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4月16日インフルエンザビールスの進化(4月14日読売新聞記事)

2014年4月16日
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「今」起こっているニュースに参考になる科学的研究がタイムリーに発表される事はなかなかない。また、メディアもそれを報道しようと思うと世界に広いアンテナを張って待っている必要がある。そんな例が4月14日付けの読売新聞の「鳥インフル、感染力決める遺伝子変異5か所特定」と言う記事だ。折しも熊本の養鶏場で鳥インフルエンザが発生し、感染の拡大防止に県が必死の努力を続けている。しかしニュースの映像は、養鶏場でと殺した全てのニワトリを埋めるための穴を掘るシーンと地域全体の消毒のシーンのセットで、過去のニュースと全く変わっていない。即ちどのように感染が拡がるのか明らかになっていないと言う事がわかる。さて読売新聞が報告した論文は4月10日付のCell誌に掲載されたオランダのグループの研究で、タイトルは「Identification, characterization, and natural selection of mutations driving airborne transmission of A/H5N1 virus(A/H5N1飛沫感染に必要な突然変異の特定と、その性質や選択過程の研究)」だ。しかし極めてタイムリーな記事で、世界の重要な研究に目を配れる読売の能力を示している。記事は淡々と、飛沫感染に必要な5種類の突然変異が特定された事を記載しているだけだ。しかし科学は手続きだ。ここではどのようにこの結果が得られたのか簡単に紹介しておこう。これまでの研究で様々な性質を持ったインフルエンザビールスの遺伝子が比べられ、フェレットへの飛沫感染能力の差は9種類の突然変異で説明できる事が明らかになっていた。この研究では、この9種類の突然変異を遺伝子工学で野生型に戻し、どの遺伝子が元にもどると感染性が無くなるか調べる実験を最初に行い、記事で報道されている5種類の遺伝子に行き着いている。言い換えると、野生型の3種類の分子に計5種類の突然変異を導入するだけで感染性が獲得される事になる。次に、それぞれの突然変異によりどのような機能変化がビールスにもたらされるかを検討した。すると、ポリメレースと呼ばれる2つの酵素の突然変異によりビールスの複製と転写の速度が上がり、ヘムアグルチニン分子の一つの突然変異はビールスの熱安定性とビールス侵入に必要な膜融合の至適pHの低下をもたらした。また同じ分子の他の2種類の突然変異はビールスリセプターへの結合を促進する事が明らかになった。即ち、飛沫感染にそれぞれの分子のどの機能を変化させればよいのかを明らかにした研究だ。記事にも書かれているように、この結果をそのままヒトへの飛沫感染へ拡大する事は出来ない。しかしがんと同じで、ゲノムを理解して病気と闘う事が可能な時代がやって来た事を実感させる。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月15日 AYA世代のがん(4月20日AASJチャンネル)

