1月4日:ゲノムの3D構造が明らかになっていく(12月17日号Cell掲載論文)
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1月4日:ゲノムの3D構造が明らかになっていく(12月17日号Cell掲載論文)

2016年1月4日
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  お正月に入って、新しい論文がアップデートされるスピードが落ちている。したがって、昨年暮れにためておいた論文を一編づつ紹介している。この中でもっともワクワクして読んだのが今日紹介するアメリカジャクソン研究所を中心とした中国、ポーランド、ベルギー、フランスの共同論文で、昨年暮にCellに掲載された。共同研究と言っても、実際にはジャクソン研究所と武漢にある華中科技大学を兼任している中国人研究者Ruanさんのグループがゲノムの立体構造を解明しようと地道な努力を重ねた研究で、タイトルは「CTCF-mediated human 3D genome architecture reveals chromatin topology for transcription (CTCFにより媒介されるヒトゲノムの3次元構築から、転写に関わる染色体のトポロジーが明らかになる)」だ。
  私たちのゲノムは48本の長いDNA鎖からできており、総延長は2mに及ぶ。これが核の中でたたまれているのだが、やみくもにたたまれるのではなく、必要な遺伝子だけが転写され、必要のない遺伝子は転写マシナリーから隔離するようたたまれる。例えれば飾り紐のようにたたまれており、さらにたたまれ方は細胞ごとに異なっている。このたたみ方を決めるのがCTCFとコヒーシンであることがこれまで明らかになっている。たたまれ方を調べる方法の一つが、隣接しているゲノム領域を調べるHi-Cと呼ばれる方法で、この方法を用いてゲノムの立体的区域化(TAD:topology associating domain)を決めることができ、多くの細胞種でTADが決められつつある。
  さて現在ポストゲノムの最重要課題として進んでいるのがENCODEプロジェクトで、細胞ごとの遺伝子発現、エピゲノム、そしてTADなどをゲノムの上に重ね合わせてるプロジェクトだ。このプロジェクトによりゲノム情報が初めて細胞特異的なエピジェネティック状態と統合できると期待されている。この研究では、これに加えてCTCF結合部位に集められた遺伝子領域と、転写開始標識としてのRNAポリメラーゼと結合している遺伝子領域を高い精度で (ChiA-PET: Pair-end tag sequencingという方法を用いる)調べることで、ENCODE情報全体を構造という観点から再統合できることを示した研究だ。
  詳細を全て省いてイメージを伝えるとすると、DNAという糸に付いたCTCFはコヒーシンの作用でヘアピンとコイルの2種類の基本構造が組み合わさった立体構造をとっているが、この論文に示されたデータにより、一つの細胞株についてではあるが、この折りたたみを何千箇所について具体的に描くことができるようになったと考えてもらえればいい。この折りたたみの要(かなめ)にCTCFとコヒーシンが存在するが、そこで転写が活性化されている場合はRNAポリメラーゼも存在する。   ではこのデータから何がわかるのか。まず構造と転写活性の相関がわかる。例えば、どの細胞でも発現している生命に関わる遺伝子をハウスキーピング遺伝子と呼ぶが、これらの遺伝子は要に近いところに集められている。一方、発生に必要な遺伝子のプロモーターやエンハンサーは要から離れたループの中に存在するといった具合だ。私は細胞分化を研究していたが、3年前の現役時代には全く想像もつかなかったことが明らかになっている。新しい転写研究時代が押し寄せていることを感じ、はっきり言ってこの流れについていくのは大変だったろうと思う。   もちろん発生だけではない。この研究ではCTCF結合部位が一塩基変化するだけで、転写活性が大きく変化すること、そして病気と相関する一塩基多型の中には、喘息の一塩基多型を例に、この構造と相関させて初めて明らかになるものがあることを示している。全ゲノムにわたる研究はデータは膨大で、読むのがしんどいことが多いが、この論文は読んでいくと自分の分野が思い出され、様々な想像がかきたてられた。一般の方には難しいと思うが、若い研究者はこのような時代がきていることをしっかりかみしめてほしいと思う。
   ゲノム研究で遅れをとった日本は、エピゲノム研究(エピジェネティックメカニズムの研究ではなく、エピゲノムの研究)でさらに遅れをとり、ゲノムの構造の研究になるともう取り返しのきかないところに来てしまっているような気がする。実際、昨年1年論文を読んで、ゲノム構造化に関する我が国からの面白い論文に出会った記憶がない。幸い、外国の研究でもデータベースとして残されている。物を考えるとき、ゲノム構造も念頭に置いて考えることは誰でもできる。ぜひこのギャップを埋める若手が台頭してほしいと思う。
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1月3日:ちょっと驚く免疫活性化剤(Nature Nanotechonologyオンライン版掲載論文)

2016年1月3日
