今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、このニーズに応えてマウス T 細胞に高い遺伝子導入効率を可能にするAAVベクターの開発と、それを用いたガンの免疫治療研究で、1月12日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「An evolved AAV variant enables efficient genetic engineering of murine T cells(AAV変異体の進化形はマウスT細胞の高効率の遺伝子操作を可能にする)」だ。
研究の目的の一つは、AAV ベクターの特異性や効率を進化させて目的に合ったベクターを開発できるかだ。このために、マウス T 細胞にはほとんど感染しない,
ヒト用に開発された AAV6 をスタートラインとして、このカプシドの一部をランダムなアミノ酸配列に置き換えたベクターをマウス T 細胞に吸着させ、T 細胞に侵入されやすい配列を特定する進化サイクルを3回繰り返し、最終的にマウス T 細胞に高い遺伝子導入効率を持つ Ark133 ベクターを完成させている。
今日紹介するフランス人類進化研究所からの論文は、過去1万年を遡ってヨーロッパ人のゲノムの現在の形成に関わってきた自然選択要因を明らかにしようと、3000人近い古代ゲノムデータのゲノム解析から、選択されてきた多型をリストし、その意味を調べた研究で、1月13日 Cell Genomics にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic adaptation to pathogens and increased risk of inflammatory disorders in post-Neolithic Europe(新石器時代以降の病原体への遺伝的適応は炎症性疾患へのリスクを高める)」
今日紹介するワシントン大学からの論文は、Tau による神経変性が促進される突然変異が起こったヒトTau遺伝子と、アルツハイマー病(AD)のリスクを高める APOE4遺伝子を導入したマウスを用いて、腸内細菌叢が明らかにTau異常を促進することを示した研究で、1月13日号 Science に掲載された。タイトルは「ApoE isoform– and microbiota-dependent progression of neurodegeneration in a mouse model of tauopathy(ApoEアイソフォームと細菌叢により Tau異常症モデルマウスの神経変性が進む)」だ。
無菌的に生きるというのは臨床的に難しいので、次に成長期に短期間抗生物質を投与し、腸内細菌叢を変化させたときに AD 進行を遅らせられないか調べている。結論的には無菌マウスと同じ効果はない。ただ、なぜカオスマウスでTau異常症を少し抑える効果は認められる。
とすると、より詳しく細菌叢を操作して、AD を抑える腸内細菌叢が実現できればいいことになる。その結果、腸内細菌叢の中で短鎖脂肪酸を合成する系統を抑えることで、AD の進行が抑えられることがわかった。これを確かめるために、3種類の短鎖脂肪酸をマウスに摂取させると、グリア増殖とリン酸化 Tau の増加による海馬の萎縮が進むことがわかった。
以上が結果で、腸内細菌叢が神経炎症を高めて Tau 異常症、AD を進行させるという話は、特に驚きはない。しかし、一般的に代謝の改善にいいとされ、多くの食品メーカーが良い菌叢の指標として宣伝している短鎖脂肪酸が、AD の進行を促進することになると、これは大変だ。もしこの結論が正しいとすると、短鎖脂肪酸の元になる食物繊維は危険という話になってしまう。
今日紹介するドレスデンにあるマックスプランク研究所の論文は、ハチドリだけがホバリング能力を獲得するようになった秘密にチャレンジした面白い研究で、1月13日号 Science に掲載された。タイトルは「Loss of a gluconeogenic muscle enzyme contributed to adaptive metabolic traits in hummingbirds(グルコース新生に関わる酵素欠損がハチドリの代謝適応力に寄与している)」だ。
今年期待される臨床治験でエーザイのアルツハイマー薬がランクインしていたことを1月6日に紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/21299)、まさにその日にレカネマブを FDA が承認したというニュースが飛び込んできて、世間も学会も騒がしいが、ほぼ同じ日、もう一つ注目の治験論文が The New England Journal of Medicine に報告された。これまで何度も紹介してきた G12C 型変異 K-ras の機能阻害薬 sotorasib を全身に転移があるステージIVの膵臓ガンをもつ38人の患者さんに投与した1/2相治験だ。
さて、関係ない話が続いたが今日紹介したいワシントン大学からの論文は、病院を悩ませているアシネトバクター感染症が、細胞内寄生菌再活性化の結果である可能性を示した研究で、1月11日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Catheterization of mice triggers resurgent urinary tract infection seeded by a bladder reservoir of Acinetobacter baumannii(マウスのカテーテル挿入により活性化される尿路感染症はアシネトバクターの膀胱内のリザバーに由来する)」だ。
今日紹介するコペンハーゲン大学からの論文は、脳のくも膜と軟膜の間に、中皮に似た新しい膜構造が存在することを発見した研究で、様々な病気を考える新しい視点を与える重要な研究になる。タイトルは「A mesothelium divides the subarachnoid space into functional compartments(中皮がくも膜下の空間を2つの機能的コンパートメントに分離する)」だ。
我が国でも、iPS 由来の様々な細胞の移植治療が行われているが、細胞移植による治療もそろそろ普及してきた印象がある。今年早々 Nature Medicine に、あまり想定していなかった細胞移植治療に関する治験論文が、2報同時に出ていたので簡単に紹介することにした。治験登録番号はそれぞれ( NCT03289071 と NCT03132922 )
最初の論文はイタリアミラノにある San Raffaele 科学研究所を中心にした研究で、進行性の多発性硬化症にヒト胎児から樹立した神経幹細胞を髄膜注射する治療法で、主に安全性を見る第一相治験だ。タイトルは「Neural stem cell transplantation in patients with progressive multiple sclerosis: an open-label, phase 1 study(進行性多発硬化症に対する胎児神経幹細胞移植:第一相オープン試験)」だ。
ただ、このような細胞死は細菌には存在しないと思っていたが、2020年、カリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文が、なんと感染後に生じるトリヌクレオチドによって、細菌内の全ての核酸が分解され、細菌が死ぬという現象が存在することが明らかにされ(Structure and Mechanism of a Cyclic Trinucleotide-Activated Bacterial Endonuclease Mediating Bacteriophage Immunity、Molecular Cell,77:723,2020)、細胞死が種の保存のためのメカニズムとなっていることを示した。
これに相当するのが、これまでもテクノロジーとして紹介してきた Cas12 や Cas13 のように、活性化後は特異性なしに、RNA や DNA を分解する酵素活性を持つ CRISPR/Cas システムで、当然自分の持つメカニズムも犠牲にすることになる。今日紹介するドイツ・ビュルツブルグにあるヘルムホルツ感染病研究センターとユタ大学からの論文は、自己犠牲にするという意味ではこれまで以上の酵素活性を持つタイプVと分類されるCas12a2の機能についての研究で、1月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Cas12a2 elicits abortive infection through RNA-triggered destruction of dsDNA(Cas12a2はRNAによりトリガーされる二重鎖RNA破壊を通して不念感染を誘導する)」だ。