2014年4月15日
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私たちAASJからの情報発信は専ら書かれた言葉を通して行っている。当然、図もない、写真もないとなると、わかりにくい点が多いのも自覚している。このわかりにくさを補うために、AASJの理事の一人、藤本浩修の提案で「ニコニコ動画」サイトを利用して患者さんたちとの対談を行っている。これまで、日本脊髄基金の坂井さん、伏見さん、日本IDDMネットワークの井上さん、能勢さんに参加いただいた。ここで行うのは、ニコニコ動画を通して参加される患者さんと専門論文の読書会をする事だ。なぜ読書会か?取り上げる病気について私は専門家ではない。従って、既存のメディアで行われているような病気解説を行う事は出来ない。しかし専門家向けの論文は少し努力すれば理解できる。そして、多くの専門家も経験だけでなく、論文や総説を通して知識を仕入れる。とすれば、私がお手伝いする事で、患者さんも専門家が読んでいる論文の内容にアクセスできるのではと期待している。行ってみると簡単ではないが、自宅にいる患者さんとリアルタイムでコミュニケーションをとると言う点でニコニコ動画は素晴らしいメディアだと感じている。    さて、4月20日はAYA世代のがんを取り上げる。AYAと言う言葉は耳慣れないかもしれない。英語のadolescent young adult (青年期、若年青年)を組み合わせた言葉だ。最近お会いする事が出来た自らのAYAがん体験から情報を発信し、提言を行っている岸田徹さんとAYAがんとgerm cell tumor(胚細胞腫瘍)に関する専門論文を読もうと今猛勉強中だ。医学の急速な進歩でがんの治療成績は上昇して来た。しかしAYA世代のがんの治療成績の改善は遅い。AYA世代のがんには医学以外の様々な問題が存在する。4月20日にはこの様な点についても率直な議論が出来たらと思っている。その意味で20日に向けて読んだ論文の一つが、AYA世代のがん患者さんに必要な医療体制について提言を行っていたので予告としてここで紹介しておく。2011年5月号Cancer誌に掲載された総説で「The cancer is over, now what ?(がんは克服したが、後何が必要か?)」がタイトルだ。論文の内容については20日のAASJチャンネルで紹介するが、患者さん一人一人の必要性に応じたケアとは何かについての提案だ。 腫瘍治療後の望ましい医療体制とは: 1) 治療で医療が終わるのではなく、発症年齢に関わらず一生涯を見渡した長期ケア体制を確立する。 2) 様々なケアサービスを調整統合する医療機関が患者さんとパートナーシップを持って長期的ケア体制を確立する。 3) がんの再発だけでなく、様々な病気の兆候を発見し病気を防止するための、先制的ケアの確立。 4) 一次医療機関と、小児科・内科の専門医、支援スタッフがコミュニケーションを保ったチーム医療の確立 5) 医療ケアにとどまらず、患者の思想信条、家族環境も考慮したケア提供 6) 患者のがん体験、特に患者さんや家族が経験する恐怖について、患者さんが訴えがあろうとなかろうと理解できる医療ケア。 全てもっともな提案だが、我が国でこのケア体制をどう実現すればいいのか、少し途方に暮れる。いずれにせよ4月20日2時から、多くの方がAASJチャンネルに参加し、意見を寄せて欲しいと思っている。
カテゴリ:メディア情報

4月14日:治験データの開示(4月11日朝日新聞記事)

2014年4月14日
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報道ウォッチと称して新聞報道と実際の論文を比較して来た。科学報道の問題を整理し、新しいあり方を提言したいと続けて来たが、大体初期の目的を果たしたので、報道ウォッチ自体は中止して、科学の話題や患者さんへの情報中心にこのコーナーをリニューアルしようと計画している。これまで調べて来た結果は「科学報道を問う」と言う本にまとめる予定だ。折しも私も個人的に関わった小保方問題が勃発した。これまで書こうと考えていた問題が一挙に噴出し現れてたと思っている。手持ちの資料でしっかり分析して、この本で取り上げるつもりだ。期待して欲しい。   さて今日は少し古くなったが先週金曜日の朝日新聞に掲載された大変重要な記事を取り上げたい。記事は「抗インフル薬タミフル「効果は限定的」英医学誌など」が見出しで、ロッシュ社の抗インフルエンザ薬タミフルが、症状改善には効果があるが、重症化予防に効くと言うデータがない事を伝えている。British Medical Journalにオックスフォード大学のグループが発表した「Oseltamivir for influenza in adults and children:systematic review of clinical study reports and summary of regulatory comments (大人と小児に対するタミフルの効果:臨床研究報告の再調査と規制についてのコメント)」論文について伝えている。論文の内容は朝日新聞に書かれた通りだ。しかし実際は、この記事にはほとんど触れられていない製薬業界とコクラングループとそれを支持する研究者との間で熾烈なバトルがあった。その結果が今回の論文だ。実際紹介されている論文のintroductionでロッシュに対して治験の生データを公開する様要求を続けた結果ようやく生データが公開された事についても書いている。今回の論文はこの生データも含めた再調査の結果だ。我が国には約5000万人分の備蓄があることからわかるように、学会やWHOの提言を行政当局がまじめに遂行した事で、ロッシュは巨額の利益を得ている。しかし取り寄せた1300ページにも及ぶ生データを仔細に検討すると、効果、特に予防効果が水増しされ、副作用は低めに見積もられている事がわかったと言う事だ。一種の改ざんが行われ、学会、WHO、行政すべてがそれを見抜けなかった事になる(コクラングループはしかし問題を早くから指摘していた)。この反省から、同じ様な間違いが繰り返されない様システムを確立する事こそがこの研究の本当の目的だ。従って、記事ではこの問題を取り上げ果敢に戦ったコクラングループについての説明もほしかった。このグループは、患者団体も含む医療従事者のために、証拠に基づいたデータを提供する事を目的に活動している世界規模の団体だ。また、British Medical Journalも今回の戦いを学界代表として後押ししている。私たちが薬剤に対する情報を得るのはもっぱら論文を通してだ。製薬会社の生データは規制当局とのやり取りに用いられても、公表される事はなかった。コクラングループが追求したのは、結果が改ざんされ間違って解釈されていた点だけではなく、許可に至るまでに行った治験の完全な生データは公開されるべきであると言う点だ。同じ号のBritish Medical Journalにはエディターのコメンタリー、及び学会有識者のコメンタリーも掲載され、この地道な戦いの結果、欧州では、薬剤の治験については登録し公開する事がようやく原則となる事を伝えている。我が国でもディオバンからSTAPまで捏造が大きな問題になっているが、委員会の調査とメディアの大騒動のあと何も残らないのは困る。この意味で今回朝日新聞に是非伝えて欲しかったのは、論文の結果だけからは見えないこのような背景の方だった。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月13日:人間の抗体を作るマウス(4月8日号アメリカアカデミー紀要掲載論文)