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キメラT細胞受容体を導入した自己T細胞や、抗PD-1, CTLA4抗体を用いたチェックポイント治療の導入で、私たちに備わった免疫機能がガンの根治を期待できる力強い味方であることが分かっている。ただ現在行われている免疫治療は根治に向けた第一世代で、幾つかの大きな課題を抱えている。キメラT細胞受容体療法に関しては、何と言っても正常細胞に対する反応をどこまで抑えて、ガン特異的な治療法に発展させられるかが鍵になるだろう。一方、チェックポイント治療は、ガンに対する免疫が成立していないと無力であるため、ガンに対する免疫を成立させる方法の開発が最重要課題として研究されている。事実、従来の化学療法がガン免疫の成立に寄与できるか?といった課題についての総説が出るなど、免疫治療を中心として全治療を再構成し直そうという動きもあるぐらいだ(Cancer Cell 28, 690)。今後免疫を成立させるための様々な方法が開発されると期待できる。今日紹介するDartmouth大学とCase Western大学からの論文は、「え!本当!」と虚を突かれるほどの方法で、Nature Nanotechnologyオンライン版に掲載された。タイトルは「In situ vaccination with cowpea mosaic virus nanoparticles supprsses metastatic cancer(ササゲモザイクウイルスのナノ粒子によるワクチン局所投与は転移性の腫瘍を抑える)」だ。この研究でワクチンと呼んでいるのはガン抗原ではなく、免疫活性化剤のことを指している。実際使われたのはCowpea mosaic virus (ササゲモザイクウイルス)に感染するウイルスの殻だけを再構成させたナノ粒子で、植物なので大量に調整できる。もちろん核酸は含んでいない。ただ、この粒子を骨髄細胞と培養すると、白血球に取り込まれ炎症性のサイトカインが刺激される。すなわち、アジュバントと言われる免疫活性化作用がある。このナノ粒子を黒色腫が肺に転移したマウスに吸入させると、転移巣の増殖が防げる。組織学的に調べると、この粒子は局所の白血球に取り込まれ、多様な免疫担当細胞の浸潤を誘導することが確認されている。メカニズムは今後の研究に任せるとして、気になるのはこのナノ粒子の他のガンへの効果だが、乳がんの肺転移、皮下移植された直腸癌、卵巣癌の腹水など調べたほとんどのガンに効果がある。さらに、一旦免疫が成立すると、再注射された同じガンは完全に拒絶される。同じようなアジュバント治療はこれまでも開発されているが、それらと比べると圧倒的な効果だ。何か嘘があるのではと疑いたくなるが、抗原も、薬も、遺伝子も必要ない免疫活性化剤がこれほど効果があるなら、これを基盤に様々な新しいテクノロジーを開発できるかもしれない。また、このナノ粒子を調整するのは難しくないだろうから、薬として治験が始まるのも遠いことではないだろう。この頃はガン免疫の論文にそれほど驚かなくなったが、なぜこの粒子に思い至ったのか、こんな簡単な方法で免疫が活性化できるのか、などこの論文には驚かさることが多く、いいお年玉になるように思える。
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1月2日:サルも音楽がわかる(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2016年1月2日
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昨日は年頭に当たって考える科学技術倫理問題を紹介した。1日遅れの申年最初の論文紹介のために、サルに関わる目出度い話を探していたら、ジョンホプキンス大学のグループが米国アカデミー紀要オンライン版に発表していた論文を見つけた。タイトルは「Complex pitch perception mechanisms are shared by humans and a new world monkey (ピッチの複雑な知覚メカニズムは人間も新世界猿=マーモセットも同じ)」で、申年念頭を飾るにふさわしい論文だ。しかも、タイトルから推察するとサルも音楽がわかるという話のようだ。
  読み始めて気がつくのは、なぜ人間が音楽を理解できるのか、科学的に調べるのは大変だということだ。この研究では、音楽のピッチのズレを感じる能力に焦点を当てて研究している。合奏中に音の外れた楽器や声を聞き分けられる能力といっていい。かくいう私も、このズレはよくわかる方だが、この体験を波形と言葉で表現している科学論文になると、どこまで理解できたか少しおぼつかない。
  ただこのピッチに関して、私たち人間が持つ感覚の特徴は次の3つにまとめられるようだ。
1) 低い音ほどピッチの変化を感じやすい、
2) ハーモニーが乱れている方がピッチの変化を感じやすい、
3) 高い音でピッチがわかりにくい時、音のリズムがはっきりしている方が変化を感じやすい。
 これは論文を読んでの私の理解で、正しいかどうか自信がないが、自分の体験を振り返って考えてみると、確かにそうかなと思う。
