1) 世界中でアルコール醸造のために使われる酵母は、ほんの数種類の先祖から由来している。
2) 中でもビール酵母の多様性は大きく、英国やヨーロッパ本土のビール酵母の多様性は著しい。一方、アメリカのビール酵母は、私たちが感じているように多様性は少ない。
3) 酵母の系統の確率は、17世紀で、微生物学の概念が生まれるより前からそれぞれの土地で、人間の手で系統化された。
4) ビール酵母は醸造から醸造へと培養を続けていくので、すでに胞子形成能力を失っている。一方、ワイン酵母は、ブドウや昆虫とともに自然を生き続けているので、胞子形成能や自然ストレスへの耐性が維持されている。
5) ビール酵母は、2種類の異なる先祖から由来しているが、目的が同じであるため、匂いや味に関わる遺伝子の変化がほとんど同じになっている。
6)ビールだけでなく、日本酒やワインでも嫌う、強いスパイシーでクローバーの匂いは主に4VGという物質由来で、この物質を作る酵素は酵母から除かれていることが多いが、この匂いを特徴とするドイツのヴァイツェンビール酵母では、きちっと維持されている。
今日紹介する論文も酵母のゲノムで今度はワインの国フランス ストラスブール大学からの論文で4月19日号のNatureに掲載された。タイトルは「Genome evolution across 1,011 Saccharomyces cervisiae isolates(1011種類の出芽酵母分離株のゲノム進化)だ。
この研究で調べられたことはベルギーからの論文と全く変わることは無い。ただ、ベルギーからの論文が醸造酵母に限っていたため、その起源については不明のままだった。実際、酵母が自らの力で移動するとなると、胞子を風で運んでもらうことしかなく、世界に広がった理由を考えると、やはり人間が運んだと考えるしか無い。この課題に踏み込むため、この研究では、醸造酵母に加えて、最近急速に解析が進む、野生に存在する酵母のゲノムを加え、なんと1011種類の酵母ゲノムの配列を調べ、ベルギーの論文でいくつかの起源から由来するとされていた醸造酵母が、中国に由来することを突き止めている。この点も含めて、いかにこの論文の結論をまとめて置く。
1)S.cervisiaeは近縁種から約30万年前に中国で分離し、1万5千年前後に中国からアジアを含むさまざまな地区に持ち出される。これを完全に醸造用として使い始める歴史は日本の酒は早く4000年前になる。これに対し、ワイン醸造用に使われるのが1500年になっている。我が国の酒酵母がワイン酵母より起源が古いというのは驚きだが、酒酵母とワイン酵母の種分化は約1万3千年前で、中国から持ち出された時期にほぼ一致するので、信用できるように思う。
2)醸造用酵母のゲノムについてはほぼベルギーの研究と一致しており、例えばビール酵母は遺伝子の倍数体や胞子形成は全くできないなどだ。これらは再掲したので繰り返さないが、この論文では日本の酒の記述が多い。
3)醸造酵母と野生酵母のゲノムは大きく分離しており、その中間に両者の様々なモザイク種が存在する。ところが、日本の酒酵母は例外で野生酵母のグループに分類できる。しかも、ブドウや昆虫の中で一年を過ごすために、2倍体を保っているワイン酵母と同じで、2倍体を保っている。しかし、人工的に進化させられた結果、酒酵母では染色体の異性体が多い。この野生種に近い系統を醸造に使う例はアジアに見られる。
4)染色体の異性体だけでなく、水平伝搬を含むさまざまな変異がS.cerviciaeには蓄積している。
他にも多くの結果が示されているが、酒を好む素人にとっては楽しみの起源がある程度明らかになり、民族とともに酵母が進化していることを確認できれば十分だろう。特に日本酒について詳しく述べてくれていることに脱帽。
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