中でも最近報告が続く、CSF-1抑制により、ガンの予後が改善されるという論文には特に興味を持って読んでいるが、今日紹介するスイス・ローザンヌにあるルードビッヒがん研究センターの論文は、特に印象が強かった。タイトルは「T cell induced CSF1 promotes melanoma resistance to PD1 blockade.(T細胞により誘導されるCSF1はメラノーマのPD1阻害治療の抵抗性を促進する)」で、4月11日号のScience Translational Medicineに掲載された。
すでに述べたように、CSF1が様々なガン細胞の増殖促進に関わることは、広く認められるようになっており、実際CSF1受容体の阻害剤をガンに用いる治験が行われている。また、辞めた後でも、私たちが樹立したCSF1R抗体AFS98のリクエストは多い。
この研究ではメラノーマを対象に、臨床とマウス実験を行き来しながらCSF1の作用を調べている。驚くことに、メラノーマが進展すると、血中CSF1濃度が上昇する。この原因を探ると、CD8陽性のキラー細胞がメラノーマに作用するとき、インターフェロンγやTNFを分泌し、それがメラノーマに働いてCSF1を誘導し、その結果腫瘍の増殖を促進するマクロファージを集めてしまい、キラーT細胞への抵抗性が獲得されることがわかった。同じようなメカニズムで、他にも様々なサイトカインが誘導されることから、PDL1が誘導されて直接キラー活性を弱めるだけでなく、実際には様々なサイトカインが腫瘍の免疫抵抗性に関わるようだ。
そこで、CSF1がどの程度キラー活性を弱めているのか、マウスの実験系を用いてPD1に対する抗体とともに、私たちが作成したCSF1Rに対する抗体AFS98を同時に注射すると、PD1抑制だけでは殺しきれなかったメラノーマが完全に消失することがわかった。実際、Yummer1.7という細胞株では、8割近くのマウスが100日以上再発なしに生存する。そして、この効果は腫瘍の免疫抵抗性を付与するマクロファージの腫瘍間質への移動が抑制されるためであることがわかった。
では通常2割程度の患者さんしか反応しないPD1阻害治療を、CSF1R阻害と組み合わせて全ての癌を制御できるようになったのかと言うと、事はそう簡単でないようで、メラノーマによってにCSF1R抗体も効果が全くないのもあることも明らかになった。すなわちガンによってはキラー活性を弱めるのにCSF1を使わず、他の抵抗性に関わる因子を介して、免疫抵抗性を維持していることもわかった。
話はこれが全てで、あえて結論を述べると、CSF1の役割を前もって調べておけば、よりPD1療法の効果が予測できるという結論になる。CSF1Rに対する抗体を作成していた頃は、ガンにまで効果があるとは想像だにしなかったが、もし癌を制圧する研究に役立つなら、嬉しい限りだ。
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