 さて、この感覚をマーモセットで確かめるのは大変だ。実際にはピッチのズレを感じたらレバーを押すように訓練したマーモセットで、特定の変化に様々な音をかぶせてテストしている。結果は予想通り、マーモセットもこの3つの特徴を持っているという結論だ。サルも音楽がわかる。めでたしめでたしの結論だ。 ついでなら音痴の人とサルの比較成績も知りたい気がする。
  音楽を科学にするのは難しい。しかし、関係性の認識を研究するのに音楽ほど面白い対象はない。実際、初めて聞いた音楽でも、作曲家がわざと挿入した不協和な音を認識できる。逆に作曲家は、最初のフレーズを聞いただけで私たちの頭に生まれる幻想に挑戦しているのだ。このやりとりが何を基礎に行われているのか、興味は尽きない。
 申年も、時間が許す限り多くの音楽を聞いて暮らそうと、年頭に当たって決意を新たにした。(横でカミさんが遊びたいだけと笑っている)。
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1月1日:2016年に考える科学倫理問題(John J Reilly Centerアンケート調査)

2016年1月1日
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J Reillyセンターは、米国のカソリック系大学の一つノートルダム大学にJohn J Reillyの遺志により寄付された研究センターで、科学技術の倫理問題を含む社会への影響について研究することで、科学に市民の目を向け、科学技術政策に提言を行うため活動している。  昨年暮れホームページに、2016年に議論されると考える科学技術の倫理問題をリストし、どの問題が重要と思うのかをウェッブ上で調査を行っている。元旦ということで、論文紹介ではなく、ここでリストされた倫理問題について紹介することにした。ウェッブサイト(http://reillytop10.com/2015/12/06/161/)に入ってリストされた問題にクリックを入れることで、皆さんも投票に参加できる。このリストの順にそれぞれの問題を解説しておこう。
1) Hello Barbie : 昨年11月にマテル社から発売されたアメリカ版キティーちゃん人形だが、ウェッブに接続可能で、持ち主の声を記録してパターン解析を行い、相手に合わせた会話が楽しめるように発達する能力を備えている。即ち人工知能(AI)の応用だ。ただ、話しかけた時に適切に応えるようになるためにはAI機能をオンにする必要があり、それによって子供の声が全てマテル社のコンピュータに記録されることになる。このプライバシー問題以外にも、最も自分を理解してくれる人工知能ロボットが生まれると、子供が人間を回避するようになるのではないかという懸念もある。昨年ロボットや人工知能に湧いた我が国でも真剣に議論すべき問題だ。
2) Exoskeltons for the elderly: 身体に装着して歩行や作業の支援を行うロボットが実用化されている。我が国ではサイバーダイン社のHALがその代表で、この調査でも名前が挙げられている。これによって、筋肉の低下した高齢者が若者と同じように働けると思うと、一億総活躍のためには欠かせないように思える。しかしこの調査では、引退年齢が伸びることは良いことだろうかと疑問を投げかけている。例えば、このような引退年齢を伸ばすための技術開発が、ますます若者の就職難を招き、その結果さらに少子化を進めないだろうか。
3) Digital labor right:わかり易い例が、タクシードライバーサービスだ。ウェッブサイトを通して顧客に様々な労働や便宜を提供するサービスで、働く側としては会社に縛られず働ける自由度が、顧客側では易い価格が魅力で、米国ではアマゾン、AirBnbやUberなど多くの両者をとり持つサイトが存在する。確かに働く側の自由度、安い価格など一見合理的な形に見えるが、産業革命以来蓄積されてきた会社と労働者の関係を壊し、顧客との間に生じる様々な問題の責任の所在を曖昧にする可能性がある。例えば、働く自由度は、逆に週80時間働く自由も意味する。せっかく長い年月で獲得された労働時間についての権利をないがしろにしていいのか議論が必要になる。他にも、デスクワークもインターネットを通して、賃金の安い外国へ移り始めているのは、我が国も同じだ。
4) Artificial Womb: 人工子宮が2016年の倫理問題になるかどうか、私は疑問を感じるが、男女平等の究極の形を代表する技術が人工子宮だろう。人工授精で作成した胚を、完全に成長をモニターできる人工子宮で育てることができれば、母親は妊娠期間の危険や制限から完全に解放されるし、子供の成長も安心だ。会社にとっても、産休の必要がなくなる。育児休暇は男女平等に取ることができる。何十年後かに可能になるとしたら、議論を始めてもいいという考えだろう。ただ、この問題は逆に自然の与えた女性の権利を侵害することにならないか、同性婚(男性同士)の子供をどう考えるか、など全く新しい問題を孕んでおり、確かに今から議論を進めても遅くはないかもしれない。
5) CRISPR/Cas9:このホームページの読者には説明の必要はないだろう。38億年の進化過程で変異と選択を通して形成してきた私たちのゲノムを、思い通りに変化させられる技術が開発された。現在問題が残っているにせよ、全て解決可能な問題だ。これまで何回か会議が持たれ、生殖細胞のゲノム編集はモラトリアムを設定して、当面は体細胞の遺伝子編集による遺伝子治療などに利用を限ることで合意している。しかし、心理学者・歴史家のスティーブン・ピンカーなどはこのモラトリアムが、解決可能な人間の苦悩を放置する間違った選択だと批判している。科学者に任せず、市民も今議論を始めるべきだろう。
