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RNAメチル化による細胞時計の制御(11月7日Cell誌掲載)。

2013年11月10日
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私たちの細胞一つ一つが日周期を持っており、概日周期と呼ばれている。日本はこの分野もいい研究者が多い。京大の薬学部の岡村さんもその一人で、つい最近もScienceに論文を発表し、今回はCellに論文を発表している事は、今乗っていると言っていいだろう。ただ、多分プレス発表と言うのをしないのだろう。日本のマスメディアが、ほとんどプレス発表に依存している事から考えると、岡村さんの仕事が新聞に掲載される事はないだろう。しかし、今回の研究は新しい岡村さん独自のストーリーで面白い。
   概日時計が働くと言う事は、多くの遺伝子の発現が時間とともに増減する事を意味する。これまでこの調節には、もっぱら染色体上での遺伝子の発現の調節によると考えられて来た。事実、時計遺伝子と呼ばれるいくつかのセットのマスター遺伝子が多くの遺伝子を支配する構造が知られている。しかし、詳しく見てみると、この支配を受けている遺伝子の数はそれほど多い訳ではなく、実際には他のメカニズムが存在する事が想像されていた。この問題の一端を解いたのが今回の仕事ではまず、RNAのメチル化を阻害すると、概日リズムが遅れる事を発見した。この原因を調べて、この処理がMettl3と呼ばれる酵素によるメッセンジャーRNAメチル化を阻害し、この結果、RNAが処理され、核外に移行し、一定の期間細胞質にとどまり、蛋白へと翻訳される一連の過程にかかる時間が延びて概日リズムを壊れる事を示した。言い換えると、時計分子をコードするRNAが核内でメチル化される事により、RNA全体の代謝が調節される事で概日リズムの間隔が維持されている事を示したものだ。みなが同じスキームの中で時計を考えている中で、岡村さん達はしっかりと独自の道を切り開いている。

カテゴリ:論文ウォッチ

神経再生誘導に必要な意外なシグナル(11月7日後Cell誌掲載、オリジナル)

2013年11月10日
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11月7日号のCell誌には他にも再生医学関係の論文が掲載されていた。朝日新聞の大岩さんは、Daleyのグループがlin28遺伝子導入マウスで示した再生増強について紹介していた(http://www.asahi.com/articles/TKY201311080004.html)。ただ、私から見るとlin28はES/iPSでも働いており、あまり新鮮味の感じられない論文だった。多分、Daley以外の研究室からだと、なかなか論文は通らないだろう。一方、ここで紹介する仕事は、少なくとも私に取っては新鮮で、いろんな事を考えさせられた。ワシントン大学のグループの研究で、「Injury-induced HDAC5 nuclear export is essential for axon regeneration (障害によって誘導されるHDAC5の核外への移行は神経軸索再生に必須だ)」と言うタイトルがついている。神経が障害を受けた後どのように再生が促されるかを調べた研究だ。神経再生シグナルについては、神経切断面からカルシウム濃度の波が神経の細胞体へと伝わり、再生の引き金が引かれる事が知られている。この仕事でもこの点が確認されており、このカルシウムの変化がPKCμというシグナル伝達分子に媒介される事も調べられている(実際にはリン酸化される)。まあここまでは新鮮味はない。新鮮なのは、このシグナルによって、ヒストン脱アセチル化酵素のうちの一つ(HDAC5)が特異的に核外に追いやられ、その結果染色体の構造が遺伝子発現の方向へ傾き、多くの再生遺伝子が発現すると言う後半の結果だ。HDACとは染色体に結合しているヒストンのアセチル基を外して、ヒストンとDNAの結合を高め、結果として遺伝子の発現を押さえる分子で、このヒストンを介する遺伝子発現調節機構をエピジェネティックスと言って現在最もホットな分野だ。この研究では、末梢からのシグナルがHDAC5の核からの排除と言う形で直接エピジェネティック過程に影響出来る事を示した。外界からのシグナルにより、染色体構造をグローバルに変化させる事が出来ると言う新しいメカニズムだ。様々なストレスで、細胞は様々な大きな変化を来す事が知られている。形質転換と呼ばれたり、あるいはリプログラムもそのうちだ。この研究の示した可能性は、将来これらの不思議な現象を説明する所に発展する気がした。

カテゴリ:論文ウォッチ
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