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3月8日:高食塩食の効果もある(3月3日号Cell Metabolism掲載論文)

2015年3月8日
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食塩の取りすぎは高血圧を招き、健康寿命を障害する重要な原因になるとして、減塩政策を呼びかけるWHOに呼応して、世界中で減塩の取り組みが進んでいる。英国などは、食品工業会を巻き込んで、食塩の消費量を1日6gに低下させるキャンペーンを行い、成功を納めているようだ。しかし、だれもが同じ方向を向くときは、少し気持ちが悪いと思ったほうがいいのかもしれない。今日紹介するドイツ・エアランゲン大学からの論文は、高食塩食がマクロファージの抗菌作用を活性化させることを示した研究で、3月3日号のCell Metabolism誌に掲載された。タイトルは「Cutaneous Na storage strengthens the antimicrobial barrier function of the skin and boosts macrophage-driven host defence (皮膚にNaを貯蔵することにより皮膚の抗菌バリアー機能を高め、マクロファージによる防衛機能を高める)」だ。この研究のきっかけは、体内のNa濃度を測定できるMRIを使った検査で、皮膚の感染部位のNa濃度が上昇しているという発見に始まる。本当に感染局所のNaが上昇するのか調べるため、マウス皮膚に感染を起こして実際の濃度を調べてみると、 MRIの結果に一致してNaの上昇が確認できる。この結果から、感染した皮膚ではなんらかのメカニズムで局所的Na濃度が上昇し、これがマクロファージなどを活性化して感染の拡大を防ぐのではないかと仮説を立て、実際に高濃度の食塩がマクロファージを活性化できるか調べている。その結果、マクロファージがLPSやTNAで活性化されるとき、高Naだと、Nos2と呼ばれる分子の産生が増強し、食菌作用が高まることを確認している。詳細は省くが、Naが細胞内のp38/MAPKシグナル分子を経て、NFAT5転写因子に至るシグナル経路を増強することで効果を発揮することをマクロファージで確認している。最後に、食塩の多い食事が原生動物ライシュマニアの感染を抑えるか調べ、感染後そのまま慢性炎症が続く通常の経過が、感染後20日後から炎症が抑えられることを観察している。確かに、傷口からの感染を食塩で防ぐ古来の知恵と会っているし、変に納得する結果だが、高塩食を食べさせると効果があるというのは驚きだ。ただ、普通点滴にはNaは入っているので、病人にわざわざしょっぱい食事を取らすこともないだろう。しかし、他の問題を引き起こす可能性が高い経口摂取の実験より、軟膏か何かで局所の濃度を上げる工夫の方が、皮膚の感染に対してなら安全に思えるのは私だけだろうか。とはいえ、感心するというより、面白い研究をしている人たちがいるものだというのが正直な印象だ。

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