2014年4月13日
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レミケード、リツキサン、我が国発のアクテムラと抗体薬の比重はますます高まっている。事実現在200を超える抗体薬が開発途上にあり、我が国の製薬も抗体薬を重点分野として大きな投資を行っている。通常抗体薬は、先ず標的分子を免疫したマウスから、その分子に特異的に結合する抗体だけを大量に作るハイブリドーマと呼ばれる細胞を樹立する事から始まる。標的分子と結合する点ではこのハイブリドーマが作る抗体で十分なのだが、このままではマウスの抗体なので、ヒトに注射すると異物として認識され、抗体活性が抑制されアレルギー反応を起こす。そのため、遺伝子工学を使って抗体の標的と結合する部分以外をほとんど人の抗体と置き換える。この時、どこまでヒトの遺伝子を置き換れば活性が維持できるか試行錯誤が必要だ。この過程をスキップするため、マウスの抗体遺伝子をヒト遺伝子で置き換え、最初からヒトの抗体を作れるマウスを作成しようという試みが世界中で行われた。この競争での我が国企業の存在はかなり大きかったように覚えている。おそらく世界にさきがけて、全ての抗体遺伝子がヒトで置き換わったマウスを作ったはずだ。ただ残念ながら、このマウスは抗体をうまく作る事が出来なかった。抗体反応の主役B細胞の機能が低下していたからだ。これを解決したのが今日紹介する論文で、アメリカのリジェネロンという製薬ベンチャーの研究で、4月8日付けのアメリカアカデミー紀要に掲載された。タイトルは、「Mice with megabase humanization of their immunoglobulin genes generate antibodies as efficiently as normal mice (普通のマウスと同じ効率で抗体を作る事の出来るヒト抗体遺伝子を持つマウス)」だ。この研究が行った工夫は簡単だ。これまでのヒト化マウスは全ての抗体遺伝子をマウスからヒトに置き換えている。一方、今回報告されたマウスは、抗原と結合する可変領域(V領域)遺伝子だけを交換している。抗体はC領域とV領域からで来ており、抗原に結合するのはV領域だ。しかしC領域は抗体の持つ様々な生物活性を担っている。この生物活性の中には、B細胞の分化や生存に関わる機能が含まれている。正常機能を発揮するためには、C領域と細胞内分子との相互作用が必要だが、もしマウス内のC領域がマウスB細胞内のシグナル分子とうまく結合できないとB細胞の分化や生存が阻害される。今回報告されたマウスではC領域遺伝子を残しておく事で、この問題を解決できた。もちろんこのC領域は最後にヒト遺伝子に置き換える必要があるが、これは簡単な事だ。この競争では、誰もが全ての遺伝子をヒトに置き換える技術競争と考えて、それに邁進した。幸いこの競争では我が国がリードした。しかし、ヒトの分子が全てマウスの細胞内で同じように働くと言うのは甘い期待だった。この当たり前の知識を思い起こし、単純な小さな工夫で最後まで粘ったリジェネロンが最終勝利を手にする事になった。もちろん理屈がわかると、我が国で作られたマウスを復活させる方法は私でも思いつく。是非あきらめずチャレンジを続けて欲しい。事実リジェネロンはこのマウスから作った抗体を既に10種類治験へと進めていると言う。抗体薬開発を掲げて柳の下のどじょうを狙うのではなく、独自の技術や材料を開拓する事しか勝利の処方箋はない。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月12日 より良い抗がん剤を求めて(4月号、Blood誌及びアメリカアカデミー紀要掲載論文)

