日本でも難病指定されているライソゾーム病は、この細胞内小器官の機能に関わる様々な分子の異常で起こる事が知られ(これについてはニコ動などで詳しく説明する予定)、事実100に及ぶ遺伝子の突然変異が既に決められている。一部のライソゾーム病の治療には、異常になった分子を置き換える治療が行われるが、効率も悪く、費用も高い。これまでとは違う全く新しい治療法の開発が期待されるが、そのためには病気発症の原因になる分子について理解を深める事が重要だ。この深い理解に最も直結するのが、分子の立体構造の解明で、これにより機能部位がどのように働いているか、他の分子とどう結合するのかなどがわかる。私も前にここで取り上げたFOPの薬剤開発と関わりを持っているが、日本のトップの蛋白質の構造決定の専門家の参加を得られたおかげで、着実な進展が見られている。このように分子の立体構造がわかると、新しい薬剤の開発も進むため、立体構造を明らかにすると言う事が、分子研究のゴールになっている。今回紹介する論文はNature Chemical Biologyの11月号に掲載されたカナダからの論文で、Insights into mucopolysaccharidosis I from the structure and action of α-L-iduronidase (α-l-iduronidazeの構造と作用から得られるムコ多糖症I型についての洞察)と言うタイトルがついている。リソゾーム病の1つの原因になっているα-L-iduronidaseの構造を完全に決め、これが酵素としてどう働くかを決めたものだ。あまりに専門的すぎるので、分子の解説は完全に割愛するが、この研究の結果、これまで知られている突然変異がと実際の病気の現れとの理解が大きく進んだ事は明らかだ。ScienceNewsLineでもこの研究を取り上げており、これに対するコメントで、このグループは、この構造に基づいて新しい薬を見つけた事を述べている。論文になっていないので喜ぶのは早いかもしれないが、構造と病気との関係がこの精度で決まったなら、期待出来る様な気がする。患者さんから見ると進展は遅い。しかし、一歩づつ進んでいる事も確かだ。その意味で報告したい。リソゾーム病については、もう少し詳しく調べて難病ナビに掲載する予定にしている。
ライソゾーム病の原因の分子の一つの構造が完全にわかった。
2013年11月17日
カテゴリ:論文ウォッチ