6) Rapid whole-genome sequencing:高速ゲノム解析は今年さらに加速する。おそらく一般市民への全ゲノム配列解析サービスが今年10万円近くになるだろう。そしてこの価格はさらに低下する。一方、アカデミアではゆりかごから墓場まで個人を追跡するコホート研究が盛んに行われ、新生児の全ゲノム配列を決定するプロジェクトも多い。確かにこれまでの研究でも、全ゲノム配列決定により、これまで診断のつかなかった遺伝的疾患の2−3割が診断可能になることが示され、医学側から見ると研究が大きく進展することは間違いがない。しかし、自分の子供がいつか不治の病いにかかることを知らされた両親はどうすればいいのか。子供に告げるべきか、いつ告げるべきかなど、答を出すのが難しい問題が手付かずで残っている。また、この問題は当然遺伝子編集でゲノムを変化させた胚を作っていいのかという問題とも関わる。両方合わせて市民レベルの議論が必要なときがきた。
7) Lethal cyber weapon:昨年アメリカの企業が「致死的サイバー・ウェポン」開発プロジェクトの契約を結んだようだ。この致死的サイバーウェポンは、ウェッブに結合された社会インフラを破壊するためのソフトウェアを指す。例えば、敵国の原子力発電所に侵入してメルトダウンを起こしたり、信号システムに介入して交通を混乱させるソフトだ。おそらく映画ではもうおなじみのソフトだ。もちろん軍事利用で、敵国のみを対象とする研究のようだが、市民の無差別殺傷につながる技術として、アメリカは使っていいのかどうか議論を進めるべきだと呼びかけている。先端技術を武器に使うという意味では、毒ガス、原爆と同じだが、この武器の有効性が、私たち自身が営々と築き上げてきたサイバーネットワークの有効性にかかっているのは皮肉だ。
8) Disappearing drones:昨年は我が国のドローン元年とも言われたが、アメリカで仕事を終えると自らを破壊する回路を組み込んだドローンの開発が進んでいるようだ。これはミッションを終えたドローンの技術が敵の手に落ちることを防ぐための開発で、特に新しい倫理問題はないように思える。しかし、いったん政府がこのテクノロジーを獲得すると、国内での違法活動に利用する危険性がある。すなわち、政府だけでなくこのドローンにより、証拠を残さず違法行為を行うことが可能になる。政府批判が自壊型ドローンによる暗殺につながる世の中だけにはしたくない。
9) Head transplantation:昨年イタリア・トリノのCanevero医師が、2017年に頭部を脳死者の体幹部に移植する手術を行うと発表したことは我が国のマスメディアでも報道された。多くの専門家は、これが困難な手術で、患者の命の保証が全くないと中止を働きかけている。しかしもし安全な技術になったとしても、許される治療かどうか議論が必要だと呼び掛けている。私自身は、おそらく脳が私たち自身のアイデンティティーの多くを決めていると思っており、術中に体と脳を維持する技術が進歩すれば、一つの治療として許してもいいと思っている。ただ、この技術にはデカルト以来の2元論の問題、すなわち心と体の分離の問題が潜んでいる。できるなら実施は、主観と客観、心と体の2元論を克服する糸口を見つけるまで待ってもいいのではないだろうか。
10) Bone conduction for marketing:昨年「語りかける窓」と呼ばれる骨伝導を用いた宣伝手法が開発された。電車通勤中に窓ガラスに頭をつけると、窓の振動を通してその人だけに情報やコマーシャルを届ける技術だ。骨伝導を進化させ、ウエアラブルデバイスをつけている人の体の動きに合わせて特定の情報を送るシステムが開発されている。すなわち望む人だけに情報を送る仕組みだ。実際グーグルグラスを始め、多くのウェアラブルデバイスにこのようなシステムが搭載されている。このような介入をどこまで許すのか議論が必要だ。私自身、音や映像のあふれる街に生活して、これが重要な問題になるとは思えなかったが、情報手段が独占される危惧はある。

元旦の挨拶として、Reillyセンターの投票アンケートを紹介したが、是非皆さんもサイトに入って投票してみてください。しかし考えてみればどれ一つ重要でない問題はない。それほど、私たちの生活が科学技術に依存しており、その一方で科学技術の進展が一般市民とは全く別のところで進んでいる状況を反映している。しかしよく問題を見てみると、ダーウィン進化問題、デカルトの2元論問題、ガリレイの科学の独立性の問題など、これまでの科学技術が残してきた課題の再検討が求められているような気がする。この認識から、今年は講義や講演のタイトルは「21世紀の生物学:デカルトとダーウィンの残した課題」に決めている。乞うご期待。
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12月31日:甘いものは別腹の分子機構(Cell Metabolism2月号掲載予定論文)

2015年12月31日
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明日から正月。どうしても食べすぎる日々が続く。
