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恋人と添い遂げる媚薬(アメリカアカデミー紀要 on line版掲載)

2013年11月29日
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昨日、普通なら一人の相手と添い遂げるハタネズミと、その中に発生する浮気者の遺伝子の話をした。実はハタネズミが一人の相手と添い遂げるという習性に関わる分子はよく研究されていて、オキシトシンと言う神経刺激ペプチドがつがいを形成する前に分泌される事が知られている。また、ヒトでも恋人を思い浮かべる事でオキシトシン刺激回路につながっているVTAと呼ばれる脳の部位が興奮する事が知られている。今日紹介するのは、オキシトシンのこの効果を直接人間で確かめようとするドイツボン大学からの研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Oxytocin enhances brain reward system response in men viewing the face of their female partner (恋人の顔写真を見ている男性の脳内報酬システムをオキシトシンが促進する)」。
   実験は実に楽しい。結婚前の恋愛進行中の男性を集め、恋人と関係ない女性の写真に対する反応を機能的MRIで調べている。写真を見せる前にオキシトシンスプレーを鼻に投与する群と、偽薬を投与する群に分けて、恋人の写真を見た時に興奮度が上がるかを比べている。専門家でないので、どの程度データを信用していいのかはわからない。ただ結論は予想通りで、オキシトシンを投与されると、つき合っている恋人に特異的に反応して興奮するが、偽薬だと恋人の写真と、知らない女性の写真を見たときの反応に大きな差が無くなると言う結果だ。そしてこの時の興奮は、やはり脳内のVTAと呼ばれる部位で起こっている。まとめると、オキシトシンを投与される事で、今つき合っているパートナーをより魅力的に感じる脳内回路形成が促進される事になる。ワーグナーのオペラトリスタンとイゾルデでは、媚薬を飲んだとたん憎み合っていた二人が恋に落ちる。媚薬などこれまでは信じた事がなかったが、この論文を読むと本当の話かもしれないという気がしてきた。
   しかし科学者として長く過ごした私がこの論文で最も興奮した箇所は、論文の出だしだ。「Love and enduring romantic bonds can brind the elation of profound joy and pleasure but also, when broken, the deepest sorrow and despair (愛と変わることのないロマンチックな絆は深い喜びと快楽の高揚をもたらしてくれると同時に、いったん破綻すると、深い悲しみと絶望に突き落とされる)」。科学論文をこんな出だしで一度でも書いてみたかった。

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