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3月31日:基礎研究結果を新しいがん治療へ(Natureオンライン版掲載論文)

2015年3月31日
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昨年の9月15日にも取り上げたが、小児の白血病のなかで最も多いのが急性リンパ性白血病(ALL)だ。化学療法が進み、現在では完治可能な白血病だが、フィラデルフィア染色体陽性型のALLだけは治療が厄介だ。このタイプのALLは、もともと異なる染色体にあるBcr遺伝子とAbl1遺伝子が、Bcr-Abl1融合遺伝子を形成することが原因となって起こる。不思議なことに、同じ融合遺伝子で起こる大人の慢性骨髄性白血病は、グリベックと呼ばれるこのBcr-Abl1分子機能を抑える薬剤の登場で、飲み薬でコントロールできる病気に変わった。なのに、なぜ小児のALLでは同じ薬剤が効かなくなるのか?これまで積み上がった基礎研究結果を手掛かりに、この原因の追究が行われている。今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校を中心とする国際チームによる論文は、長年の基礎研究により積み重なった知識や材料を新しい治療へとつなげるお手本のような研究でNature オンライン版に掲載された。タイトルは「Signalling thresholds and negativeB-cell selection in acute lymphoblastic leukemia (急性リンパ性白血病にシグナルの強さをかえて細胞のネガティブセレクションを誘導する)」だ。通常がん遺伝子が働いて細胞が増殖し始めると、様々な防御機構が働きだす。ただ、同じ融合遺伝子で細胞が増殖する場合でも、細胞が異なると、この防御機構は異なる。このグループは未熟B細胞でおこる防御反応をこれまでの知識から洗い出す中で、抗原受容体からのシグナルに注目した。B細胞では抗体が細胞膜に発現して抗原受容体の役割を担っている。この時、細胞膜上の抗体と結合して様々なシグナルに変える分子(Igα/Igβ)が知られている。20年以上前に東京工業大学の工藤さんや、熊本大学の坂口さんがバーゼル研究所で発見した分子だ。この分子を介するシグナルがある閾値を越えると細胞はネガティブセレクションを受けて死ぬ。このグループはALLではIgα/Igβシグナル分子の発現が低下していることを見出した。Igα/Igβの発現を回復させて白血病細胞殺す可能性を追求すると、期待通り細胞は死ぬ。意外なことに、グリベックで融合遺伝子の機能を阻害してやると、Igα/Igβ発現による細胞死誘導効果は薄まる。この原因を探る中で、最終的にBcr-Abl1融合遺伝子が働くとIgα/Igβに結合してシグナルを伝えるSykキナーゼの機能を高め、実際には細胞を殺す防御作用が誘導されていることが分かった。即ち、Igα/Igβ分子の発現を抑えてこの防御機構を免れた細胞だけが白血病になることを突き止めた。詳細は省くが、この結果をもとに、Sykキナーゼを活性化する白血病治療の戦略を計画し、Sykキナーゼの機能を抑える脱リン酸化酵素INPP5D阻害剤を投与することで細胞死を誘導できること、またモデル動物系で生存を延長することが可能であることを示した。残念ながら、モデル動物系での実験ではこの方法では完治を得るところまではいかないようだが、治療の選択肢は間違いなく増えた。他にも様々な可能性がリストに上がっており、治療が困難だったフィラデルフィア染色体陽性ALLも根治可能になると期待している。それはともかく、1990年代、リンパ球の増殖や分化を調節するシグナルについては詳しい解析が進んだ。この成果を臨床に生かす研究が今加速していることを実感する。

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