食物アレルギーは、我が国の乳幼児の1割、学童期の5%程度に見られる極めて有病率の高い疾患だ。ただこれはアレルギー症状まで発展する率で、食物に含まれる抗原に対する免疫反応は、実に3割に近い幼児で成立することがアメリカの研究によりわかっている。しかし、なぜ同じ食べ物を摂取して、一部の子供にだけ免疫が成立するのか、また免疫が成立してもほとんどの子供はアレルギーを発症しないのかについては実はよくわかっていない。最初は、遺伝的な体質の差と考えられていたが、徐々に環境因子の重要性が認識され、現在の研究の中心になっている。例えば、母乳により食物アレルギーを防げるとか、帝王切開による出産児はアレルギーが多いなどを報告する研究も数多く見られるが、完全にエビデンスで裏付けられたというわけではない。最近では、大人のアレルギー疾患と腸内細菌との関係についての研究の進展に伴い、乳児の食物抗原に対する免疫も、離乳食が始まる以前に成立する腸内細菌の影響があるのではと研究が始まっている。今日紹介するカナダ・アルバータ大学からの論文は、生後1年目に食物抗原に対する免疫反応の成立と腸内細菌叢との関係を調べた論文で、Clinical and Experimental Allergy2月号に掲載された。タイトルは「Infant gut microbiota and food sensitization:association in the first year of life (幼児のマイクロビオームと食物感作:生後1年目での関連)」だ。研究では166人の乳児について、1歳時点で牛乳、卵白、大豆、およびピーナツに対する皮膚反応を調べるとともに、3ヶ月齢、および1年目に便を採取、存在する細菌リボゾームRNAの配列を調べることで細菌叢の構成を調べている。さて結果だが、まず166人追跡すると、1年目でいずれかの食物抗原に反応する。確かに免疫の成立する頻度はかなり高そうだ。次に、免疫が成立した子供の腸内細菌叢と、成立がなかった子供の細菌叢を比較すると、免疫が成立している子供の細菌叢は多様性が見られず、圧倒的にEnterobacteriaceaeと呼ばれる種類で締められている。一方、普通ならもっとも優勢のBacteroidaceaeは極端に低い。この2種類の比を標識にすると、logスケールで大きな差が認められる。ただ、1年目になるとこの差は縮小し、詳細に見ると確かに細菌叢の構成は異なっているが、多様性が成立していることが明らかになった。この結果から、離乳食が始まる前の時期に成立する腸内細菌叢が食物抗原に対する免疫の成立に影響を持つこと、免疫が成立していても腸内細菌叢は最終的に平均値へと戻っていくことが明らかになった。今後は、この段階で正常型の細菌叢を構築するには何が必要か調べられるだうろ。おそらく、離乳食摂取前に細菌叢を調べてアレルギーの危険性を診断し、その上で細菌叢を正常化したり、食物の摂取法を工夫してアレルギー発症を予防する介入試験が行われる気がする。また改めて、腸内細菌も体の一部であることを実感した。
3月10日:腸内細菌の多様性が食物アレルギーを防ぐ(Clinical and Experimental Allergy2月号掲載論文)
2015年3月10日
カテゴリ:論文ウォッチ