた表面側(apicalと呼ぶ)にアクチンが構造化されて(F-アクチン)リングをを形成し,それが大きく伸びて最終的に細胞接着部位に一体化することを発見した。これまで、多くの人が初期胚のアクチンを調べたはずなのに、どうしてこれほど特徴的な像を見落としていたのか、不思議に思う。いずれにせよ、この特徴的なアクチンの挙動を発見したことがこの研究のハイライトで、あとはすでに調べているチュブリンの挙動と対応させながら、細胞学的に詳しく調べている。美しい写真とビデオでデータが示されており、これを文章で表現するのは難しい。詳しく知りたい方は、是非論文に当たって欲しい。
ここでは詳細を省いて、これらの解析から著者らが考えているこの特徴的アクチンの挙動の分子背景、および生物学的意味だけを簡単にまとめておく。
1)アクチンリングは8細胞期でも見られ、細胞非対称性形成と密接に関わっている。この時期の紡錘糸は膜接着部位に形成されるが、これを起点としてapical側へとオーガナイズされる細胞内での物質の流れがこのリングの形成に関わる。
2)分裂が終わり16細胞期になると収縮リングに集まっていたアクチンがapical側へ移行、アクチンリングが形成され拡大する。この時、微小管はリングの上方に集まる。
3)16細胞期のアクチンリングは大きく拡大するが、こうして形成されるアクチンにはミオシンが結合していないため、アクチンの運動ではなく、細胞全体の形態が変化し、微小管の集まった外部表面が広がることで、アクチンリングが伸びると考えられる。
4)こうして広がり始めたアクチンリングは細胞接着構造に接合するが、これを起点にミオシンやカドヘリン、などさまざまな接着分子が集まり、ジッパーが閉まるように細胞接着部位を、adherence junction, tight junctionの揃った完全な上皮型接着構造に転換する。
5)これにより完全に胚内と、胚外が分離され、胚盤胞の内腔が形成される。
以上がシナリオで、最初にアクチンをリング状にまとめておくことで、非対称性だけでなく、接着構造を迅速に漏れなく形成することが可能になっている。
一般の方には難しい話になってしまったが、胚発生に関わっていた一人として、本当にうまくできていると感心した。
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