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8月8日 機能的ファージウイルスに必要なゲノムを AI から生成する(8月6日 Science 掲載論文)

2026年8月8日
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今日紹介するスタンフォード大学とアーク研究所からの論文は、Evo1、 Evo2 と名付けたゲノム進化だけを学習させた生成AIモデルに、大腸菌に感染できるファージウイルスゲノムを生成させるのに成功した研究で、8月6日 Science に掲載された。タイトルは「Generative design of bacteriophages with genome language models(ゲノム言語モデルを用いてバクテリオファージのデザインを生成する)」だ。

実はこの論文は査読前の論文を発表する BioRxiv に昨年9月に発表されており、そのときから話題をさらっていた。私もそのときから、教材としてこの論文を利用している。そのため、8月6日査読を通って発表された論文を見ると、えらく時間がかかったなという印象だ。2024年に発表された原核生物のゲノムを学習した Evo1 の論文が発表されたときから(https://aasj.jp/news/watch/25610)、ウイルス設計も時間の問題だと思っていたが、実際にはそれから1年で、より広いゲノムを学習した Evo2 を発表するとともに(https://aasj.jp/news/watch/25610)、両方を用いて機能的なファージウイルスを作って見せた研究になる。

一般の人から見ても重要な論文と判断され、日経は昨日の夕刊トップで紹介しているが、論文発表前にも多くのメディアで紹介されている。いずれの紹介記事も、ゲノム生成の方法についての説明には困っているようだが、以前紹介したように Evo1、Evo2 も Chat のような単純な transformer/attention とは異なる、畳み込みと rotary attention を組み合わせて1Mの核酸配列を扱えるように設計したモデルなので、これも含めて紹介していかないと、生物分野でのAI研究の重要性を過小評価してしまうことになる。

まず Evo が目指すのは、DNA を媒体とする情報が集まる潜在空間を形成することだ。そのために、通常の transformer ではないモデル・Stripedhyena を作成し、1Mまでのゲノムをそのまま学習できる様になっている。これにより、これまでの進化過程で起こった様々なコンテクストが潜在確率空間として形成される。生成AIの潜在空間は可能性の空間であり、起こったことを学習していても、この空間から起こっていないが可能な配列を生み出すことが出来る。例えばハムレットの最初「Speak; I am bound to hear」とchatにインプットしても、必ず「Ghost so art thou torevenge・・」と続くわけではないのと同じだ。

Evo1、Evo2 の説明は以前のブログを参照して貰うことにして続けると、この研究ではそれぞれのモデルにゲノム可能性を生成させるときは、まず生成したいタイプ(この研究ではφx174)が属する Microviridae ウイルスゲノムをを多く学習させるファインチューニングを行う。このファインチューニング配列には Microviridae である事とφx174 との相似性を示すトークンを加えている。こうして、進化確率空間の内部に印が付けられる。

次に、ゲノムを生成するときには Microviridae という特殊トークンと欲しいゲノムの φx174 との相似性を表すトークンに続いて、Microviridae の5‘に保存されている遺伝子配列をインプットしている。同じインプットを入れても、アウトプットが異なるのが確率空間の面白い点で、膨大な数のアウトプットが生成される。面白いのは、この最初の遺伝子配列の長さを変えてやる実験を行って、Evo1 で予測させるときは6個並べれば良いが、Evo2 の場合は9個並べる必要があることを示している。理由については述べられていないが、このような結果はモデルが形成している潜在空間を理解する意味で重要に思える。

我々が Chat と向き合うときには、何万もの答えの中から選ぶことはしないが、この研究のもう一つのポイントは、出てきたゲノムを徹底的に評価して選ぶという過程を行なっている点だ。すなわち、Evo だけでは終わらず、たとえばウイルスらしさ、GC の使い方、長さ、などなど多くの条件でアウトプットを自動的に選ぶための様々なソフトを開発している。φx174 の場合、ゲノムの長さ、遺伝子の配置、GC 含量、遺伝子オーバーラップ、ゲノムの構造などをチェックして、最終的に200程度に絞っている。

あとは、機能的ウイルスゲノムかどうか、想定した系統の大腸菌にまず遺伝子だけを導入し溶菌がおこり、その上精をもう一度大腸菌に加えて感染性があるかどうかを調べ、16種類の機能的ゲノムを分離している。これらは最初指示した通り、φx174の配列とは95%以下になっている。すなわち、全く新しいゲノムが生成されている。ただこうして生まれるゲノムは進化可能性が生成されたもので、決して新しい設計というわけではない。

こうして得られたウイルスの中には、φx174 よりも高い感染性を示すものもあり、しかも大腸菌の方で抵抗性が獲得されると、それに対する抵抗性を自然に進化させる能力があり、全く通常のウイルスと同じだ。

全ゲノム配列を調べる中で、自然にイントロンのような配列が挿入されており、それを除くとウイルス活性が落ちるようなケースも見つかっている。個人的な解釈だが、イントロンの進化などについても研究可能性があるように思えた。

結果は以上で、できたウイルスについての詳しい解析は割愛したが、次の目標は自立生命の設計だろう。

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