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11月24日:自閉症の分子基盤(11月22日号Cell誌掲載)

2013年11月24日
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最新の自閉症研究紹介の最後は、11月22日号のCellに掲載されたカリフォルニア大学ロサンゼルス分校からの仕事だ。研究の目的は同じ号に紹介されているもう一つの論文と同じで、自閉症に関わる分子や細胞を包括的な遺伝子発現やゲノムについての研究から明らかにしようとするものだ。タイトルは「Integrative functional genomic analyses implicate specific molecular pathways and circuits in Autism (統合的なゲノム機能研究から示唆される自閉症に関わる分子過程や回路)」だ。
  この研究では先ずヒトの脳の遺伝子発現を調べたデータベースから、遺伝子が発生時期や場所でどのように発現するのかを抜き出し、18種類のパターンに分類する。次に、やはりデータベースから得られる自閉症関連遺伝子がどのパターンを取るかを調べて、自閉症関連遺伝子とそれぞれのパターンを示す遺伝子群を関連づける。最後に、自閉症関連遺伝子の属するパターンを示す遺伝子が大脳皮質の6層のなかのどこに発現するかを調べ、自閉症発症に関わる細胞を特定すると言う研究だ。この研究によって、1)ゲノム研究などから明らかになっている自閉症関連遺伝子は、同じ様な発現パターンを示す事、2)自閉症関連遺伝子は特定の分子ネットワークを形成している事、3)自閉症関連遺伝子を含む分子ネットワークが大脳皮質の発生過程で特定の細胞(皮質の表層)に発現していること、などが示されている。先に紹介した論文と比べると少し見劣りする仕事だが、ゲノムから遺伝子発現、そして生理学を統合しようと様々な試みが行われている事が実感できる。もちろん問題もある。2つの論文を比べてわかるのは、最終的に自閉症に関わるとして特定された皮質層についての結論が異なっている事で、統合的に多くのデータを処理して過程を明らかにするための手法がまだ完全に確立していない事も理解できた。
   とは言え、自閉症の様な複雑な状態に果敢に挑戦している事は重要だ。2編の論文を読んで私が心配するのは我が国がこの様な統合的研究で大きな遅れをとっている事だ。これらの研究からわかるのは、心理学や精神医学の医師に加え、ゲノム研究、インフォーマティスト、コホート研究、データベース作成など様々な分野が一つの目的に動員されている点だ。モデル動物の研究などはここまでの総合力は必要ない。従って、これまでも紹介したように日本も高いレベルにある。しかし、人間についての研究となると、これからは総合力の勝負になる。間違っていたらいいのだが、医学に関わらず多くの分野で、統合的な研究が日本の弱点である様な気がする。ぜひニコニコ動画を使って、今回紹介した仕事を更にわかりやすく解説するとともに、我が国の弱点についても議論してみたい。もし対談していいと言う方があれば是非手を上げてもらいたいと思っている。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月24日:自閉症に関わる神経発生過程の特定 (11月22日号Cell誌掲載)

2013年11月24日
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あと2回、自閉症についての研究を紹介する。今日紹介するのは、Yale大学からの研究で「Coexpression networks implicate human midfetal deep cortical projection neurons in the pathogenesis of autism (遺伝子共発現ネットワークから、発生中期の皮質深部へ投射する神経が自閉症の発生に関わっている事が特定できる)」とタイトルが付けられている。
   さて、これまで2回最新の自閉症研究を紹介して来たが、両方とも自閉症患者の視線が目からそれる事に関する研究だった。それぞれ新生児行動学、あるいは患者さんでの単一神経細胞興奮記録など最新の手法を用いた研究成果だが、ある意味で現象の記述にとどまっている。なぜこのような事が起こるのかと言うメカニズムに迫り、最終的に自閉症の治療を開発しようとすると、分子から細胞レベルに至るさらに総合的な研究が必要になる。この目的で、これまで自閉症につながる遺伝子を探索する研究は盛んに行われて来た。しかし、前にも述べたように関係があるとされる遺伝子の数が優に100を超え、理論的には1000に達すると言う事がわかってくると(統合失調症も同じ状況だ)、この複雑性にどこから手を付けるのかが問われていた。これに果敢にチャレンジしたのが2回に分けて紹介する論文で、新しい方向の総合的な疾患研究として重要な貢献だと思った。
   研究は何段階にも分かれている。1)既に発表されている1043人の自閉症患者さんのエクソーム(遺伝子の蛋白質をコードする部分)DNA配列データを解析し直して、自閉症に強く関わっていることが確かな9遺伝子を決める。2)ヒトの脳の発達成長過程で、各部分の遺伝子発現を調べたデータベースを用いて、この9遺伝子が発現している部分を特定する。自閉症につながる発生過程や細胞があれば、当然これら9遺伝子がその現場で使われているはずだ、3)このようにして特定される様々な場所では、この9遺伝子だけでなくこれまで自閉症に関わるとして見つかっている遺伝子も発現しているはずで、特定された発生時期や部位が本当に自閉症に関わるかどうかの確かさを、9遺伝子以外の自閉症関連遺伝子の発現を調べる事で決める事が出来、またこれまで示された遺伝子の中から、実際に病気の発生過程に関わる遺伝子を新たに特定できる。この順序で研究が行われ、ゲノム、推計学、データベースを駆使した研究により、この論文では、発生中期の発展途上の脳の深部にある(皮質は6層に区別できるが、その中の5/6層に相当する)神経細胞の中でも他の神経細胞へと神経軸索を投射している細胞にこれらの自閉症関連遺伝子が発現している事をついに特定した。また、この9遺伝子と同時に発現して自閉症に関わる可能性が高い122種類の遺伝子を特定している。この結果は、自閉症が脳発生過程の異常である事を強く示唆している。勿論自閉症と言っても様々なタイプがあるだろう。しかし、一部にしてもこの発生異常の時期と場所が分かって来た事は大きい。
   アメリカは脳研究助成を加速させているが、人間の脳についてこのレベルの仕事が日本でも可能か心配だ。次回紹介する研究もよく似た結論を導きだしているので、研究の詳しい意義、我が国の問題点などは次回にまとめたいと思う。

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