今週は1型糖尿病についての新しい研究が目白押しだ。最後に取り上げるのは、ドイツ・ドレスデンからの報告で、アメリカアカデミー紀要のon line版に掲載された。アカデミー紀要でもニュースとして取り扱っている。タイトルは、「Transplantation of human islets without immunosuppression (免疫抑制なしのヒト膵島細胞移植)」だ。これまで、動物モデルで移植したい膵島をカプセル内に封入して、手術的に身体に埋め込み、インシュリン分泌をさせるという前臨床研究は進んでいた。今回の研究では、この技術をついに63歳の40年間1型糖尿病歴を持つ患者さんに応用したと言う、一例報告だ。一例報告がこの雑誌に載る事はほとんどないが、その重要性を考えて掲載されたと思われる。カプセルはまだ手作りのようで、膵島を入れるモジュールで空気が流れるモジュールを挟むと言う形で作られている。今回の臨床研究では、通常移植される細胞数の1/3-1/5の数の膵島がこのカプセルに入れられ、腹膜下に埋め込まれた。今回移植した細胞数は少ないため、勿論インシュリンが必要でなくなる訳にはいかないのだが、糖負荷に対するインシュリン反応は著明に改善し、なによりもA1cヘモグロビンが6-7とほとんど正常レンジで収まっている。そして何よりも、10ヶ月効果が続き、10ヶ月目に取り出して調べるとまだ膵島が生き生きしていると言うのが結論だ。
今回移植されたのは、脳死ドナーの膵臓で、移植できたのは2100膵島/Kgだったが、もし普通の移植のように10000個以上が利用できればもっと著明な効果が予測できる。また、カプセルに入れるので腫瘍の心配もないし、組織的合成も必要ない。とすると、私見だがiPS技術と最も相性がいい。是非日本でもこの技術をいち早く導入して、iPSを使った膵島移植のトライアルを一刻も早く始めてほしいものだ。しかし、この分野の研究も着実に進んでいると実感した。
11月19日 カプセルを用いた膵島細胞移植
11月19日 ERストレスと膵臓β細胞
11月18日、自己免疫性の1型糖尿病モデルマウスのβ細胞の消失の一つの原因が、小胞体の中での蛋白質の折りたたみがうまく行かない事で起こるERストレスである事、及び蛋白質の折りたたみを促進するお薬でβ細胞の消失を抑える事が出来る事を報告した。ERストレスとは何かなどは、是非ニコニコ動画などで患者さん達に詳しく解説したいと考えているが、今日はこのERストレスの重要性を示すもう一つの論文を紹介しよう。ニューヨーク州立大学のグループの研究で、11月13日号のDiabetesに掲載された論文で「Beta cell dysfunction due to increased ER stress in a stem cell model of Wolfram Syndrom (Wolfram症候群患者由来の幹細胞由来β細胞は高いERストレスを示す)」と言うタイトルがついている。
この仕事では、WFS1と呼ばれる遺伝子の突然変異がなぜβ細胞の消失を引き起こし、1型糖尿病の原因になるのかを調べている。この目的で、患者さんの皮膚細胞からiPSを作成し、この幹細胞から膵β細胞を誘導して研究を行っている。即ち、日本のメディアも盛んに紹介している最先端の患者由来iPSの利用だ。この結果、WSF1遺伝子突然変異により、β細胞の様々な活性がおかしくなっているが、この異常の最も根元での原因になっているのが、ERストレスである事が明らかになった。そしてこの異常が、蛋白質折りたたみを促進する薬剤でかなり正常化できる事も示している。このように、自己免疫型1型糖尿病と異なるメカニズム、即ち遺伝子突然変異によるβ細胞の消失も、ERストレスが関わっており、蛋白質折りたたみを促進する事で細胞を正常化できる事を今回の仕事も示した。この研究もまた、iPSがβ細胞移植だけでなく、1型糖尿病の薬剤の開発に役立つ事が明らかになった。iPS本家の日本でも是非オールジャパンで薬剤を開発して欲しい。