2014年4月12日
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このホームページでも紹介したが、慢性骨髄生白血病はがんの標的薬が大成功をおさめた最初の病気だ。白血病に限らず多くのがんで、細胞の異常増殖を調節する主役の遺伝子異常がある。これをドライバー突然変異と読んでいるが、このドライバーの機能が抑制できると、がんの増殖を止める確率が上がる。ゲノム研究が進んだおかげで多くのがんで働くドライバーが見つかって来たが、残念な事に、重要なドライバーの多くは、その活動を抑制できる薬がまだ発見されていない。最も典型的な例がRASと呼ばれる遺伝子で、直腸がん、肺がん、膵臓がんなど多くのがんのドライバーである事がわかっていても、薬剤の開発には至っていない。もしRAS活性を直接阻害できる薬剤が開発されれば、がんとの戦いは大きく前進する。急性骨髄生白血病(AML)もまだドライバー阻害剤が使えない腫瘍の一つだが、約3割のAMLがFlt3と呼ばれる受容体の突然変異をドライバーとして使っている事がわかっている。この事はずいぶん前から知られていたため、この分子に対する標的薬が開発され、現在第2相の臨床治験が進んでいる。ただこれまでの治験から、現在治験中の薬の問題点が見えて来ている。先ず特異性に問題があり、Flt3以外のキナーゼ分子を抑制してしまい、副作用が出る。また、Flt3遺伝子を活性化させる幾つかの突然変異が知られているが、現在治験中の薬剤は一部にしか効果がないと考えられている。もちろんそれでも大きな前進で、早期に治験が終わり、薬が効くドライバーを持つAMLを選んだ治療が一刻も早く進む事を願う。高齢者のAMLは骨髄移植が困難なだけでなく、薬剤の副作用が出やすいため標的薬の開発は急務だ。もちろん問題があれば、新しい挑戦が始まる。今日紹介する2編の論文は、第一世代の薬剤の治験が進む一方で、より良い薬剤がしっかりと開発されている事を示す論文だ。一編は4月号のBlood誌、もう一編はやはり4月号のアメリカアカデミー紀要に掲載されている。最初はジョンホプキンス大学の研究でタイトルは「TTT-3002 is a novel FLT3 tyrosine kinase inhibitor with activity against FLT3-associated leukemias in vitro and in vivo (TTT-3002は新奇のFLT3チロシンキナーゼ阻害剤で、FLT3と連関する白血病に効果がある)」で、もう一編はカリフォルニア大学からの論文で「Crenolanib is a selective type I pan-Flt3 inhibitor (クレノラニブは特異的1型のFlt3阻害剤で、ほとんどのFLT3突然変異に効果がある)」だ。   これらの研究はまだ実験段階だが、TTT3002とクレノラニブがともに、第二世代のFlt3阻害剤として、これまで開発された薬剤より優れた特徴を持っていると言う結果だ。特異性は極めて高く、安心して高齢者にも使えるのではと期待をいだかせる。更にこれらの研究で調べた全ての異常FLT3及び、正常FLT3にも効果がある事から、FLT3をドライバーとして使う全てのAMLの標的薬になり得る。Flt3自体は全くなくともマウスが生存できる事から、ともかくFLT3なら特異的に阻害する薬はAMLに特異的に聞く可能性が高い。患者さんにとって、がんの治療薬は少しでも高い効果を持ち副作用が低い薬剤が望ましい。第一世代の治験が進む間にも新しい薬が開発されているスピード感には勇気づけられる。日本の製薬も、切り札と呼ばれる薬がどれほど市場に出回ろうと、より良い抗がん剤を求めて果敢にチャレンジして欲しいと願っている。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月11日 普遍文法(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載)

