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8月6日 高い親和性を持つ抗体合成には L1トランスポゾンが働いている(8月3日 Cell オンライン掲載論文)

2026年8月6日
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つい3日前に L1トランスポゾンが何故X染色体に多いのかについて研究した論文を紹介したばかりだが(https://aasj.jp/news/watch/29317)、今日紹介するテキサス大学とコロンビア大学からの論文は、L1が免疫グロブリンの遺伝子変異を促進し高い親和性を持つ抗体産生に必須であるとするおもしろい研究で、8月3日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Co-option of retrotransposons promotes antibody diversification(レトロトランスポゾンを利用することで抗体の多様性を促進できる)」だ。

抗体多様性の形成は免疫学の中心課題で、我が国では利根川さんや本庶さんなどが20世紀の終わりにしのぎを削っていた課題だ。この中から、本庶先生はクラススイッチと、抗体V遺伝子の突然変異の頻度を高める APOBEC ファミリー分子 AID を発見する。

今日紹介する研究は、多くの抗体 VH 遺伝子上流に L1トランスポゾン、特に活性化が出来なくなったタイプが近接して存在していることに気づいた。そして、これだけ多くの VH と近接しているのは偶然の話ではないと考え、B細胞の機能、特に免疫後リンパ節の胚中心で起こる急速な突然変異誘導に関わるのではと考えた。おそらく最初はプロの勘のようなものだが、さすがと思う。そして、VH 遺伝子上流の L1 を除く実験を行い、期待通り VH の突然変異頻度が著しく低下することを確認する。実際には様々な VH 遺伝子に隣接する L1 を除く実験を行っているが、全てで変異生成が低下する。ただ、影響の及ぶのは L1 の下流にある VH 遺伝子だけで、遠くの VH 遺伝子には全く影響がない。

この段階の突然変異生成はもっぱら AID の作用なので、L1 は下流 VH に AID をリクルートする作用を持つことになる。また L1 はゲノムから見たとき外来遺伝子なので、すぐに HUSH と呼ばれる分子コンプレックスによってサイレンスされる。このことから、AID を L1 下流 VH へとリクルートするのは L1 の動きを感知した HUSH に AID が結合して、リクルートされるのではと考えた。そして、HUSH と AID が複合体を形成して L1 に結合することを CHIP 法と呼ばれるゲノムとタンパク質の相互作用を調べる方法で確認している。

問題は HUSH はサイレントな L1 と結合しないことで、VH 上流の L1 が活性化され転写が始まっている必要がある。しかし、ほぼ全ての VH 上流 L1 は活性化に必要な領域を失っている。そこで考えたのが、抗体の転写を誘導するプロモーターが、逆向きにも働いてL1の転写を誘導する可能性で、RNAseq を詳しく調べると、VH 上流のプロモーターから L1 の転写も誘導されていることがわかった。この活性化状態を検知した HUSH が L1 に結合し、B細胞分化の後期ではそのとき AID が発現しており、HUSH と結合した AID がVHへ選択的にリクルートされることになる。

VH全体を眺めると、L1の存在しないVHも多く存在するが、L1下流の VH と比べると変異頻度は低い。しかし、このような VH の上流に L1 を挿入すると変異の頻度が上昇することから、L1 は免疫反応後期に起こる hypermutation 誘導による抗体の親和性の上昇に必須の働きをしていることになる。

そして、これはヒトやマウスに限ったことではなく、ニワトリを含む多くの種で同じように見られる。即ち抗体遺伝子進化の早い段階でと L1トランスポゾンを利用することが始まり、現在に至っている。特におもしろいのはニワトリで、我々と違い使う VH 遺伝子は一つだけだが、偽 VH 遺伝子との gene conversion で変異を増やす仕組みを持っている。この偽 VH 遺伝子にも L1 トランスポゾンが近接して存在しており、多様化システムにかかわらず、抗体多様化に L1 が組み込まれている事になる。

免疫反応に沿って今回の研究をまとめると、免疫後期胚中心でB細胞がクラススイッチを始めると、AID が発現して、VH とは全く別のイントロンに働きクラススイッチを誘導する。これと平行して、VH 遺伝子上流のプロモーターが強く働くと、L1 の転写が起こり、これに HUSH が結合するが、そのときクラススイッチを終えた AID は VH にリクルートされ、今度はデアミネーションによる hypermutation に関わる。実験的には示されていないが、HUSH は元々クロマチンを閉じる働きがあるので、この時 L1 領域が閉じる過程で AID が VH に運ばれる可能性も示唆される。

以上の過程を見てみると、目的から時間経過まで、なんとうまく L1 が使われいるかに驚くが、L1をジャンクと呼ぶのがためらわれる、進化の妙に感動する。

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