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3月11日:蝶のベイツ型擬態(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)

2015年3月11日
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専門にこだわらず様々な分野の論文を読み始めると、シマウマの縞や、電気ウナギの狩りなどあらゆることが研究されていることを実感する。当然研究にはお金が必要で、自腹を切って行う時代ではないので、役に立つ・立たないを問わずに研究を支援する公的な仕組みが多くの国に存在することを知って励まされる。そんな一つが、ちょうど1年前インド・タタ基礎研究所とシカゴ大学から発表された、蝶のベイツ型擬態がdouble sexと呼ばれる昆虫の性決定に関わる分子の多形によって起こることを示したNature論文だった。毒のない蝶の種類が、毒を持つ蝶の形態を真似るという現象を、ゲノム解読も含めあらゆる技術を駆使して明らかにした論文を読んで、研究結果自体にも感心したが、我が国でもこのような研究に十分な助成が行われているのか少し心配になった。その意味で今日紹介する東京大学藤原さんたちがNature Geneticsに発表した論文は、我が国でも同じような研究が行えていることがわかって、少しホッとした。同じ蝶のベイツ擬態の分子メカニズム解明を目指す研究で、タイトルは「A genetic mechanism for female-limited Batesian mimicry in papilio butterfly(papilio蝶のメス特異的ベイツ型擬態の遺伝的メカニズム)」だ。昨年の米•印共同論文とテーマは全く同じだ。おそらく擬態の責任遺伝子を特定するために競争していたのだろう。先を越されて大変な思いをしたのではないかと推察する。もし、先を越された原因が、シークエンサーが自由に使えなかったことなどの物量が原因ならさぞかし残念だったことだろう。とはいえ、諦めずにこの研究を完成させ、論文として発表したことに敬意を表したい。この研究はメスだけが擬態を示す遺伝子多型の原因を、ゲノム解析を含む様々な方法を駆使して、doublesexと呼ばれるオス・メスを決定する遺伝子の多型であることを突き止めている。結果は米・印共同論文と同じだが、この部位が多型を獲得できるようになった基礎として、遺伝子の逆位があること、そして何よりも擬態を示すdoublesex遺伝子を抑制すると、擬態が消失するという機能的証明を行っている。結果から、おそらく遺伝座の逆位が起こることでdoublesex多型による擬態への道が開け、この条件下で発生した多型を持つメス型doublesex分子が、羽の色を決定する機構を変化させることで、擬態が発生することが明らかになった。このように擬態が起こるメカニズムの大筋を明らかにした点で、重要な貢献だと思う。気になって藤原さんのデータを見ると、擬態についての研究で長期間の助成を受けているようなので、我が国も十分ではないにせよ、自然を理解することのみを目的とした研究にも助成が行われていることを確認でき、安心した。

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