2014年4月11日
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多くの読者にとって「普遍文法」は聞き慣れない言葉だろう。これはノーム・チョムスキーにより提唱された20世紀後半の言語学をリードした概念で、私たちが頭の中に生まれつき備えている文法構造のことだ。即ち、普遍的文法構造とは、生まれつき脳のネットワークとして存在している「意味を持った形で単語を並べる(統語・文法)能力」と言える。私が読んだ事のある何人かの現代の言語学者はほとんどこの理論の影響を受けている。確かに説得力のある魅力的理論だが、脳科学的に検証するのは簡単ではない。今日紹介する論文はこの難問に地道なチャレンジが進んでいる事を実感させる。イタリア、アメリカ、フランス、チリの国際チームによる論文で、アメリカアカデミー紀要オンライン版に発表されており、タイトルは「Language universals at birth(生下時の普遍言語)」だ。研究は生後2−5日目の赤ちゃんにblif, lbif, bdifなどの音を聞かせ、脳の言語野の反応を流れる血液のヘモグロビンの酸化の程度として測定している。赤ちゃんの頭蓋が薄いおかげで、カメラを用いて血液の色を調べる事が可能で、活動している脳領域ではヘモグロビンが酸化する。聞かせる音だが、ほぼ全ての言語に通用する「sonority sequencing principle (SSP):聞こえ方の配列原理」に従う音節と、従わない音節を使っている。SSPとは音節の中心の音(普通母音)の前は小さい音から始まり、後ろは大きい音を経て終わると言う原理で、blifはこの原理にかなう。一方lbif,bdifは読んでみるとわかるがこの原理に合わない。従って研究で問われたのは、SSPは生後既に存在しているかどうかだ。結果は明瞭で、SSPに合わない音(lbif, bdif)を聞かせると脳の言語野は強く反応し、SSPにあった音(blif)を聞かせると反応は弱いと言う結果だ。即ち、生まれた時には既に聞いた音がSSPに合うかどうかを判断できると言う結果だ。SSPが胎児期の経験により発生したとも疑われるが、胎教説では母国語に特徴的なシラブルの学習が生後1年までかかる事を説明できず、この可能性は低いと考えている。チョムスキーは普遍文法や生成文法理論を脳科学で検証するのをあきらめていた節もあるが、この論文にはどう反応するのだろう。今後は統語理論などの本質的理論にどう迫るのかまだまだチャレンジが必要だ。
カテゴリ:論文ウォッチ

「青年期(AYA世代)のがんの克服」(AASJチャンネル:放送予定 (4/20(日) 14:00 – 16:00)

2014年4月10日
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日時:2014年4月20日 14:00~16:00

 胎児性がんと闘っておられる岸田徹さんをAASJにお迎えし、直面している現状と課題について最新の研究論文を紹介しながら一緒に考えます。ご意見やご質問なども番組中にどしどしコメントでお寄せ下さい。( http://ch.nicovideo.jp/aasj )
※AYA世代:adolescent and young adult

【出演】岸田徹
【解説】西川伸一

■西川伸一:プロフィール
1973年京都大学医学部卒業。1987年熊本大学医学部教授、1993年京都大学医学部教授を歴任。2002年理化学研究所 発生・再生センター副センター長。専門は幹細胞生物学。2013年NPO法人AASJを設立。患者さん中心の医療体制の確立を目指している。

カテゴリ:メディア情報

4月10日スポーツで鍛えた骨は長持ちする。(4月8日号アメリカアカデミー紀要掲載論文)

2014年4月10日
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先日ニュースで元巨人の桑田投手が投球をしているのを見て、プロを辞めた後も凄い球を投げるなと感心した。そんな感想を裏付ける論文が4月8日付けのアメリカアカデミー紀要に掲載されていたので紹介する。インディアナ大学からの研究でタイトルは「Physical activity when young provides lifelong benefits to cortical bone size and strength in men (若いときの運動は生涯続く皮質骨の大きさと強さをもたらす)」だ。研究はプロ野球の投手の腕の骨をX線などで調べ、大きさ、密度、強さなどを調べている。研究のアイデアは面白い。投手は利き腕を酷使するため、反対側を鍛えていないコントロールの骨として使える。また、野球を辞めると大体現役時代の様な投球を続ける事はないので、運動を辞めた後の影響を見やすい。約100人の引退後様々な年数を経たプロの元投手の上腕骨について調べており結果はわかりやすい。もちろんトレーニングを辞めて時間が立つと、普通の人と同じように皮質骨の量や運動能力は落ちて行く。これは普通考えられているのと同じだ。しかし一定(最盛時の半分程度)のレベルに達すると骨のサイズは運動に関わらず維持されるようになり、また骨の強さも維持されると言う結果だ。これをそのまま解釈すると、若い時に鍛えれば強さはある程度維持できると言う事になる。しかし正直に言うと、論文のレフリーは少し甘いと感じる。プロの選手の鍛え方は尋常ではない。また元々遺伝的に選ばれた人達である可能性も十分ある。私がレフリーなら、アマチュアも含めて対象を拡げろとコメントするだろう。アマチュアの元投手の方も安心するのはまだ早い。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月9日:次世代シークエンサーとがんスクリーンング(Nature Medicineオンライン版掲載)