さて、満腹になった後でもデザートが出ると、甘いものは別腹とついつい食べてしまうのはなぜだろう。こんな疑問の手がかりになる論文が、デンマーク・コペンハーゲン大学とアイオワ大学のチームから発表された。タイトルは「FGF21 mediates endocrine control of simple sugar intake and sweet taste preference by the liver(FGF21は肝臓から分泌される単糖と甘いものへの好みを調節するホルモン)」だ。
  現役時代は内分泌や代謝の研究論文を読むことはほとんどなかった。この論文のタイトルにあるFGF21を見ても、まさか線維芽細胞増殖因子の一つが代謝や脳のコントロールに効くとは想像もしなかった。しかし、飽食の時代だ。私たちの食欲についての研究はかなり進んでいる。
この論文の目的は、甘いもの、すなわちショ糖を中心とした単糖を私たちが取りすぎないようにしているメカニズムにFGF21が関わるのではという仮説を検証することだ。
  マウスに、甘みのある餌と、甘みのない餌を自由に摂取させ、FGF21が欠損すると甘みのある餌を取りすぎることを突き止めている。この抑制は、甘みだけで、脂肪や多糖の摂取には影響がない。FGF21は肝臓で分泌されるが、マウス、ヒトともにショ糖、ブドウ糖、果糖を注射すると分泌量が上がるが、人工甘味料のサッカリンでは上昇しない。次にFGF21発現調節に、肝臓細胞が発現しているChREBPと呼ばれる単糖を認識する転写因子が関わることを明らかにしている。すなわち、甘いものを取りすぎると、肝臓のFGF21分泌が上昇して単糖の摂取を抑えるという仕組みだ。面白いのは、FGF21によって抑えられるのは甘みとして感じる食べ物で、投与してもFGF21分泌に影響のない人工甘味料も、FGF21が上昇すると摂取が落ちる。
  最後に、FGF21が甘みの摂取を抑制するメカニズムを調べ、受容体であるFGFR1とβクロトー複合体を発現する視床下部室傍核にある細胞が甘いものを取らないようシグナルを出していることを明らかにしている。残念ながら、では下垂体がどのように甘み摂取行動を調節しているのかについては明らかにできていない。味覚を変化するわけではなく、甘いものに対して満腹感を感じるようになるためであることは示しているが、それを媒介する分子についてはこの論文では示されなかった。とはいえ、甘いものに対する満足感が普通の満腹感とは別の調節を受けているとは、食べ過ぎのお正月を迎えるのにふさわしい論文だった。ひょっとしたら何年後かの大晦日にはこの回路を抑える薬を手にしてお正月を迎えることになるかもしれない。
  今年はガラパゴス滞在中に報道ウォッチのアップロードが遅れることはあったが、1年休みなく論文を紹介することができた。皆さん良いお年を。
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12月30日:タスマニアデビルに見つかった新しい感染性腫瘍(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2015年12月30日
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タスマニアデビルはタスマニア島の固有種で、見た目は小さな(50−60cm)ツキノワグマといったところだが、カンガルーと同じ有袋類の仲間で、肉食動物だ。現在絶滅危惧種に指定され、保護のため懸命の努力が行われているが、個体数は減り続けている。この種の存続を脅かすもっとも重大な脅威は、デビル顔面腫瘍性疾患(Devil Facial Tumor Disease, DFTD)の蔓延だ。DFTDはデビルの顔面に発生する腫瘍で、致死率が高く1996年に報告されて以来現在まで、この腫瘍により生息数は3割に減少した。ガンの広がりを食い止める方法が見つからないと、野生のデビルは確実に絶滅すると心配されている。感染性が高いためウイルス性の腫瘍の一種ではないかと考えられてきたが、2006年、DFTDは癌細胞自体が個体から個体へ移ることで広がるのではという驚くべき報告がNatureに発表された(Pearse & Swift, Nature, 439:549, 2006)。その後、ガンゲノムの解読や(Murchison et al, Cell, 148:780, 2012)、細胞起源の研究(Murchison et al, Science, 327:84, 2010)より、1996年以前ある個体に発生したシュワン細胞起源のガンが、個体から個体に伝搬していることが明らかにされた。実際、これまで調べられた全てのDFTDは同じ起源を持つクローン細胞であることが確認されていた。    今日紹介するタスマニア大学を中心としたオーストラリア、英国の共同論文は同じような伝搬性の、これまでとは違う新しいタイプのDFTDがタスマニア島南部に発見されたという恐ろしい研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「A second transmissible cancer in Tasmanian devils (タスマニアデビルに見つかった2番目の伝搬性のガン)」だ。   最初見つかったガンをDFTD1、今回新たに見つかったガンをDFTD2と名付けている。