今週発行されたNeuronとCell誌には自閉症についての重要な研究が3報掲載されていた。今日から順にこれらの研究を紹介したい。また、機会があれば11月8日に紹介したNatureの記事も合わせて、ニコニコ動画を通して自閉症研究についてよりわかりやすい概説が出来ればと考えている。
11月8日に紹介した論文では、生後極めて早い時期から自閉症児は他人の目に視線を止める事が減り、これにより早期診断が可能になる事が報告されていた。今回紹介する研究はロサンゼルスにあるCedars-Sinai Medical Centerのグループの仕事で、11月20日号のNeuronに掲載された。「Single Neuron Correlates of Atypical Face Processing Autism (自閉症の顔認識異常に相関する単一神経細胞)」がタイトルだ。研究では、自閉症とてんかんを併発している2人の患者さんの脳底部の扁桃体に電極を挿入し、それによって個別の神経細胞の反応を見ている。なんと恐ろしい人体実験と思われるかも知れないが、これはてんかん発作を調べるために行われる検査法の一種と考えていいようだ。実際、この2人の患者さんは、対照として同じ部位に電極が埋め込まれたてんかんだけの患者さんと比べられている。前に紹介したように、自閉症の患者さんは視線を相手の目から外す事が知られている。この顔に対する反応に関わる部分の一つが扁桃体で、主にサルを使って扁桃体の神経細胞の反応を調べる研究が盛んで、理解の進んでいる領域だ。この研究では、被験者に写真を見せて恐ろしい顔か、幸せな顔かを判断させレバーを押すという課題を行いながら、扁桃体の神経の興奮を調べている。顔全体への反応を見たい時には、写真全体をそのまま見せる。同じように、口、あるいは目だけを見せる。更には、バラバラにサンプリングして部分を見せて判断してもらう。そして、何を見た時に扁桃体の細胞が反応するのかを電気生理学的に調べる。大変な研究で、患者や家族の理解がないと出来ないだろうが、結果は驚くべきものだ。まず、顔全体に対する反応を見ると、自閉症か否かの差はない。また、既に明らかになっているように、自閉症のないてんかんだけの患者さんの扁桃体には目を見た時に興奮する細胞が多い。一方自閉症では、目を見た時に反応する扁桃体の細胞は極端に低下する。代わりに、普通なら扁桃体細胞の反応がない口を見たときの反応が、大きく上昇していると言う結果だ。この扁桃体細胞での結果は、自閉症児が目を見ないと言うこれまでの結果とも合っている。ただ、視線を固定すると言う長期の反応と、扁桃体の細胞の興奮と言う短期の反応を相関させるのは簡単ではなく、これからの課題になる。ただ、今回の研究で複雑な反応と単一神経細胞の反応を相関させる可能性が生まれたことは大きい。顔認識の際、扁桃体は前頭葉側頭部から入力がある事が知られている。しかしこの研究は、自閉症が扁桃体自身の情報処理ネットワークの発生異常である事を強く示唆している。では目の代わりに口に反応するという特徴的変化の背景には何があるのか。今回の研究ではこの問いに対する答えはない。ただ、自閉症の様な複雑な精神疾患を少しでも理解したいと言う強い気持ちを感じる仕事だ。そして、分子や細胞レベルの仕事も目覚ましい発展を遂げているようだ。次回は、11月22日号のCell誌に掲載された、また違った方向からの自閉症の研究を紹介しよう。
11月22日 自閉症の扁桃体神経細胞は目より口に反応する。(11月号Neuron掲載論文)
2013年11月22日
カテゴリ:論文ウォッチ