2014年4月9日
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検査機器や試薬を提供する会社の方と話していると、我が国のトップはPCRが検査方法の中心であると言う発想から抜けられないようだが、血液に流れるがん細胞由来異常DNAをシークエンサーを使う事で高感度に検出可能である事を示すスタンフォード大学からの論文がNature Medicine オンライン版に掲載された、タイトルは「An ultrasensitive method for quantitating circulating tumor DNA with broad patient coverage(広いタイプの患者さんをカバーできる超高感度血中のがんDNA検出方法)」だ。微量だががん細胞のDNAが血中に流れている事はこれまでも知られている。しかしほとんどの方はこの検出にはPCRが必須と言う考えにとらわれている。この研究では、非小細胞性未分化癌をモデルに、先ず血中に流れる異常DNAを濃縮する方法を開発し、後は全てのDNAを次世代シークエンサーで調べている。全くPCRは使っていない。もちろん濃縮方法の開発にはこれまでのがんゲノム研究の進展が背景になっている。また、シークエンスのコストも更に低下する事が期待できる。結果は、ステージII-IVの全てのがんを血液サンプルで診断する事が可能であり、初期のステージIでも50%の診断がつく。またがん由来の異常DNAが、読まれた全配列の中でどの程度の頻度で出現するかは、がんの大きさと比例する。しかもこれまでのゲノム研究から知られる突然変異の96%までカバーできている。現在がんマーカー検査が普及しているが、ゲノムは究極のがんマーカーだ。おそらくゲノムはこの分野に大きな変革をもたらすだろう。もちろん更に方法を改良する事は必要だ。しかし、将来は特定のがんに絞らず、がんがあるかどうかを診断できる普遍的方法へと発展すると予測できる。   しかしこの様な進展を目にすると、日本のゲノム研究、特にこの様な新しい技術の開発を行える人材の欠如に愕然とする。ゲノム分野のこの欠損は、将来情報処理分野全体の欠損へと拡大するのではと心配する。クリステンセンの「イノベーションジレンマ」と言う本があるが、既存の技術のイノベーションにまじめになればなるほど時代に取り残されると言うのがメッセージだ。我が国の現状を見ると将来悪いモデルとして題材になる予感がする。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月8日緑茶と記憶(Psychopharmacology誌オンライン版形成)

2014年4月8日
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この論文を読むまで気がつかなかったが、既に緑茶の消費が多いほど痴呆の高齢者の数が少ない事が我が国の研究によって示されている。それ以来、外国でも緑茶と記憶に関する研究が進んでいるようだ。機能的MRIを用いた研究も盛んで、作業記憶と呼ばれる短期記憶に関わる前頭葉側頭部の活動が緑茶で高まる事も報告されている。今日紹介する論文はこの可能性、即ち作業記憶誘発時に緑茶を飲むと、実際に前頭葉と側頭葉の神経結合を高めるかを調べた研究で、緑茶国とは言えないスイスからPsychopharmacologyオンライン版に報告された。タイトルは「Green tea extract enhances parieto-frontal connectivity during working memory processing(緑茶抽出物は作業記憶処理過程での側頭葉—前頭葉の結合性を高める)」だ。12人のボランティアを2群にわけ、片方にはお茶のエキスを入れたミルク、もう片方はエキスの入っていないミルクを、少し前に覚えた字を思い出すと言う作業記憶テストを受ける前に飲ませている。ただお茶の味がしないように、わざわざチューブで胃の中に直接注入している。その上でテストを行いながらMRIで検査すると言うプロトコルだ。結果は予想通りで、お茶には機能的MRIで測定される脳の側頭葉と前頭葉の結合性を促進するはっきりとした効果を検出している。ただ、実際の作業記憶テストの成績は小さな改善しか見られていないため、脳領域の結合性の上昇がそのまま記憶の促進につながるかどうかははっきりしないと言う結果だ。なぜこのような効果が見られるのかについてはお茶に含まれるカテキンやポリフェノールが直接アスパラギン酸受容体に働くのではと推測している。他にもカテキンが活性酸素を下げ慢性的な効果がある事も科学的な研究で確かめられているようだ。最近茶カテキンが脂肪を燃やすなどと言った宣伝を耳にするが、そこに短期記憶を促進すると宣伝文句を足しても問題はないと思う。ただこの研究では13gから25gの抽出物が使われているが、1gが大体5gの茶葉に対応するそうだ。とすると100g近くの大量の葉を消費する必要があり、記憶にいいと宣伝するのはやはり簡単ではでなさそうだ。
カテゴリ:論文ウォッチ
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