DFTD1は最初北東部で発見され、南部へと拡大した。ガンの広がりを調査する過程で、南西部に発生した DFTDの中に、症状はほとんど区別できないが、組織学的には全く異なるガンが発見された。遺伝的な解析を行うと、この組織型のDFTDは全て同じ起源から発生していることが確認された。重要なのは、組織型だけでなく、遺伝子型もDFTD1と異なる新しい起源のDFTDであることが確認されている。例えば、DFTD1はメス由来だが、DFTD2はオス由来で、現在は南西部に限局している。   以上の結果から、 1) 細胞自体が伝搬するガンの発生は稀なことではない、 2) 2番目のガンが発見されたことは、他にも同じような第3、第4のガンが存在している可能性を示す、 3) タスマニアデビルの習性から考えると、接触による細胞伝搬を防ぐことは簡単ではない、 など、タスマニアデビルの直面している絶滅の危機の深刻さが明らかになった。最近National Geographicは、ガンに抵抗性のある個体が増えてきたという話を紹介しているが、2番目のガンがあるとなると、希望の光も消える心配がある。ともあれ、両方のガンでゲノムや細胞起源はわかっており、それを元に様々な対策を考えることができると思う。しかし、安易な自然への介入がより深刻な危機を招くことも十分予想される。おそらく唯一できるのは、未感染の個体を隔離して増やし、絶滅に備えることだけかもしれない。
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12月29日:アルツハイマー病の新しい治療標的(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2015年12月29日
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アルツハイマー病は、神経細胞内で分解できない異常たんぱく質が蓄積し、蓄積が進むと最終的に細胞が死ぬことが一つの原因と考えられている。事実、細胞内で必要なくなったたんぱく質を速やかに処理するため、私たちは2重3重のメカニズムを持っており、研究も進んでいる。この中でも、必要なくなったたんぱく質にユビキチンと呼ばれる標識をつけ、標識のついたタンパクだけをプロテアソームと呼ばれる巨大分子コンプレックスで分解するユビキチン経路は、最も重要なメカニズムだ。今日紹介するコロンビア大学からの論文を読むまで、ユビキチン経路とアルツハイマー病との関係は昔から研究が進んでいると私は勘違いしていた。しかしそうではなかったようで、Nature Medicineオンライン版に、「Tau-driven 26S proteasome impairment and cognitive dysfunction can be prevented early in disease by activating cAMP-PKA signaling (Tauタンパクによる26Sプロテアソームの障害と認知機能の障害はcAMP-PKAシグナルを活性化すると予防できる)」とタイトルのついた論文が掲載された。研究では、分解されず重合する異常Tau分子が蓄積するよう操作したマウスモデルを使っている。おそらく最初から重合Tau分子がプロテアソーム機能を阻害すると狙いをつけていたと思う。マウス神経内で、重合型のTauが増えてくる時期のプロテアソーム機能を測定し、期待通り機能が低下していることを様々な系を用いて明らかにしている。メカニズムだが、異常Tauがプロテアソームと結合すると、プロテアソーム自体の機能が阻害され、他のたんぱく質の分解も低下することを突き止めている。ここまでくると、プロテアソームのこれまでの研究の蓄積を利用できる。この機能がPKAによることが知られているので、細胞内のcAMPレベルを上昇させる薬剤で細胞を処理し、PKAを刺激すると、異常Tauタンパクが存在してもプロテアソーム機能が維持されることを突き止めた。あとは、この戦略でマウスの認知機能低下を防げるかだが、異常Tauタンパクが上昇する早期にこの化合物をマウスに投与すると、認知機能は正常近いところで維持できることを示している。しかし、異常Tauタンパクが蓄積してしまった後ではもう手遅れで、早期診断することが治療には大事だという結果だ。なぜ同じような研究がこれまで進まなかったのかも含めて、いろいろ考えさせられる研究だ。いずれにせよ、新しい治療可能性が発見されることは嬉しいことだ。アルツハイマー病だけでなく、ハンチントン病やパーキンソン病など他の変性疾患についてもぜひ可能性があるのか調べて欲しい。
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12月28日:症例から学ぶ(12月23日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2015年12月28日
