ゲノム解析によって病気の理解がますます進んでいることを実感する今日この頃だが、そう簡単ではないケースが統合失調症や、自閉症だ。これまで関与が疑われる事を示唆する遺伝子の数は100を超えているのではないだろうか。それを報告する論文も数え切れない。自閉症ではなんと、23染色体のうち20染色体に自閉症と関わる遺伝子が存在すると報告されている。私たちの精神が、少数の遺伝子で決まるほど簡単ではない証拠だろう。ただ、統合失調症にしても自閉症にしても、疾患としては多くの共通症状を持つ比較的よく似た状態に落ち着く。だとすると、どの遺伝子異常からスタートするにせよ、一定の症状を持つよう脳が組織化されていく過程の存在が予想される。今日紹介する論文は、この過程を研究するために、先ず自閉症の早期発見が可能かどうかを調べたアトランタ自閉症研究センターの仕事だ。Natureオンライン版に発表されている。研究では、新生児期から2年間、女性の俳優が子供の注意を引くように振る舞うビデオを見せて、子供の視線を記録するテストを繰り返している。記録終了後、3才時点で自閉症かどうかの診断がおこなわれ、診断後データを整理するという一種の前向きコホート研究だ。自閉症リスクの高い家族から59人、リスクの低い家族から51人の新生児の参加を得て追いかけている。3年目、高リスクの家族から12人、低リスクの家族から1人が自閉症と診断されている。論文ではいろいろな解析結果が示されているが、結果は明瞭で、自閉症と診断された子供は、6ヶ月までにビデオの俳優の目に視線を止める時間が極端に低下する。一方他の身体の部分への視線については正常と特に差がないという結果だ。元々、自閉症児が他人の目を見ないことは指摘されており、診断にも使われる。ただ、今回の研究は、この異常が最初から存在しているわけではなく、2ヶ月前後では正常児と同じように、他人の目に視線を置くことが出来ている。正常児では、その後6ヶ月に例外なくこの視線を集中させる時間が上昇するが、自閉症と診断された子供では、成長するに応じて低下するという結果だ。この研究からは、ではなぜこのような現象が見られるのかはわからない。しかし、6ヶ月以内にこのようなテストで自閉症の早期診断が可能になるなら、様々な介入を行って発症を防ぐことが可能になるかもしれないと言う期待を持たせる研究だ。簡単なようで、本当は将来性のある重要な仕事だと感じた。
しかし、今日紹介したように、アメリカでは、発達についての研究が自由な発想で盛んに行われている。前に紹介したiPodで識字障害を治療すると言った仕事もその一つだ。一方、出生率の低い我が国にとっては発達障害は国を挙げて取り組むべき課題だ。実際のところ、我が国のこの分野の研究の現状はどうなのか、少し心配になっている。
11月7日:自閉症の幼児期早期診断(Natureオンライン版掲載論文:オリジナル)
2013年11月7日
カテゴリ:論文ウォッチ