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これまで、多くの医学の発見は、個別の症例を丹念に調べることから始まっている。すなわち、個別のケースからスタートし、そこで得られた知見を他の症例にも当てはまるよう一般化して、疾患概念や治療法の開発を進めてきた。この伝統は統計的手法が重視される現代でも、学会や雑誌に必ず症例報告が取り上げられることからもわかる。今日紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文は、一人のALK遺伝子の転座が引き金になって起こった非小細胞性肺ガン患者さんの症例報告で12月23日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Resensitization to crizotinib by the lorlatinib ALK resistance mutation L1198F(Lorlabinib抵抗性に関わるL1198F変異はCrizotinibへの感受性の再獲得につながる)」だ。   完全な症例報告論文で、現東大の間野さんたちが発見したALK遺伝子の転座により増殖する非小細胞性肺ガン患者さんの4年にわたる壮絶な記録だ。52歳女性で、遺伝子診断に基づいてALKのキナーゼ活性を抑制するCrizotinib投与を受ける。このガンに対するcrizotinibの効果は絶大で、ガンはほぼ完全に縮小する。ただ細菌と抗生物質の関係に似て、治療を続けるうちにcrizotinib耐性のガンが必ず現れ、病気が再発する。この患者さんでは18ヶ月目に再発が見つかり、バイオプシーで得た組織の遺伝子診断から、ALKの突然変異C1156Yが特定される。最近では、新たな突然変異に対する第2世代、第3世代の標的薬が開発されており、この患者さんも第二世代のcertinib投与や、一般抗生剤の治療を受けたが効果はあまり見られず、最後に第3世代の薬剤Lorlatinibを試したところ、今度は効果が見られ、全身に転移したガンは縮小する。しかしこの効果も5ヶ月で、万事休すかと思われたが、バイオプシーした組織の遺伝子検査から、さらに新しいL1198F突然変異がそれまでのC1156Y変異に加わっていることがわかった。構造解析などから、この新しい変異の結果、ALKはLorlatinib抵抗性を獲得するが、その結果最初に使って耐性になったCrizotinibに対する感受性が新しく獲得された可能性が示唆された。そこで、もう一度最初のCrizotinibを使ったところ約6ヶ月間腫瘍が縮小したという結果だ。残念ながら、またCrizotinibに対する耐性ガンが発生してきたようだが、驚くことに新しいガンではL1198F突然変異が消失しているが、これにまたLorlatinibが効くか調べられるだろう。   全て一例報告だがいくつか重要なことがわかる。まずこのガンは耐性を獲得するのも早いが、耐性獲得にはALK 遺伝子の構造変化が関与しており、他のガン遺伝子が新たに変異することはあまりない。すなわち、この分子だけを標的として考えればいい。もともと、分子の機能を保ったまま耐性が獲得できる構造上の条件は限られているため、遺伝子検査を適切に行えば、ALKの活性を阻害する幾つかの薬剤を交互に使うことで、長期間の生存が可能になるかもしれないという結果だ。   もちろんこの観察が一般化されるためには、さらに多くの患者さんでの経験が必要になるが、症例報告がいかに大事かを知ることができる論文だった。
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12月27日:IDH突然変異とガンの悪性度(Natureオンライン版掲載論文)

2015年12月27日
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同じ時ウェッブにアップロードされたNature論文の中に、量子世界のエンタングルメントをマクロレベルに移行できることを示す、すなわち瞬時の物質移送が可能かもしれないという論文が出ていたが、残念ながら私にその実験を解説する力がないので解説記事だけリンクをはっておく(http://www.nature.com/news/quantum-leap-1.19070)。おそらくこの分野では重要なはずだ。
同じウェッブサイトでもっとも私の興味を引いたのは、ハーバード大学のBradley Bernsteinのグループの、IDH突然変異とゲノムの構造との関わりを調べた研究だった。タイトルは「Insulator dysfunction and oncogene activation in IDH mutant gliomas (IDH突然変異を持つグリオーマではインシュレーターの異常によるガン遺伝子の活性化が見られる)」だ。
  ガンゲノムが解読されるようになり、最初増殖や生存に直接関わる多くの分子の変異が発がんのドライバーとして特定されていった。一方で、多くのガンで細胞増殖に直接関わる分子ではなく、細胞全体の恒常性の維持に必要な一般的遺伝子の変異が発がんに先行することがわかってきた。その中のもっとも有名な分子がIDH(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1)だ。クエン酸の一般代謝回路に関わる酵素の一つとして適当に考えられていたが(少なくとも私は)、ガンの中でもっとも悪性のグリオブラストーマ発症の最初に変異が起こる遺伝子の一つであることがガンゲノムの解読より明らかにされ、IDH変異と悪性化の関係が脚光をあびるようになっている。当然分子の性質上、代謝自体の変化を追求するのがこの研究の一つの方向性で、例えば最近Cancer Cellに掲載されたやはりハーバード大学からの論文(http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2015.11.006)ではこの変異によりニコチン酸からのNAD(ニコチン酸アミド)合成が阻害され、ガンがNAD飢餓に弱くなっていることを示していた。
  もう一つの方向性が、この変異による遺伝子発現の全般的異常を追求する方向性で、この酵素により合成が促進するハイドロオキシグルタール酸がTET分子を阻害して、遺伝子のメチル化異常を誘導するという事実を基礎にしている。実際、グリオブラストーマではDNAメチル化の程度が上昇していることが知られている。この論文では、メチル化異常により遺伝子転写支配の区域化が乱れるのではないかと仮説を立て、この可能性を調べた。ゲノム領域を区域化し、エンハンサーの作用範囲を決める境界にはCTCF分子が結合していることが知られている。この研究ではまず網羅的に、メチル化が上昇し、CTCF分子の結合が低下している境界領域を特定し、隣り合う境界に存在するPDGFRAとFIP1L1遺伝子に着目して研究を進めている。PDGFRAは増殖因子受容体で、グリアの増殖を調節するもっとも重要な遺伝子だが、分化後増殖が止まると発現が下がる。一方FIP1L1はRNAプロセッシングに関わる分子で、成熟グリア細胞で発現が高い。詳細を省いて結論を述べると、PDGFRAとFIP1l1遺伝子が属するゲノム区域(TAD)の境界のメチル化がIDH1変異により上昇し、その結果CTCFの結合が阻害されることで、区域の境界が変化し、PIP1L1の発現に関わるエンハンサーが隣の区域のPDGFRAにも作用して、細胞増殖がまた始まるというシナリオだ。このシナリオを確かめるため、メチル化を落とす5AZで細胞を処理すると、増殖が落ちること、またPDGFRAのリン酸化活性を阻害する化合物dasatinibで増殖が落ちることを示している。
 確かにBernsteinというスマートな研究者の仕事だと納得する綺麗な研究だ。ただ、あまりに綺麗な話はどこかに間違いがあるかもしれない。冷静に見ながら、期待しよう。IDH1変異のように、あまり特異的でない分子の変異による発がんのメカニズムがわかってこそ、ガンの制圧が可能になる。その意味で、重要な研究だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月26日:進む膵臓ベータ細胞増殖因子の探索(1月12日号Cell Metabolism掲載論文)

2015年12月26日
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今年6月25日意外な膵β細胞増殖因子と題して、RANK/RANKLシグナルを抑制する因子が膵臓β細胞の増殖を誘導することを示した論文を紹介した(motonobu.matsumoto@jp.sunstar.com)。このように、成人のインシュリン分泌細胞数を増やす因子の探索は、もともとインシュリン分泌能の低い日本人の糖尿病の治療には重要なテーマだ。今日紹介する論文も同じように膵臓ベータ細胞増殖因子を探索する研究で、糖尿病研究に特化したアメリカ・ジョスリン研究所から1月12日号のCell Metabolismに発表された。タイトルは「SerpinB1 promotes pancreastic β cell proliferation(膵臓β細胞の増殖をSerpinB1が促進する)」だ。この研究が増殖因子探索のために用いた方法はユニークだ。まず肝臓細胞のインシュリン受容体をノックアウトしたマウスを作成する。するとこのマウスの肝臓はインシュリンに対する反応性を失い、インシュリンを感知してフィードバックをかける回路が欠損する。この結果体全体としては、インシュリンが分泌できていないと解釈され、肝臓から膵β細胞の増殖を促す因子が分泌され、膵β細胞が増殖する。この現象を利用して、肝臓がインシュリン感受性を失った時に肝臓が分泌する因子を探索し、SerpinB1を特定している。   この分子を試験管内や生体に投与すると、期待通り膵β細胞の増殖が見られる。また、魚から人まで、この効果を認める。以上の結果から、肝臓がインシュリンを感知しないとSerpinB1が分泌し、インシュリンの分泌を促していることがわかる。分子構造的には、SerpinB1はタンパク分解酵素、特にエラスターゼの阻害分子なので、エラスターゼを阻害する化合物でこの機能を代換えできるか調べると、完全ではないが同じ効果を得ることができるという結果だ。残念ながら、SerpinB1により膵β細胞の増殖のスウィッチが入っているのはわかるが、エラスターゼが作用している直接の増殖因子はこの論文では見つかっていない。あるいはわかっていても、書いていないのかもしれない。いずれにせよ、膵臓β細胞は、成人になってもこの増殖因子の作用で再生を続けており、この作用はエラスターゼで抑えられている。SerpinB1がエラスターゼを抑えると、増殖因子の分解は止まり、膵β細胞が増殖するというシナリオだ。面白い論文だが、増殖因子まで特定できていないこと、糖代謝がしっかり調べられていないので、臨床に役立つかどうかは全く不明だ。
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